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MTBに必要なマナー

2011年5月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 昨日まで春の全国交通安全運動期間だった。自動車に交じって心なしか都内で自転車通勤が増えた気がする。以前、健康面から自転車使用の利点について書いたが、震災後、節電や省エネ意識によって利用者が増加したのか。このまま定着すれば幸いだ。
 ここで重要なのがマナーとなる。山には自然を相手にした山のルールがあり、従わないと手厳しいしっぺ返しがあり、さらには命まで落としてしまいかねない。街中でも安全への共通意識から成り立つ交通ルールが守られなければ、山の雪崩や遭難と同様、命が危険にさらされる。

 僕が大好きなマウンテンバイク(MTB)は、山と街のルールが混在する中間的な立場にある。山道(トレイル)も走れる自転車で、自然の地形に合わせた動きが求められる。これがスキーに似ているため夏場のトレーニングにはもってこいなのだ。
 僕を逗子の山に導いてくれたのは地元のMTBガイド、千葉英治さんだ。三浦半島のトレイルを開発した先駆者の一人であり、地域に密着しながら17年間MTBの保全・普及を行っている。

 彼を通じて僕は、MTBに乗るための心構えを身に付けた。MTBは山に入れる自由度がある代わりに、同じ道を利用する登山者やハイカーたちの脅威にもなる。
 事故を起こした場合、自分だけでなく相手にもケガをさせてしまうため、原則、ハイカー優先として、必ずコントロールできる範囲内で乗る。ハイカーとすれ違う時は自転車から下りて安全を確認し、挨拶を交わす。そして先頭は常に鈴をつけて乗り、不意に後ろから近づいても驚かせないように配慮することなどを奨励している。また雨あがりはトレイルを傷めないようMTBでは立ち入らない。逆に台風などでトレイルが荒れている場合は率先してメンテナンスしたり、ゴミ拾いしたりする。
 こうした地道な活動が、一部の地元の人たちにも理解され、トレイルの共有につながっている。

 エベレストではシーズン中、500人近い人が頂上を目指す。そこには自然のルールはもちろん、お互いに配慮した人同士のルールが存在する。アウトドアでは大自然へのリスペクトや共存が大切であるが、それ以前に人としての思いやりが安全とフィールドを守る。

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