義肢のヒルコ 第7話

俺は言った。

「……空を飛んできたんだ」

「空を……飛んで?」

「そう。俺は……自転車で空を飛んできたんだ」

「……えっ?」

青葉ちゃんは思った。

(本当に頭がおかしくなってしまったのかな? そう思うのは失礼かもしれないけど……)

「それで俺の自転車は?」

「自転車? それは……」

青葉ちゃんは俺を運ぶだけでも手いっぱいだった。

あの海では悪神あくしんがいつ現れるかわからないからだ。

早めに自らのアパートに運び込むことだけでも青葉ちゃんの成果は十分だった。

「ごめんなさい。君の近くにあった自転車は置いてきてしまったの。君が倒れていた海岸に」

「……そっか」

俺は続けて言った。

「助けてくれたこと……感謝するよ。俺が回復するまで、こうやって見ていてくれたわけだし。普通はしないぜ。この日本ひのもとでは……な」

俺は振り返ってしまった。昔の記憶が映し出されているような気がした。

「青葉ちゃん、本当に……ありがとう」

「…………」

「青葉ちゃん?」

青葉ちゃんは俺から目をそらす。

(わたしは……醜い人間なんだ……だから……そんな……思われることなんて……思ってほしいとか思ったりして……だから……わたしは……)

「……違うんですっ!」

「へっ? ……はい?」

「わたしは普通じゃないんですっ! 気にしないでっ!」

青葉ちゃんは俺に心を込めて言った。

「そんなことより君は体調の心配したほうがいいと思うんだけど……大丈夫? なにも異常はないの? なんでも言ってよっ! なんでもするから……ね?」

「……なんでも?」

俺は、あどけない少女の体を見る。

ある部分を除けば平均的な体型ではある。

すらっとしているようにも見えるが、出るものは出ている。主に胸部が。

青葉ちゃんの胸は大きい。俺が見た女性の中で一番ではないものの……それなりに大きい。

まだ誰にも触れられたことがないような純粋さを感じさせられる。

それに青葉ちゃんの顔立ちは整っている。童顔だ。

うるっとした大きな瞳は、なにかを主張しているような感じで、唇は淡い桃色である。

「……どうしてほしいの?」

「……えっと……なあ……」

うっかり心の中に湧いた煩悩を振り払って、ごまかすように言った。

「ここでしばらく生活をさせていただけないだろうか?」

「ここで?」

「ああ。俺がこの地に来た目的は陰陽院おんみょういんに入るためなんだ」

「……そう、なんだ……」

青葉ちゃんは複雑そうな表情で俺を見る。

(彼も陰陽院おんみょういんの人間になってしまう。彼もわたしを……)

「……どうかした?」

俺は彼女に問いかけた。

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