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人と人、人とまちをつなぐ、岐阜市生まれのクラフトビール

俳句と暮らす vol.16

小さなビール醸造所で、醸造家が精魂込めて造るビール、クラフトビール。
クラフトビールが地域の魅力のひとつとして定番化し、さまざまなお店で各地こだわりのクラフトビールが飲めるようになりました。

それぞれ、趣向の異なる複雑で個性的な味わい。
醸造家のこだわりを詰め込んだもの、その土地の特産品などを原料に活用したものなど、新しいビールがどんどん誕生しています。

夏もすっかり深まり、まもなく夏も折り返しの「夏至」。
「ビールがおいしい季節になったね!」なんて会話が聞こえてきそうな蒸し暑い日が続いていますが、その通り、「ビール」は夏の季語です。
これまで多くの俳人が、夏のビールを爽やかに詠んできた歴史があります。


岐阜市に誕生した、“ナノ” ブルワリー

ビールの醸造所の中でも、大手メーカーとは違う規模の小さい醸造所を「マイクロブルワリー」と呼びます。
こうした小さな醸造所では、さまざまな味わいのビールを少量で仕込めるため、醸造家の想いを詰め込んだ、こだわりのビールづくりが可能です。

近年、そんなマイクロブルワリーよりもさらに小規模の「ナノブルワリー」が少しずつ増えているんです。

今年、岐阜市の伊奈波神社の参道に、ナノブルワリー「岐阜麦酒醸造」が誕生しました。

この扉の奥の小さな醸造所で、岐阜のクラフトビール「岐阜ビール」が醸されています。

醸造所の開設にあたり、支援を呼びかけたクラウドファンディングでは、374人もの支援者から、計541万円が集まるという大注目ぶり。
今年3月には、ファン待望の醸造所併設タップルーム「Tap Room YOROCA」がオープンし、週末になるとビールを愛する地域の人々が訪れ、賑わいをみせています。

岐阜市内初となるブルワリー「岐阜麦酒醸造」の仕掛け人は、医療関係の会社の営業職として働きながら、土日はビールを醸造しているという“兼業醸造家”、平塚 悟さん。

勤務する会社が副業を推進する社風ということもあり「もし自分が副業するなら、大好きなビールを造ってみたい」と閃いたことがきっかけでした。

「少量でいいから、まずはビールを造ってみよう!」と、兼業で醸造所を立ち上げることを決め、免許や資格を取りながら、全国各地のクラフトビールを研究して修業と研究を積み重ね、2021年3月に初醸造に成功しました。

はじめはイベント出店がメインでしたが、「岐阜のクラフトビールがおいしい!」という噂は瞬く間に広がり、そこからたくさんの縁がつながったことで、「まちなかに、醸造所とタップルームを造ろう!」というプロジェクトが生まれました。
たくさんの仲間の手を借りながらクラウドファンディングを見事成功させ、今年、伊奈波通りにナノブルワリーをオープン。
醸造所だけではなく、地域住民や観光客がふらりと立ち寄れるよう、“ビールの試飲所”という立ち位置の「Tap Room YOROCA」も誕生しました。


さっそく、岐阜ビールの味のお話でも

初夏の金曜の夕方、仕事を早々と終わらせて岐阜麦酒醸造を訪れました。
「まずは飲まないと始まらないよね!」ということで、さっそく、岐阜ビールの飲み比べセットをオーダー。

平塚さんがビールの種類や味わいの特徴を話しながら、裏の醸造所の貯蔵タンクから直接つながったタップで、自慢の岐阜ビールを注いでくれます。

毎週末、たくさんのお客さんがタップルームを訪れるため、仕込み量が間に合わない週もあるという人気ぶり。
取材日は3種類の岐阜ビールに、全国各地の厳選ブルワリーのゲストビールも加えた全6種類のタップが開いていました。


フラッグシップの「金華山エール」は爽やかな香り


「金華山エール」は、岐阜麦酒醸造のフラッグシップビール。
「金華山登頂の達成感や、頂上から眺める雄大な景色をイメージして造りました」という平塚さんの言葉どおり、ホップの香りがとてもふくよかな、爽やかさあふれるアメリカンペールエールです。

ホップの中でも、グレープフルーツを思わせる柑橘系の香りが特徴の「カスケード」というホップを使用。
花や柑橘、どこか若葉を思わせる爽やかな香りと、柔らかな苦味が口いっぱいに広がり、飲んだあとに鼻を抜けてそのまま脳に残るような、印象深い香りと味わいです。

5月になると、ツブラジイの淡い黄色の花が咲き乱れ、黄金色に輝く金華山。
そんな黄金色の金華山を登り切ったときの爽快感、風に乗って運ばれてくる若葉の香り、葉と葉とが触れ合い擦り合う音。そして頂上から眺める長良川や岐阜の街並みの景色の雄大さまで思い起こさせてくれる、「金華山エール」という名にふさわしい爽やかさがとても印象的でした。

それぞれのまちや景色をイメージしたラベルもかわいい!


ゆずピールを使った「やながせホワイト」

続いて、岐阜の柳ケ瀬商店街から名付けたという「やながせホワイト」。
小麦麦芽を使った、酸味の爽やかさが際立つベルジャンホワイトです。

ベルジャンホワイトとは、ベルギーの伝統的なビアスタイルで、小麦麦芽を使用すること、コリアンダーシードやオレンジピールなどを副原料とすることが特徴です。

岐阜麦酒醸造の「やながせホワイト」はオレンジピールではなく、関市上之保地区の特産「かみのほゆず」のゆずピールと、コリアンダーを使用しています。

全体的に丸みのあるやさしい味わいで、苦味が少なくすっきりと飲みやすい「やながせホワイト」。
甘酸っぱい小麦の味わいに、上之保のゆず由来のフルーティな香り、そこにコリアンダーのスパイシーさがかすかに抜けるような、味と香りのバランスが絶妙です。


じっくり味わいたい一杯「夕日のIPA」

芳醇な香りと濃い色味、味わいの重みが感じられる「夕日のIPA」。
ホップの個性をたっぷり味わえる「IPA」をさらに強化した、アルコール度数8.0%の「ダブルIPA」です。

鮮烈なホップの香りを存分に堪能できるようにと、5種類ものホップを使用。
ホップ由来の重層的な味わいに加え、通常の2倍近く使うというモルトのコクがガツンと感じられる一口目が、とにかく印象的でした。
力強い苦味と複雑に絡み合う香りが、口の中を駆け巡ります。

重量級のボディにもかかわらず、後味は思ったよりクリーンで、心地良い苦味と芳醇な香りがふわりと残る心地よさ。
重めなのにもかかわらず、つい一口、また一口とどんどん飲み進めたくなってしまう、そんな味わいです。

長良川に沈む、美しい夕日を眺めながら。
まずは一口飲む前に、うっとりと香りを楽しんでから、香りも味も後味も、ゆっくり、しみじみと味わい尽くしたい一杯です。


小さな醸造所の「タップルーム」で


岐阜市は40万人が住む街ながら、街のまんなかを長良川が流れ、蛇口をひねればすぐにおいしい水を飲むことができる、水に恵まれたまちです。

「自然豊かな岐阜の水の恵みを受けながら、このまちに似合うビールを造りたい。ここで営むひとや住むひと、訪れるひとに、ビールをきっかけにした出会いや交流が生まれることを願っています」と平塚さん。

確かに、ビールを飲みながら話していると、初めて会った人ともすぐに仲良くなれる気がします。
おいしいビールを飲み交わしながらだと、どんどん楽しい話に広がっていったり、思いがけず新しいアイデアが生まれたり。
ビールは、人と人とのつながりが生む、楽しい時間を教えてくれるきっかけでもあるんですよね。

大好きな岐阜のまちで、ここを訪れる人との会話を楽しみながら、大好きなビールづくりを追求している平塚さんの想いこそが、このビールの美味しさそのもの。
たくさんの人がこの味を求めて何度も訪れる理由も、なんだかわかったような気がします。

ちょうどこの日も、たまたま居合わせた人同士で会話が弾み、タップルームは大盛り上がりでした。
その会話の中心にはおいしいビールがあり、6つのタップの裏側では、平塚さんが新しいビールを仕込みながら、時々こちらに顔を出してくれます。
スタッフやお客さんが楽しそうに話す声と、グラス同士が触れ合う乾杯の音が聞こえる、愉快なひとときです。

岐阜で生まれたクラフトビールが、人と人をつなぎ、人とまちをつないでいく、そんな夜が今日も、賑やかに更けていきます。


暮らしの一句

香りから先にクラフトビール飲む 麻衣子

【季語解説】ビール(夏)
一年を通して味わえるビールですが、キンキンに冷えた生ビールを一息に飲む爽快さは、やはり夏が似合います。
漢字で書いた「麦酒」、そのほか「地ビール」や「ビアホール」「ビアガーデン」なども季語とされています。
「地ビール」と「クラフトビール」はほぼ同義ですが、個人的には後者の方が、醸造家の想いやこだわりが強く感じられるような気がしています。
今日の暮らしの一句も、平塚さんのクラフトマンシップに敬意を込めて「クラフトビール」としてみました。

岐阜麦酒醸造 / Tap Room YOROCA
岐阜市伊奈波通1-46
※「Tap Room YOROCA」の営業は、金曜17:00〜20:30、土日祝13:00〜20:30を基本に変動営業。営業日や提供ビール等の詳細はWebサイトやSNSで随時更新。月~木曜は定休日。
URL:https://gifubeer.com/