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ロッカースキーの魅力

2012年1月28日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ロッカーとは英語で「揺りかご」などの意味があり、また、その揺りかごの底にある丸い形状を指す言葉でもある。ロッカースキーとはその名のごとく、揺りかごの足のように前後に丸みを帯びたスキー板だ。

 今まで僕らがなじんでいたスキーはキャンパーといって横から見るとむしろ足元(板の中心部)が最も高いアーチ構造になっており、荷重すると平に重心が分散される仕組みだ。
 この形状は整地されたゲレンデでは安定性につながるが、ゲレンデを離れたオフピステ(非圧接面)の障害物が多い自然環境では均一に体重が加わると引っかかりやすく、細かい衝撃を拾い、そのたびに余計な負担が足にかかる。だが、板の先端や後端に若干の丸みを帯びたロッカー構造では引っ掛かりが軽減し、障害物も容易に乗り越えられる。さらにパウダー(深雪)では浮力が生まれる。

 この革命的な形状を最初に取り入れたのは、カナダ生まれのスキーヤー、シェーン・マッコンキ―だ。2003年、彼は遊び半分にアラスカの斜面を、元来ロッカー形状である水上スキーで滑った。その時に感じた感覚があまりにも面白かったため、スキーメーカーにパウダースキー用として開発を依頼した。
 「ソーサーボーイ」(魔術師)の異名を持つシェーンは、より自由に過激にスキーの枠を超えた「フリースキー」というジャンルをつくり、なかでもスキーとパラグライドを使った「スキーベースジャンプ」で世界中の雪山の目もくらむ崖を飛ぶことで名をはせた。シェーンは01年、米国スキーイングマガジンで北米ナンバーワンスキーヤーに選ばれている。

 実はロッカー形状は安定性を失うため、スキー界の中では最もタブー視されていたものの一つだった。しかし、構造的に組み込まれたロッカーは安定し、その用途に応じてアルペン(競技)スキーからパウダースキーそしてスノーボードにまで幅広い場面で使われるようになり、先週、軽井沢で行われた「K2」のモデル発表会ではすべての機種にロッカー形状が組み込まれていた。
 シェーンの飽くなき「遊び心」が新たなスキームーブメントとなり、日本のスキー発祥101年目を迎えた今シーズン、より自由な銀世界の楽しみが広がった。

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