よく目立つ奇妙な人は生き方に悩んでいる(短編小説)

  *

 人から、よく目立つ、と言われる。

 あまり目立ちたくはないが、目立ちたいときもあり、しかし、正直どっちでもないのだが、良くも悪くも目立ってしまう。

 たぶん、僕は奇妙な人であるのだろう。

 それも、よく目立つ奇妙な人だ。

 昔は人に笑われることが嫌だった。

 バカにされているようで、アホに見えるようで、恥ずかしかったのだ。

 だから、僕は引きこもりになった。

 人から笑われたくなかったからだ。

 奇妙な人であると自覚した今、僕には、ただ、そう思われることに対する抵抗感が、とても残っている。

 今は、少しだけ大人になった。

 いわゆる大人だと言える年齢になり、そういうポジションが楽であることに気づいたからだ。

 むしろ、その笑われる、にぎやかで奇妙な自分が好きなのかもしれないと思うこともある。

 おかしなことに。

「…………」

 僕は、自分の部屋のベッドの上で仰向けになりながら、天井を見ていた。

 そして、考える。

 ――なぜ、僕は生きているのか?

 それは、僕の頭の中で、いつも繰り返される問いであり、答えのない問いであった。

 僕は生きる意味がわからなくなっていた。

 いや、わかってはいるけれど、それを言葉にして考えたくないというのが本音なのである。

 そんなことをすれば、この世界に対して失礼だと思ったからだ。

 でも、そんなふうに思うこと自体が失礼なのではないかと思ってしまう自分もいる。

 矛盾しているとは思いつつも、やはり僕は、この世界で生きていかなければならない人間なのだと感じていた。

 この世界に対して、誠実でありたかった。

 この世界に生きる、すべての人に対して、誠実でありたいと願った。

 だが、そんなことは無理なことだとも知っている。

 だからこそ、こんなにも悩んでいるわけだし、それでも、なお生きようとしている自分が不思議でならないのだ。

 この世界のすべてに対して誠実であろうとしても、それができない自分を責める気持ちもあったし、自分にはできないのではないかと思ってしまう気持ちもあった。

 それどころか、そもそも、この世界に対して誠実であろうとすること自体、おこがましいのではないかとすら感じてしまうことがある。

 なぜならば、この世界そのものが存在しているというだけで、すでに奇跡のようなものだと思っているからである。

 もちろん、そんなことを言ってしまえば、「じゃあ、お前が生まれてきたことも奇跡なのか?」と言われかねないが、少なくとも、生まれてくるということは奇跡以外の何物でもない。

 それだけではない。

 生まれてからもずっと成長し続けることもまた、奇跡のようなものだと言えよう。

 さらに、死ぬということだってそうだ。

 死んでいく人もまた、この世界になんらかの影響を与えているはずであって、つまり、すべての人が、なにかしらの意味を持って存在しているはずだと考えることもできる。

 まあ、そんなことを考えても仕方がないとは思うものの、どうしても考えずにはいられないのである。

 結局、堂々巡りになるだけだとわかっていても……。

「…………」

 今の僕は、たとえ見下される意味で笑われたのだとしても、もういいか、と思えるようになっていた。

 なんとなく開き直っているような気もするが、別に構わないと思うようになっているのも事実だった。

 要するに、僕は疲れてしまったのだろう。

 笑う人もいれば、笑わない人もいる。

 怒る人もいれば、怒らない人もいる。

 そういうものだと思うようになったのである。

 それでいいと。

 僕自身に対しても、そうであるように、すべての人に公平に接することなどできるはずもない。

 しかし、せめて、目の前にいる人たちに対しては、できるだけ誠実でありたいと思っていた。

 目の前にいない人たちにまで誠実でいる必要はない。

 僕は、そう思っていたい。

 僕は、ぼんやりと過去の記憶を思い出す。

 なにかのせいにしていたい自分がいた。

 その、なにかのせいで僕は苦しんでいた。

 だが、その、なにかがなくなった途端に、今度は自分が苦しむことになった。

 そういう経験をしたことがあったのだ。

 いや、今でも、まだ苦しい。

 誰かのせいにしたくて、しょうがなかったりもする。

 しかし、それではいけないとわかっていた。

 僕自身が変わらなければ、なにも変わらないということを知っていたからだ。

 だから、今は前を向いて歩いていこうとしている。

 過去にとらわれないで、未来を見つめて歩き出さなければならない。

 それが、きっと一番正しい道なのだろうと、僕は考えている。

 今の僕に対して、僕は、なにも言えることがない。

 にぎやかだけど、心の中が空虚なままの毎日を送っている。

 でも、それは僕が悪いわけではない。

 誰のせいにすることもできないし、たぶん、どうすることもできないことなのだと思う。

 だから、僕は、ただ、耐えるしかない。

 我慢しているしかなかった。

 ただ、それでも、やはり思うことはある。

 もし、もっと違う人生があったなら、どんな人生を歩んだのだろうか?

 今よりもマシな生活が送れたのかもしれない。

 あるいは、別の生き方ができたのかもしれない。

 でも、そんなことを言っていても始まらない。

 僕は、このままで行くしかなさそうだ。

 ――ああ、早く終わらないかなあ……。

 僕は、天井を見ながら思った。

 早く、この世界が終わってくれたら、どれほど幸せか。

 そして、僕は目を閉じた。

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