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心と身体つながる感覚

2011年5月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 スポーツにはイメージトレーニングというものがある。実際に試合や運動を行う前に頭の中で正確に自分のすべきことをイメージし、理想のパフォーマンスを頭の中でリハーサルするのだ。
 スキーのモーグルのように複雑な動きが同時に行われるとき、僕はイメージと一緒に注意点を1つか2つにまとめて、それを試合前にキーワードとして使う。もちろん、これは長い時間をかけ練習を通じて頭と体に対し何度も命令系統を作り込むことが大事であるが、こうすることによって自分を制御する感覚が研ぎ澄まされ、試合への不安が低減される。

 僕が中尾和子先生に東日本大震災の被災者支援活動の一環として、運動プログラムの指導をお願いしたのもこうした自分の経験に基づくからだ。中尾先生は「ボールエクササイズ」を通じて心と体をつなげる作業を重視する。
 先生が運動に入る前に、かなり細かく解剖学的に体の内部を説明する。背骨を中心とした構造から四肢、頭、指の先端に至るまで、一つひとつを意識して動かす、またはリラックスさせる作業を参加者と共に行う。

 言葉で聞いて解剖学的に理解し、作業することを「ボディマッピング」という。それによってこれまで長年、自分の体と付き合いながらも初めて気がつくことが多い。例えば耳のすぐ横にある顎の付け根に両手を当てて、口を開け閉めすると左右均等に閉まらないことに気がついた。頸椎の最初は耳の横から始まる。そのため体全体のゆがみがこうした場所に出るのだ。また呼吸によって不安を低減する方法や、それに基づくリラクゼーションなど、これまで知らなかった自分の体のことを知れば知るほど面白く、こうした作業を通じて自分へのコントロール感が増し、心も軽くなる。

 今回の災害支援の一環で避難所で不安を抱えている被災者だけではなく、サポートするボランティアの方にもボディマッピングを行った。僕自身の経験では、震災の甚大な被害を目の前にすると無気力になったり、反対に頑張りすぎたりしてしまう。そうしたときに1つ2つ深呼吸し、自分の体とつながっている感覚を確認すれば安心感を得ることができる。アウトドアの基本はセルフレスキュー、自分の身は自分で守るのが大事なのである。

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