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キミはボクの年下の先輩。第5話「むぅ、そんなに、いや、なのかい?」

  *

 ある日の昼休み、ボクと加連先輩は文芸部の部室で、お昼ごはんを食べていた。

 先輩のお昼ごはんはコンビニで売っている、がっつりと量のある唐揚げ弁当と一リットルのペットボトルの緑茶で、対してボクは少しの量の菓子パンとフルーツ牛乳。

 だんだんとわかってきたことだが、加連先輩は、とりあえず、量のある弁当やペットボトルを選ぶ傾向があることをボクは理解した。

「ショタくん、その量の昼食ばかり取っているようだけど、それじゃあ、立派に成長できないぜ」

「いいんです。もう伸びないので」

「そうなのか? キミは、まだ高校一年生だろ? 高校から急激に伸びる場合だってあるぞ」

「いや、もう、親の遺伝で伸びないことがわかりきっているので」

「そう、なのかぁ……?」

 加連先輩はボクの発言に首を傾げている。

 しかし、もう背が伸びないことは事実である。

 なぜならボクは今年、十八歳になる予定の人間だからだ。

 ボクの両親は、父親も母親も背が低いため、絶対に身長は伸びないだろう。

 また、親戚一同で背が低いことからもわかるように遺伝もかなり関係していると言えるかもしれない。

 そんなことを考えているボクは菓子パンをフルーツ牛乳を飲みながら一緒に食べていく。

「ショタくん」

「なんですか?」

「はい、あ〜ん」

「あ〜ん……?」

 加連先輩はボクの口に向けて、唐揚げを一欠片、プラスチック容器の弁当箱から箸で取り出した。

「えっ?」

「ほら、食べたまえ」

「い、いや! 大丈夫ですから!」

「いいから、食べるんだ! これはシチュ活のひとつだ!」

「は、はい!?」

 ボクは思わず唐揚げを食べてしまう。

 コンビニの唐揚げって感じがする唐揚げだった。

「どう、だね? おいしいかい?」

「はい……おいしい、です」

「そうか、そうか。それは、よかった」

 加連先輩は笑顔でボクの頭を撫でてきた。

「ちょ、ちょっと! なんで撫でるんですか!?」

「いや、なんとなくさ……」

「やめてくださいって!」

「照れるなよ、ショタくん」

「照れてない!!」

 ボクは、また彼女にウソをつく。

「そういえば、ショタくんの髪の毛は、いつ見てもサラサラしていて、すばらしいね……」

「そうですか? 普通だと思いますけど……」

「いいや、そんなことはないよ。やはりキミは、いい……」

「……そんな恍惚の表情でボクを見つめないでください!!」

「むぅ、そんなに、いや、なのかい?」

「嫌です!」

「そこまで、はっきり言わなくても……いいじゃないか……」

「……そこまで、落ち込まないでください」

 彼女は半泣き状態になっていて、ボクは罪悪感を抱いてしまう。

「そこまで落ち込むことではないですよ! ちょっと、やめてほしいなって思っただけですから!」

「……ほんとに?」

「はい!」

 ボクが返事をすると、ぱあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ! という効果音が流れるような感じで彼女は笑顔になる。

 ほっ、と、ボクの心は落ち着いていく。

 この先輩を泣かせると、あとが怖い気がする、という意味で笑顔になってくれてよかった。

「……キミに嫌われたのではないかと心配したぞ」

「まさか」

「そうだよ。だって、私たち、こんなに仲良くしてるもんね」

「あぁ、はい、そうです」

「この関係を壊すことにならないように、これからも仲良くしてね」

「もちろんです」

 先輩はボクに対して優しい気がする。

 彼女と一緒にいるときは、いつも楽しい気持ちになっていると思う。

「ショタくん」

「はい?」

「私も、あ〜ん、したいんだけど?」

「えっ」

「ほら、その菓子パンを、あ〜んしたいんだ」

「ダメです」

「なんで?」

「なんで、って、それは……」

「ん?」

「恥ずかしいからですよ!!」

「そこをなんとか!」

「なんでですか!?」

「私もショタくんに、あ〜ん、されたい〜!」

「そこまで!?」

「欲求不満が抑えきれないんだ〜!」

「えぇっ!?」

「ほら、ショタくん!」

「ちょ、ちょっと!」

 加連先輩が無理やりボクの菓子パンに狙いを定める。

「さぁ、ほら、あ〜ん!」

「……はい、あ〜ん……」

 ボクは菓子パンの最後の一欠片を持って、先輩の口に入れていくのだが、その瞬間だった。

「あ〜……ん、ちゅっ」

 先輩は菓子パンを持っている僕の指に対して口づけする。

「なっ!? な、なにするんですか!?」

「ん〜……? なにかな〜……? ちゅっ」

 また先輩は、かぷっ、とボクの指を甘噛みしてくる。

「ひぃっ!?」

 ボクは変な声を出してしまう。

 それが面白かったのか、ケラケラと笑う加連先輩。

「ふふっ……ふははははっ!」

「もう、なんでこんなことするんですか!?」

 なんか、よくわからないけど、先輩に振り回されてる感が否めない……けど、そんな時間が幸せに思えたので少しだけ許してあげたい。

 いや、でも、だけど、なんでボクが許そうとしているの!?

「…………ぺろぺろ」

「ぺろぺろ!?」

 先輩は再び、ボクの指を舐めだした。

「なっ、なっ、まだ、どうして!?」

「んっと、菓子パンの残り香が指に、まだ残ってると思って」

「もう、やめてぇ……!!」

「ほら、ぺろぺろ」

「ひぃっ……!?」

「そんな声を出す割には嬉しそうだけど……?」

「な、なに言っているんですか!? そんなわけないです!」

 確かにボクは嬉しい。

 しかも、年下の彼女に、こんなことをされるなんて、成人年齢に達するボクからしたら、ご褒美であることは間違いない。

 けど、これ以上はダメだ。

 ボクは彼女から距離を置く感じで。

「ほら、もう、食べ終わりましたよね!? いったん文芸部のシチュ活は終了です! お先に失礼しますね!!」

「えぇ……」

 ボクが部室から出ようとすると、先輩が後ろから抱きついてきた。

「まだ昼休みは終わってないぞ?」

「そ、そうですけど……」

「教室に戻っても、どうせ、ひとりぼっちになって机で寝たふりをするだけだろ?」

「な、なんで、それを知っているのですか……?」

「キミと出会った時間は短いけど、それなりに仲良しじゃないか。わかるよ、それくらい……」

「なっ……!?」

「逃がさないぞ……!」

「あっ!?」

 彼女は部室の部屋の鍵を閉める。

「あのぉ〜……加連、先輩?」

「キミと私のシチュ活は、まだ始まったばかりだっ!」

 加連先輩は、まだ残っているコンビニ弁当の唐揚げを箸で持ちながら。

「ほら、あ〜ん」

「……あ〜むっ!」

 と、ボクが唐揚げをくわえた瞬間。

(……んっ!?)

「んっ」

 年下の彼女もボクがくわえている唐揚げに口づけした。

 物理的な距離が近すぎる……!!

 ボクは彼女の口に触れないように、すぐに唐揚げを噛み切った。

「…………!」

 彼女は目を閉じていたが、唇の感覚が伝わっているのか、ボクと唇と彼女の唇が触れ合っていないことを理解しているようだった。

「……ん〜っ? 唐揚げの味しかしないなぁ……」

「唐揚げを食べてるんだから当然でしょうが」

「このイベントを拒絶するなんて、文芸部のシチュ活の意味がないぞ」

「なくて結構です。というか、加連先輩って、一年前も誰かに……こんなことをしていたのですか?」

「へぇ、知りたい?」

「だとしたら、あまり言いたくないけど、真面目な行動ではありませんね。正直、ボクは、そんな人、嫌いです」

「傷つくなぁ……でも、安心してよ」

「なにを、ですか?」

「私はキミ以外の人間に、こんなことしないよ」

 と、彼女は人差し指を立て、その指を唇に近づけて、言った。

「私はキミにしか興味がないからね」

「それって、どういう意味ですか?」

「さぁ、どういう意味だろうね」

「どうして、そんな、はぐらかすような言い方をするんですか?」

「それも、ひ・み・ちゅっ!」

 彼女は笑いながら、この状況をごまかす。

「あっ、もう昼休みが終わるね! 今日のシチュ活の感想文は放課後におこなうから、今のことは、しっかりと脳内に刻み込んでおくんだよ! それじゃあ、ま・た・ねっ!!」

「…………」

 ボクの年下の先輩はミステリアスで、ちょっとだけ小悪魔なことを理解してしまったボクだった。

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