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三浦豪太の探検学校

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冒険心や探究心溢れる三浦豪太が世の中について語った日本経済新聞の連載記事「三浦豪太の探検学校」(2019年3月に最終章)の、リバイバル版。わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリ…
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2021年6月の記事一覧

支援活動「繋ぎ隊」

2011年6月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  6月からFM仙台で「繋(つな)ごう明日へ」という番組がスタートした。ミウラ・ドルフィンズの元メンバーだった庄司克史さんが所属する仙台の和顔施(わがんせ)塾が中心となり、塾長の黒沢としみさんがパーソナリティーを務め、被災地の状況を現地でかつやくするボランティアを通じて伝え、心と身体を元気にする番組だ。FM仙台は宮城県全域をカバーする広域ラジオ局で、リスナーの多くは被災者たち。番組は彼らをつなげ、応援する役割を担う。  

ひらめきの芸術

2011年6月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  フリークライマーの平山ユージさんがマレーシアにある東南アジア最高峰のキナバル山(標高4095㍍)での難関未踏ルートに登るため、僕達の低酸素室でトレーニングしている。  平山さんは日本が誇る世界的フリークライマーだ。ワールドカップで総合優勝2回。日本最難ルートとされる奥秩父・二子山のフラットマウンテンを初登し、米国ヨセミテ渓谷の岩壁エルニーニョなどの難登ルートを記録的タイムで制覇するなど、世界の最前線を追い求め続けてい

祖父の体力支えた運動

2011年6月4日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週末、国立京都国際会館で行われた「第11回日本抗加齢医学会総会」では、最新の老化のメカニズムの解明から臨床的な見地による老化抑制、食、運動に至るまで幅広い研究が発表された。  祖父、三浦敬三は101歳で生涯を閉じるまで、1年に110日間もスキーをしていた。その秘密が祖父のライフスタイルにあるのではないかと、研究の対象になったことは少なくない。食事に関して祖父は必ず毎食少量でも栄養バランスがとれるよう工夫し、7~8品を

MTBに必要なマナー

2011年5月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  昨日まで春の全国交通安全運動期間だった。自動車に交じって心なしか都内で自転車通勤が増えた気がする。以前、健康面から自転車使用の利点について書いたが、震災後、節電や省エネ意識によって利用者が増加したのか。このまま定着すれば幸いだ。  ここで重要なのがマナーとなる。山には自然を相手にした山のルールがあり、従わないと手厳しいしっぺ返しがあり、さらには命まで落としてしまいかねない。街中でも安全への共通意識から成り立つ交通ルー

心と身体つながる感覚

2011年5月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  スポーツにはイメージトレーニングというものがある。実際に試合や運動を行う前に頭の中で正確に自分のすべきことをイメージし、理想のパフォーマンスを頭の中でリハーサルするのだ。  スキーのモーグルのように複雑な動きが同時に行われるとき、僕はイメージと一緒に注意点を1つか2つにまとめて、それを試合前にキーワードとして使う。もちろん、これは長い時間をかけ練習を通じて頭と体に対し何度も命令系統を作り込むことが大事であるが、こうす

富士登山者の安息地

2011年5月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  2年後のチョモランマ登山を目指して、父、三浦雄一郎が本格的なトレーニングに入る。そのスタートとして選んだのは、やはり僕達親子にとってかけがえのない大きな存在である富士山だ。  4月30日からゴールデンウィーク前半の4日間、標高2230㍍、5合目にある佐藤小屋という創業97年であり、富士山で唯一年間を通して営業している山小屋を拠点とした。  富士は夏に30万人以上訪れ、大衆の山というイメージがあるが、夏と冬では全く違う

ソングラインが世界へ

2011年4月30日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕が好きな旅の本の中にイギリスの旅行作家であるブルース・チャトウィン著の「ソングライン」がある。これは広大なオーストラリアの先住民族であるアボリジニに伝承される「歌の道」の話だ。  オーストラリアに住むアボリジニはそれぞれの一族が崇拝する動物がある。ワラビー族であるとかコアラ族であったり、小さな虫族であったりもする。 それぞれの一族には歌があり、その歌が示しているのはオーストラリア全土に広がる大岩、小岩、砂利道、土

すくわれた無力感

2011年4月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週、宮城県沿岸部に入り、仙台に住んでいる知人と仙台近郊、気仙沼、女川町、牡鹿半島などで物資支援を行ってきた。今回の震災による津波の深刻な被害は東北地方沿岸部全体という巨大なスケールのため、いまだ全体像がつかめていない。  仙台近郊では流通が回復し物資が行き渡ってきたが、今も続く余震や避難時に負った肉体的、精神的な傷は癒えておらず、心と体の双方に働きかけるプログラムが必要である。  女川町や気仙沼の個人の自宅に避難

高校生の善意

2011年4月9日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  東日本大震災の被災地の状況は刻一刻と変わる。支援活動を続けている僕たちは先週、被災地の現状を把握するため、クラーク記念国際高等学校(以下クラーク)の緊急指定車両に乗り込み、職員と一時避難していた生徒と共に仙台へ向かった。  クラークは三浦雄一郎が校長を務める広域通信制の高校で、通信制でありながら人から人に伝える対面教育を重視し、個々の生徒のニーズに合った教育を実施している。そのため実際に教室で学べるキャンパスで通信教

心を支える難しさ

2011年4月2日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  東日本大震災から2週間後の先週末、ミウラ・ドルフィンズのスタッフである安藤隼人が登山医学会の医療派遣隊と共に医師チームのアシスタントとして宮城県北東部にある石巻市北上町に入った。  鹿屋体育大学で運動生理学の修士を持つ彼は元トライアスロン選手で、低酸素室のチーフトレーナーとして活動しており、健康運動指導士として医学と登山技術に精通している。  北上町で安藤が目にしたのは圧倒的な津波の破壊力に押し流された漁村や町並みで

できることを行動に

2011年3月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  東日本大震災発生時に僕は家族と逗子の家にいた。逗子に被害は及ばなかったが、大津波警報による避難勧告が出て高台にある南郷中学校に避難した。  先生方は快く僕らを受け入れてくれた。そのうえ水、食料、毛布、ストーブまで用意してくれた。その夜はとても冷え込み、毛布2枚かけても寒かった。夜中に度々起きて、温かい飲み物を手に取ってストーブで暖をとる。逗子でもこれほど寒いのだから東北地方の寒さは想像を絶するのだろう。  震災直後

山ダイエットの心得

2010年6月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  最近では、若い女性とも山道でよくすれ違う。数年前まで中高年の登山ブームと騒がれていたが、トレイルランニングがひそかなブームになっていることや、登山道具に若い人向けのファッショナブルなものが増えてきたこと、さらには登山にダイエット効果を期待している面もあるのだろう。  鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センターの山本正嘉教授とミウラ・ドルフィンズのスタッフらが1カ月にわたり、①食事指導のみのグループ、②食事指導

登山と遺伝子

2011年3月5日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週、順天堂大学大学院博士課程3年目の研究発表をポスター形式で行った。  所属する加齢制御医学で僕が挑んだテーマは「低酸素化における遺伝子発現」。遺伝子発現とは環境や刺激によってその時に必要な情報を読み取り、肉体に変換される過程をいう。この研究は3年前の三浦雄一郎とのエベレスト遠征と同時に始めたものだ。内容は僕と父を含めた4人の8000㍍峰登頂経験者と高所経験のない被験者が低酸素室に入る前後で白血球の遺伝子がどう変化す