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おじいちゃんが孫に教える世界一たのしい経済の教科書3


第1章 経済ってなんだ?


◉「ほしい」をお金を使って実現する

そもそも経済とは、「お金のやりくり」のことだよ、領太。

お金のやりくり?

そう。お金を稼ぐことや、お金について考えることを「経済」というんだ。江戸時代には、すでに経済という言葉が使われていたともいわれているんだよ。

江戸時代? そんな昔からある言葉なの?

そうとも。江戸よりもっともっと前では「経世済民」といわれていて、「世を経めて民の苦しみを済う」という意味だったんだ。お金のやりくりという意味とは少し違うけど、時代と共に使い方が変わり、呼び方も短縮され、「経済」という言葉が定着したというわけ。

なるほどね~。経済がお金に関わることだってことはよくわかったよ、おじいちゃん。……じゃなくて、おじい先生。

よしよし、さすがワシの孫だ。のみ込みが早い。

でもさ、お金のやりくりのことを経済というのだとしたら、やっぱり、ぼくみたいな子どもには必要のない知識なんじゃない?

な、何を言うか! 領太君よ、よーく聞くがいい。

はい! 先生!

君は、おこづかいをもらっているね? 毎月いくらもらっているかい?

えっと……3年生になってから100円アップしたから、毎月600円もらってます! 先生!

では、その600円をいったい何に使ってる?

うんと……もらったその日にまず漫画を買ってぇ、それから……。

はい、ストーップ!

なに?

漫画を買う。それが経済だ。しかも君は、「まず漫画を買ってぇ」と言った。この「まず」という計画そのものが経済なんだよ、領太君。

そっか。ぼくは無意識に「お金のやりくり」をしていたんだ。

そういうこと! 子どもだからといって経済の知識は必要ないなんて大間違い! 学校帰りに寄り道して駄菓子屋でスルメジャーキーを食べている、その行為そのものも経済なんだ。

え? なんで寄り道してること知ってるの? 幽霊やばっ。なんでもお見通しじゃん。

そうだ。なんでもお見通しだ。スルメジャーキーを戸棚にかくしていることもな。

あ! もしかして、僕が大事にかくしておいたスルメジャーキーを食べたのは……おじいちゃん?

おじいちゃんじゃない! おじい先生だ!

嫌だよ、なんで泥棒に「先生」をつけなきゃいけないのさ。

まぁまぁ、そうカタイこと言うなって。今度、新鮮なイカを持ってきてあげるから。

幽霊からの貢ぎ物なんていらないよ。新鮮っていったって、どうせ死んだイカでしょ。

……。

おじいちゃん? どうしたの?

……。

もしかして……泣いてるの?

孫に……幽霊呼ばわりされる日が来るなんて……。ワシが生きてさえいれば……。

ごめんね、おじいちゃん。ごめんってば……。もらう。死んだイカもらうよ。でも、できたら干してジャーキーにしてからくれるとありがたいな。なんなら、完成したジャーキーを売って、儲けたお金をぼくにちょうだいよ。

領太……お前は天才か?

は?

なんということだ! ワシの孫は経済の天才だ!

どういうこと? おじいちゃん。

つまりだな、「お金のやりくり」のことを経済というと教えたけれども、もっと詳しく言うと「ほしいという気持ちをお金を使って実現すること」なんだ。

ほしいという気持ちをお金を使って実現すること……?

すなわち! お金を払うことで本屋さんは漫画を渡してくれ、お金を払うことで駄菓子屋さんはスルメジャーキーを渡してくれるが、これはまさに「ほしいという気持ちをお金を使って実現している」ことになるよね。また、漫画が完成するまでには、さまざまな人が関わっているよね? 漫画家が漫画を描いて、印刷屋さんが印刷して、本屋さんがそれを売って……。スルメジャーキーも同じで、漁師さんがイカを釣ってきて、それをさばいて、工場で乾燥させたり、袋に詰めたり、それでやっと領太の手に渡る。つまり、さまざまな人と過程を経ることでお金が流れている。さらには、高すぎたら売れないし、安すぎたら作っている人たちにお給料を払えないし、そういったお金のやりくりをすべてひっくるめて「経済」というんだ。そのことを今、領太は自然と語った。死んだイカを干して、ジャーキーにして売る……と。わずか小3にしてお金の流れをサラッと語った……。お前は生まれながらにして経済の天才だ! 経済の申し子だ!

ねぇ、おじいちゃん。熱くなってるところ悪いんだけど、ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるんだ。

相談? なんだい? おじいちゃんになんでも言ってごらん。

この前ね、シカゴからマイク君って子が転校してきたんだ。

シカゴって……アメリカの?

そう、アメリカのシカゴ。

なつかしいなぁ。おじいちゃんの第二の故郷といっても過言ではないよ。

え? そうなの?

おじいちゃんは、シカゴの大学で経済を学んだんだ。あぁ、生きてるうちにもう一度行きたかったなぁ。

そんなに行きたいなら、行けばいいじゃん。どうせ飛行機代かからないんでしょう?

どうせって……。領太よ、その「どうせ」は、「どうせ幽霊なんだから」という意味かい?

そうだけど、傷ついた?

傷ついたわけじゃないが……ま、いっか。それで?

マイク君とは言葉はあんまり通じないけどさ、「おいしい」と感じるものは同じかなと思って、帰りに駄菓子屋へ連れていってあげたんだ。でも……。

でも?

マイク君の持ってるお金がぼくの持ってるお金と違っていたから、スルメジャーキーを買えなかったの。

なるほど。そういうことか。

ねぇ、おじいちゃん。どうしたらマイク君もスルメジャーキーを買うことができるの? 今日は、ぼくが買ったのを半分あげたけど、二人とも一袋ずつ買うにはどうしたらいい?

領太、君はとてもいい経験をしたね。お金というものは、国ごとに違うんだ。

国ごとに違う?

そうだよ。色も形も違うし、価値も違う。日本でお金を使う時、「それ何円ですか?」って聞いたりするだろう? アメリカ人が日本で買い物をする時は、日本のお金の単位である「円」にお金を替えなくちゃいけないし、逆に日本人がアメリカで買い物をする時は、アメリカのお金の単位である「ドル」に替えなくちゃいけないんだよ。

そういえば、駄菓子屋でマイク君は「ダラァ」とか「ドラァ」とか言ってたなぁ。チータラとかドラ焼きが食べたいのかと思ってたけど、「ドル」って言ってたのかなぁ。

おそらくそうだね。自分がいくら持っているかを領太に伝えようとしていたのかも。

そっかぁ。じゃあ、マイク君はどうやって日本のお金に替えたらいいの?

いい質問だ。領太がハワイへ行く時にも役立つから、よーく聞いておくんだよ。その前に……今、何時かな?

もうすぐ午後7時になるよ。

そうか。じゃあ、領太。この授業の続きをお風呂の中でするのはどうだい?

お風呂? おじいちゃんと一緒にお風呂に入れるの?

あぁ、おじいちゃんと一緒にお風呂に入ろうではないか。

とけて消えたりしない?

しないしない。おじいちゃんは雪だるまじゃないんだから。

やったー! ぼく、いつも一人でお風呂に入ってたから、つまらなかったんだ。

そんな気がしていたよ。

え? なんか言った?

いや、いいんだ。かわいい孫と風呂に入りながら、一杯ひっかけるとしよう。

それいいね! ぼくはジュースで一杯やろうっと!

よし、おじい先生はスルメとお酒を持って入ろっと。風呂なんて何年ぶりかなぁ。

ぼくのスルメジャーキーは盗まないでね。

……。

あ! 都合が悪いこと言われたからって消えないでよ! おじいちゃん!


次回、第2章 「円高・円安ってなんだ?」へ続く


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