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初めての1人美術館とミュシャ

個人的な「記憶に残る展覧会」の定義として、
展覧会の内容以外の要素が充実していたかどうか、が一つの指針であります。
今までさまざまな美術館・展覧会に足を運びましたが、その中でもやはり1番覚えているのは、中学3年生の時に初めて1人で見に行った展覧会です。

あの時ふと思い立って、たまたま見に行った展覧会が、その先の進路までをも定める事になるとは、当時の私は考えてもいませんでした。


2017年3月〜6月に六本木の国立新美術館で開催された『国立新美術館開館10周年 チェコ文化年事業 ミュシャ展』は、チェコ国外で世界初となる《スラブ叙事詩》の展示が目玉作品の、非常に貴重で話題性のある展覧会でした。しかし当時の私はそんなことを知るはずもありません。

懐かしいです!

展覧会の情報を見つけたきっかけなどは全く覚えていませんが、ミュシャ展の情報を見た瞬間に、「あ、授業でやったやつだ」と思いました。

当時は中学3年生で、中学校を卒業した直後だったのですが、中学校の美術の授業では少しだけ美術史を学びました。おそらく時代などは飛び飛びで、授業の制作テーマに沿った部分を抜粋して取り扱っていたような記憶があります。
テストはそれなりに頑張っていたものの作者の名前は丸暗記で、大して作品には興味がなかった私ですが、そこで習ったミュシャのポスター作品は印象深く、可愛らしい作風がお気に入りでした。
せっかく気になっていたミュシャの作品が見られるなら是非見てみたい、と思うのは自然な流れでした。

しかし、どう考えても中学3年生の赤子にとって、いきなり都会の美術館に1人で赴くのはハードルが高いです。もちろん思いとどまりました。
しかしそんな時、私を1人美術館へといざなった2つの要素がありました。
1つはチケット代が無料であったこと。多くの展示は中学生以下は無料だったので、3月のうちは中学生!という特権を生かすことができました。ちなみに次の3年間は「高校生無料閲覧日」という素晴らしいシステムを活用する事になりますが、それはまた別の機会に。
そして2つ目は、国立新美術館の最寄駅が好きなアイドルグループ「乃木坂46」にも由来する乃木坂駅であり、もはや聖地そのものであったことです。
ミュシャ展へ行く事ももちろん目的ではありましたがそれよりも、乃木坂駅へ行って聖地巡礼をしたい!というオタク心がとにかく強く、見事に行く決心をしたのでした。


乃木坂駅で発車音『君の名は希望』を聞き、肝心のミュシャ展へと向かいます。展示の内容もはっきり覚えています。それまで数回ほどしか美術館へ行った事がなかったので、館内も展示室内の作りも独特な国立新美術館の雰囲気に、私はあっという間に魅了されます。
⦅スラブ叙事詩⦆という巨大な油彩画がメインの展示ではありましたが、私の目的はリトグラフ作品。ミュシャらしい曲線美、植物モチーフ、レトロでパステル調な色彩が光るたくさんのポスターを見て、ここでも「授業で習ったやつだなあ」と、ぼうっと考えるのでした。
可愛い、素敵だ、もっと見ていたい。と、純粋に引き込まれる感覚を教えてくれたのはミュシャの作品です。やはりどうしても美術館は気難しくて、その道に詳しい人じゃないと理解できない世界だと思っていましたが、必ずしも理解することが全てではないのだと思いました。
その日の私は学びを目的とせず、ただただ綺麗なミュシャの作品を見て、心を満たした後に乃木坂46の聖地巡礼をして帰りました。

2020年1月撮影。


1人で美術館に行くことは、初めは気掛かりな点もあるかもしれませんが、鑑賞中も鑑賞後も周りの目を気にしなくていい、という最大のメリットがあると考えています。
もちろん鑑賞後に感じたことや思ったことを語り合い、シェアする時間も楽しいものです。ですが、感想がない、というのもまた率直な感想なのかなと思います。何かを感じることが義務ではないし、何も感じないために美術館へ行く、というのも一つの選択肢なのではないかと気付きました。


私は見にいった展覧会の内容以外の要素を大事にしています、例えばその後に食べたもの、買ったグッズ、行きや帰りの道での思い出などです。それらと展覧会で見た美術作品が複合的に結びつき、記憶に残る展覧会が完成するのだろうと、今では思っています。そう考えるようになったきっかけこそ、このミュシャ展でした。
大学で美術史を学び始めた今だからこそ、教養や視野を広げることを目的に展覧会へ行きます。しかし初めからそれが目的だったわけではないですし、今でもそればかりではなく、ただ純粋に楽しむことを常に心がけています。

美術よりも、美術館という環境そのものに関心を持ったのも必然だったのかもしれません。作品のことを考えるのも楽しいですが、それよりももっと色々な美術館へ行きたい!という気持ちが強く芽生えました。ちなみにこのミュシャ展をきっかけに私は国立新美術館の大ファンとなり、その後何度も足を運ぶことになります。

初めての1人美術館がミュシャ展で、それも気まぐれで行ったものだったのですが、そこでさまざまなことに気付く事ができました。勉強のために行かなかったからこそ、それがすごく楽しくて、それ以外の要素もひっくるめて間違いなく記憶に残る展覧会でした。
そして美術館を好きになり、美術史を学びたいと思った私にとっての大きな『きっかけ』でもあります。

何となく気になる、や、何となく行ってみたい、という気持ちを大事にしてみてほしいです。
このご時世でなかなか気軽に展覧会へと足を運べる状況ではありませんが、
何かを得ようとせずとも何かを与えてくれる、これこそ私が思う美術館の魅力です。それに触れてほしいなと思います。

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