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ちょろい女~サム・クラフリン編~

 サム・クラフリンという男性をご存知だろうか。

 私は、結構すぐにほだされるタイプである。もう本当に簡単に誰かを好きになるのだ。

 何か考えるときは必ずその人のこと。仕事中、電車を待っている時間、晩御飯の献立を考えているとき—とにかく彼の顔が脳裏に浮かんで、素敵な微笑みを投げてくる。その瞬間、私はどこにいようと口角がとろけてしまう。うへっうへっと、こんな笑い方をするのはこの世でゴリラか私くらいだろうというような笑い声をあげながら、マフラーに顔をうずめてごまかしてみる。

 ……たぶん、ごまかせてないけれど。

 さて、冒頭の彼に戻らせてもらおう。サム・クラフリンをご存じだろうか。ここからは、敬意と愛情をもって、サムと呼ばせてもらおう。長いからね。

 サムが出演している映画で一番有名なのは『あと1センチの恋』ではないだろうか。

 私もそこで初めて彼を知って、ふう~んと思った。演技については、まあよくあるラブコメだし、特別な感想を抱くこともなく。

 共演のリリー・コリンズは可愛かったな。登場カットは意志の強そうな眉毛に驚いたけれど、目が慣れてくるともう堪らん。白の清潔感のあるシャツとジーンズをサラッと着こなして、嫌みがないなんて……はっきりとした赤のルージュもとても似合っている。話が逸れてしまった。

 正直、『あと1センチの恋』は嫌いである。

 なんでそんなにすれ違ってるんだよ!いい加減にしろ!と、開始30分ほどでイライラしてしまった。好きな人は好きだろう。私は苦手だ。結局、主人公は何がしたかったのかわからないし、生産性がなさすぎる。

 別にラブコメ映画が嫌いというわけではない。『キューティ・ブロンド』や『ラブ・アクチュアリー』は大好きだしね。

 とにかく、主人公が好きになれなかったのと、考えなしの行動をしているのも腹が立ったのかもしれない。一所懸命見ても好感が持てなかったから、出演している俳優には特に感想はなかった。

 ばっちりの胸板に、がっしりとした腕に……うーん、THE・外国の男の人って感じね!それくらい。

 そして、その後サムのことはあまり思い出さなかった。ほかにも好きな俳優さんがぞくぞく登場して、それどころじゃなかったということもある。

 そして、ふとしたときにサムは現れた。それは『世界一キライなあなたに』(原題:『ME BEFORE YOU』)のポスターを目にしたときである。「あれ、この顔知ってるな……」というのが一番に思ったこと。そのあと思ったのは「なんで、この人なの……?」。

 今思うと、大変失礼な話なのではあるが、やはり『あと1センチ~』の印象が強すぎた。内容としては気になっているのに!となんだか悔しい気持ちになりながら、チケットを買ったのを覚えている。

 ……しかし、これが大当たりだったのである。結論を言おう。号泣だった。

 ラストは賛否両論出たのはわかるが、私はとても自然なこととして受け入れられた。どんな言葉を並べても物語の核心に触れてしまう気がするから、多くは語らない……いや、語れない。ラブストーリーが好きで、気になったという方は是非とも見てほしい。そして、考えてほしい。べたべたなラブストーリーだとは思うが、ただ受け取るだけの映画ではないと思う。

 それに、主演の二人はとても素晴らしい演技を見せてくれる。なんて陳腐な言葉なんだと思うかもしれないが、本当にそうなのだ。珍妙といっていいようなカラフルなファッションに身を包むヒロインはだんだん愛らしさが垣間見えていつの間にか感情移入してしまっているし、サムの障害を持つ男性もよかった。改めて見直したばかりなのだが、じっくりとみると首元や視線の動きも細やかだったり、何より表情がいい。

 私、こんなに見落としていたんだ!!という絶望すらもあった。私、こんなにいい男見逃してたの!?と。

 そして、さらにサムが私を夢中にさせたのは『ライオットクラブ』だった。端的にいうと胸糞な、内容はないといっていい映画なのだが、私は結構好きだ。暴力的だし、ストーリーはありがちだし、濃いとは言えない。それでも、サムがとてもいい。劣等感の塊で、どんどんと調子に乗っていく様がリアルなのだ。劣等感がある人間はたぶん、承認欲求が過剰にあるともいえると思う。

 その葛藤だとか、狂っていく段階がいい。見ていてゾクゾクする。幼い人間の愚かさがうまいなぁ、と感心するばかりだ。

 そして、昨年。私はまた出会ってしまった。

 『人生はシネマティック!』。正直にいうと、私はビル・ナイおじさんを見に行った。でも、サムが予想以上に良かったんだよなぁ。

 くさくさとしている自分を慰めるために行ったのだ。拗ねていた私に、その映画は寄り添ってくれて、そのおかげで“働く女”をしている自分を少しだけ好きになれた。おろしたてのブラウスの襟元は流した涙でぐしゃぐしゃになってしまったけれど、それ以上にスッキリした。

 そして、いつの時代でもひたむきな人間のことは見ていてくれる存在はいるし、愛を与えてくれるものだと思った。

 あぁ、私もサムの愛情をもらいたい!

 サムはここ数年でこんなに素晴らしい役者となっている。

 私も、頑張るね!サムみたいに頑張る!

 なんとも偉そうであるが、輝く人を見ると自然と勇気と活力がわいてくる。この映画のサムは、私にたっぷりのエネルギーをくれるのには十分すぎるくらいだった。

 いい役者っていうのは、演技を通して何かを伝えてくれるものなのね……。涙しながら、サムの成長を勝手に感じて何回も頷いていた。

 ふてぶてしく煙草を吸う姿、愛しそうに眼を細める表情、必死に取り繕うとしながらもぼろぼろと感情を隠しきれていないところ—こんなにいろんな情報を発信できるようになった、そして私はそれをサムから受信できるようになったんだ。

 些細なことだとは思うし、私側の問題であるということも大きいことはわかっている。少しの時間を経て、私の間口も広がったというところだろう。

 話は変わるが、私は6時間ほど眺めていると“ぞっこん”になってしまうことが多い。

 ヒュー・グラントにエディ・レッドメインにライアン・ゴズリング。

 いやいやいい男だろ!いうツッコミが聞こえてきそうだが、私はイケメンの基準が高すぎるらしい。イケメンと言われる若手俳優は好きになることはあれど、イケメンだと思うことはほとんどといっていいほどない。

 かっこいいよね!と同意を求められても困るなぁ、とアゴを撫でるのが常である。ま、美的センスは人それぞれだし。

 自分の顔を棚に上げまくってこういうことを言い切るのが私の長所でもあるから許してほしい。

 サムも、最初の印象なんて薄い。

 女性がメインのラブコメを見てしまったのだから当たり前であるが。

 でも、彼の出演した作品を見て、3年ほどの(一方的な)付き合いをした結果、今ではこんなにも愛しい。

 バッキバキに割れた腹筋や私より胸囲あるよね……というようなたくましい胸板も、頼りたくなって最高だ。筋肉隆々って苦手だけれど、サムだけは格別。あ、ザック・エフロンもいいな。

 これ以上、私はサムのことを好きになっていいのだろうか。愛していいのだろうか。

 不安になるときもあるけれど、大丈夫。なんたって、私の脳裏に浮かぶサムはいつも優しく微笑んでいるのだから。

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