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次世代育てる「ニセコルール」

2012年3月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 「ニセコルール」は、ニセコ近隣のスキー場でコース外を滑走するバックカントリースキー、スノーボードを行う人たちを、雪崩や遭難から守るために作られた。ゲートを設置し、オフピステ(スキー場外)へのアクセスをコントロールしたもので、以前このコラムで紹介した冒険家でニセコ雪崩調査所の所長である新谷暁生さんが考案した。
 このルールのおかげで、スキーヤー、スノーボーダーが安全に滑れるようになり、オフピステに広がるニセコの大自然を満喫する人も増えた。

 最近ルールに新しい条項が加わった。「小学生のみのスキー場外滑走を禁止する。ただし少年団活動など指導者及び保護者同行を除く」の一文だ。
 以前なら大人でもちゅうちょするような領域に、最近は小学生だけで入るようになった。これからは子供たちの指導にも気を使わなければいけない、と新谷さんは言う。しかし、アウトドアに飛び出す元気な子供たちの姿を思い浮かべてか、目元がほころび嬉しそうな顔をしていた。

 これは先月、新潟県のかぐらスキー場で行われたスキー試乗会でのやりとりだ。新谷さんはこの時期、ニセコで雪崩状況を検証し、ゲート前でスキーヤーに声をかけているはず。新潟にいることが不思議に思えて尋ねると「いやー、最近はしっかりとした若者が育ってきて、今では自分と同じようにできるのだ」という答えが返ってきた。
 新谷さんの雪崩情報は的確なことで有名だ。彼の多くのアウトドア経験と知識、地道な観測がそれを可能にしている。後継者を育てるのはなかなか難しいのだが、地道に取り組む新谷さんの後ろ姿を見ることによって次世代が育ってきた。

 山岳救助や登山医学が発達している欧米は、その分野で最も進んだシステムとインフラを兼ね備えている。発展の理由は守り手たちがプレーヤーであり、アウトドアの楽しみを熟知しているからだ。「好きこそものの上手なれ」を体現しているといえる。
 スキー場外に対して閉鎖的であった日本のスキー界に一石を投じたニセコルールも、大自然の楽しさを次世代に伝えるための土壌づくりであるといえる。大切なのは、若者が大自然の驚異・危険と真摯に向き合いながらも、楽しみを享受し、いかに新たな世界へ飛び出していくかなのだ。

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