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【第10話】私と猛犬ケルベロスの冒険の記録【創作長編小説】

第1話はこちらのマガジンから読めます。

ジャックされた飛空艇

時刻は深夜2時半。ゲイン帝国軍のトゥルク艦長は突然の冥界からの訪問者アリスに渡された金色の巨大な太陽のようなモチーフの杭を、アリスに頼まれ自分の率いる飛空艇の空対空ミサイルの先端に取り付けた。トゥルク艦長は杭の取り付け作業が無事に済んだのを確認して船の整備士に「ご苦労様!」と大きな声で労いの声をかけてミサイル格納庫から出て、飛空艇内の無機質で何もない広い廊下を靴の足音をわざとカツンカツンと響かせて歩いて操縦室に戻った。トゥルクはいい仕事をした時や機嫌がいい時に足音を響かせる癖がある。そしてトゥルクはいつも通りの同線で操縦室を歩き自分の艦長席に腰掛けようとしたのだが、トゥルクではない少女アリサが堂々と自分の席に座り飛空艇の無線アナウンスシステムを触っているのを見てギョッとした。
「ナタリス副艦長!なぜこの少女がまたこの船に来て、しかも私の席に座っているんだ!無線アナウンスシステムも勝手に起動させているしどうなっているんだ。」
ナタリス副艦長はと眉毛をはの字型に下げ困った顔をしながら言った。
「世界を疫病から救うために力を貸してと、彼女が言っていて…」トゥルクはまた目を丸くして驚いた。
「世界を疫病から救うだと?ミサイルに杭をつけただけじゃ足りんのか?」
アリサはトゥルクのことなどお構いなしに飛空艇のクルーに無線アナウンスの使用マニュアルを聞いて使い方をマスターして、外の別の19機の飛空艇に無線を使ってアリサの声を流していた。

「はじめまして。私は冥界から参りました。アリスと申します。時刻の3時になりましたら、疫病の原因となっているあの人型の黒い影を消滅させるための特別なミサイルを発射する予定です。この作業がうまくいけば人間界を苦しめている疫病が世界からなくなります。そのために皆様には協力していただきたいことがあるのです。まず、疫病の発生源に各々が持っているミサイルなどでの追撃をせず静観していただきたい。目標を攻撃をしたい気持ちはわかりますがこちらの作戦を円滑に遂行させるために我慢をお願いします。もう一度繰り返します。はじめまして。私は冥界から参りました。アリスと申します。時刻の3時になりましたら…」

本来ならこれは軍法会議にかけられ厳しい処罰を受けなければならない案件である。しかし、艦長のトゥルクを含め、副艦長のナタリス、他のクルーも全員がアリスの侵入と行動に目を瞑った。トゥルク艦長は艦長という立場上、仕方なしにアリサに怒っているふりをしたが、本当は心の中では「やっとこの地獄のような日々が終わる。」と安堵していた。
ナタリス副艦長はトゥルク艦長が目の前でアリサにわざと怒っているふりをしているのを見て、その空気に乗っかるようにわざと深いため息をついて困った顔を建前でしてみせたが、疫病で亡くした家族の写真の入ったネックレスのペンダントを周りに悟られないように指で触りながら小声で「やっと終わる。」とつぶやいた。
他のクルーも疫病にうんざりしていて、疫病が終わるのであれば早く終わらせて欲しいと願うものしかいなかった。それくらい人間界の人々は疫病に苦しめられてきたのだ。

降りてきた安息の無の螺旋階段

「ケルベロス、聞こえる?あのアリサの声が砂漠全体に響いているよ。」

私は巨大な人型の暗い影から4000m離れた上空でケルベロスにまたがり地上部で起きている出来事の高みの見物をしていた。
アリサは時刻3時になったら、1機の飛空艇から魔法の杭つきの空対空ミサイルが発射されると言っていた。そのミサイルが疫病を発生させる人型の黒い巨大な影に撃ち込まれた瞬間に、私の魔法の弓で対象を凍らせて欲しいと頼まれている。
そして冥界の「安息の無」へ運ぶ螺旋階段のついている飛空艇に巨大な黒い人型の影を乗せて運ぶと言っていた。これが上手くいけば人間界から疫病はなくなってみんな幸せになれるはずだよ。
私みたいに疫病で亡くなる人はいなくなる。

だから絶対に弓を放つ仕事を失敗するわけにはいかない。

心を落ち着かせながら約束の時間が来るのをさっきからずっと待っているの。
飛空艇20機をとりまとめるアリサはすごくてかっこいいな。

アリサのアナウンスが入るまでは、巨大な黒い人型の黒い影にミキラ帝国とゲイン帝国の空対空ミサイルが何本も撃ち込まれて爆煙が上がっていた。だけど、今は落ち着いている。
制圧目標はミサイルの追撃により夜の砂漠バラバラに飛び散ってしまったけれど、持ち前の自己再生能力を発揮して、もぞもぞと小さな個体として集まっていき、元の形状に90%は戻り回復したようだ。
15分もあれば粉々の状態からでも自己再生できるなんて、やっぱり疫病の発生源は手強いよね。対象が元の形状に復活したせいで、そこから発生する砂嵐がまたきつくなり砂が飛んで肌の露出部に当たるとピリピリした痛みを伴うようになってきた。
さっきと同じようにケルベロスに咆哮をしてもらいながら引力に逆らって近付いて確実に弓で凍らせなければならない。2回目だから要領は掴めているはずだけれど、ケルベロスも私も最初の恐怖を味わってしまっているので余計躊躇ってしまって身体が震えてしまう。
さっきは黒い巨大な影に1kmまで近付いた所で弓を放ったけれど、次も同じくらいの距離でやればいいのだろうか…もう考えても仕方ない。私は私にできることをする。

「ケルベロス。時刻3時まであと5分だよ。そろそろ突撃をする準備をしよう。ミサイルにぶつからないようにくれぐれも気をつけて。」
私はケルベロスの頭3つを撫でて頬擦りをした。

時刻2時55分。人間界の砂漠の僻地の夜の上空を引き裂いて、グルングルンっとネジのように廻る螺旋階段を下につけたとても大きな飛空艇が冥界から現れた。人間界の飛空艇20機は余裕で収まる大きさで階段のはるか遠くの天辺側には大きな目と口が見え、その目はギョロギョロしていて瞬きをしたりもするし、巨大な螺旋階段の上側には元人間とされる人々が登ってゴールの口の中に向かって歩いて入っていくのが見える。

トゥクラ艦長やナタリス副艦長。そしてその他の飛空艇の軍隊もその大きな冥界の異様な飛空艇を目撃して、皆が息を呑んで上空を見上げていた。

「あれが冥界の名物。「安息の無」へ運ぶ巨大飛空艇だよ。みんないい?今から疫病をあれに乗せて「無」に還すのさ。」

アリサはトゥルクの飛空艇の無線アナウンスシステムを使ってミキラ帝国とゲイン帝国の飛空艇の中の人全員に聞こえるように言った。アリサのアナウンスで士気が上がり飛空艇内で「オーっ!」と歓声を上げる者もいた。

一続く一【不定期配信予定】

見出し画像は稲垣純也様にお借りしています。飛空艇のミサイル格納庫と操縦室を繋ぐ廊下のイメージはこんな感じです!

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最後まで読んでくださってありがとうございました!ついに冥界から安息の無の螺旋階段が降りてきましたね!人間界の飛空艇の20機分ってとても大きなサイズです。死者の魂を運んでいる設定なので小さいと困ると思って大きめにしました。

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