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高校生の善意

2011年4月9日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 東日本大震災の被災地の状況は刻一刻と変わる。支援活動を続けている僕たちは先週、被災地の現状を把握するため、クラーク記念国際高等学校(以下クラーク)の緊急指定車両に乗り込み、職員と一時避難していた生徒と共に仙台へ向かった。

 クラークは三浦雄一郎が校長を務める広域通信制の高校で、通信制でありながら人から人に伝える対面教育を重視し、個々の生徒のニーズに合った教育を実施している。そのため実際に教室で学べるキャンパスで通信教育の利点を生かした柔軟なカリキュラムを展開している。現在、国内に61か所、そしてオーストラリアにもキャンパスがあり、1万人以上の生徒がいる。
 震災の3月11日はちょうど、仙台キャンパスの卒業式の日で、まさに卒業証書を手渡すさなかだった。先生は生徒を避難所に誘導、そこで一晩過ごした。翌日、家族の元へ送り届けたが、電気も不通、電話もなかなかつながらない状況で、その後も生徒228人の安否確認を続けたという。

 全国のクラーク生から贈られた支援物資は、東京キャンパスを経由して被災した仙台キャンパスに運び込まれた。職員は生徒たちと共に物資を避難所へ届け、炊き出しや、生徒の得意な歌や踊りのパフォーマンスで避難所の空気を明るくしてきた。
 クラーク生の多くは小・中学校時代、不登校経験があったというが、今の彼らからは全くそんな感じは受けない。みんな明るく純朴で好奇心に満ちた目をしている。何よりも自らも被災しながら、避難所で生活している人たちの役に立ちたいという気持ちが素晴らしい。
 僕が同行した時、生徒は東京キャンパスから届いたメッセージ付きのお菓子を携えて行った。彼らは避難所の皆さんから盛大な拍手で迎えられ、涙ぐみながらお菓子を受け取る姿があちこちに見られた。

 震災から3週間、仙台近郊では流通が回復しつつあり物質的な面では良くなってきた。しかし避難所生活を送る多くの人たちは家や職、そして身近な人を失い、大きな心の傷と将来に不安を持っている。被災者の皆さんにはいま、親身に寄り添う存在が必要であろう。地元の若い高校生たちの懸命で、役に立ちたいという素直な心、その真摯な姿に僕は温かい支援の在り方を学んだ。

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