記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【ネタバレ注意】○○○のルーツをみた〜『よって件のごとし』読書感想文


ホラー小説は好きだけどホラー映画は苦手。ホラー映画の中でどうにかこうにか、なんとか我慢して観ることが出来るのがゾンビ映画だ。とはいうものの、好んで観たりはしない。我慢して娯楽に興じる必要はないから。ただ、他のいわゆるスプラッターホラーみたいなのとゾンビものには明らかに違う点があって、そこが、まだなんとか観ることが出来る理由な気がしている。


その違いに気付いたのは『新感染ファイナルエクスプレス』を観た時。韓国のゾンビ映画の金字塔とも言える作品。誰もがすすめるゾンビ映画。ゾンビ映画なんて、どれも大体同じじゃないか?そう思っていたのは大間違いだった。これがホントに素晴らしいゾンビ映画だったのだ。そしてこれを観て気付いたのだ。他ジャンルのホラー映画とゾンビ映画の決定的な違いに。


それは、ゾンビになってしまった者たちが全然知らない人じゃなく、家族や友達だという点。だから、ちょっとだけ信じたくなったり、潰すのを躊躇したりする。そういう、人間の切ない感情がゾンビ映画にはある。怖いのに泣ける。

「あぁ‥」「そうきたか‥」「なんということだ」‥etc

ただ怖がらせるだけじゃないのがゾンビ映画だ。

よって件のごとし〜三島屋変調百物語八之続/宮部みゆき

前振りでこれだけゾンビの話をしてしまったからきっとゾンビの話なんだな、って分かってしまったと思うけどそれは3つあるお話の中の1つなので安心して読んでいただきたい。あとの2つは、“呪いを飲み込んだ少年”の話と、“神に見初められた兄を想う娘”の話。ホラーというよりファンタジーに近いかも。


このシリーズもこれで8作目。シリーズを通して多少の伏線があるので順番に読むことをもちろんおすすめしたいが、怪談話を読むということに重きを置くなら途中からいきなり読んでも楽しめる。今8作目で34話。1年に1冊ずつ、それぞれ4話ずつ収録されているとしたら、百物語が完成するには少なくともあと15年はかかりそう。


それはさておき、ゾンビ。ここではゾンビという名前ではなく“ひとでなし”と呼ばれてる。地鳴り(地震)で出来た地割れから発生して、人間を襲い襲われた人間もまた“ひとでなし”になる。自分の欲望のまま誰彼なく襲いかかる、それは人の姿に似てはいても人ではない=人でなし。今だったら、どこそこの町で“ひとでなし”が発生して人々を襲ってるー!なんてネットニュースになれば、そこには行かないとか安全な所に逃げるとかの対処が出来るし、どうやって倒すかなんてこともネットで調べることが出来る。だけどこれは江戸時代のお話。情報を得るには聞き伝えの方法を実際にやってみるとか、誰かが実際に見に行くとかしないといけなくて、とにかく危なっかしいったら。ドキドキ。犠牲になる人がいてくれるから、そこから学ぶことが出来る。悲しいけれど仕方ない。それに、やっぱり知ってる人が“ひとでなし”になっちゃってたりして、例えば弟を探してたお兄ちゃんは皆と逃げることを躊躇する、それは弟を置き去りにすることになっちゃうからって。普通に考えたら“ひとでなし”がうようよいる村で、無事でいると考える方が無理があるわけだけど、諦めきれない。皆で説得して一生に逃げるって決めたところで襲ってきた“ひとでなし”が弟だったりするからもうっ。泣けるぅ。


『新感染』でもやっぱりそういうシーンはあって、ていうかそういうシーンの連続と言ってもよくて、ゾンビってなんでこんなに泣けるんだろうって。号泣しながら観たからね。誰かを守るために犠牲になっていく人たちのなんとカッコいいことか。現代だったら、科学的に説明が出来ないことを信じろというほうが難しいが、呪詛が行われていたり、歩き巫女みたいな人がもてはやされたり、病気さえも祟りや障りと考えられていた時代、意外と不思議な事は頻繁に起きていたのかも知れない。分からないことや理解出来ないことを「そういうことも、あるのかも」と受け入れて、恐れたり感謝したりしながら怪異と上手に付き合っている。特にかたい信仰心は、現代の私たちの比ではない。


タイトルの『よって件のごとし』の意味するところを知る時、危険を顧みず困っている人を助けに行った人々の勇気に拍手を送りたくなる。


おまけ

本を開くと左側に可愛らしい子が
覗くデザイン
怖い話に緊張して、ふとこの子が
目に入ると癒されます





この記事が参加している募集

#読書感想文

192,504件

#ホラー小説が好き

1,117件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?