紫月冴星(しづきさら)

カクヨムにて社会学小説を連載中。 こちらではAmazonで発売中の『愛と秩序の四時間目…

紫月冴星(しづきさら)

カクヨムにて社会学小説を連載中。 こちらではAmazonで発売中の『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』の全文を掲載しています。 社会学の面白さ、有用さを一人でも多くの方にお伝えすることができれば幸いです。

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Amazonで販売中の拙作を全文掲載いたします

 初めまして、紫月冴星(しづきさら)と申します。  以前、noteで社会学小説なるものを連載しておりました。その連載作品の一つを大幅に加筆修正して2020年12月にオンデマンド出版したのが『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』となります。  タイトルに銘打っている通り、私は小学生の皆さんにも社会学を知っていただきたいと考えていたことから、本来は文庫本レベルの価格帯(600円前後)で販売したかったのですが、オンデマンド出版の特性上、最低価格に設定しても2,000円

    • 【小説】社会学カフェへようこそ ――社会学って何?――

      登場人物:全員中学生 巫 侑(カンナギ ユウ)  小学五年生のときに祖父が遺してくれた「秘密基地」で社会学に出逢う。学校内では浮いていて、クラスメイトから「ぼっち」と呼ばれている。  カンナギお気に入りの純喫茶「ルディック」にて、社会学に興味をもった蓮と「社会学カフェ」を運営することになる。 志之元 蓮(シノモト レン)  眉目秀麗、文武両道、おまけにクラスの人気者。地元の名士の一人息子。 久野 愛(クノ アイ)   空気を読むことに長け、クラス内では常に気を張っている

      • 異世界ファンタジー系社会学小説?!(エイプリルフール小話)

        ご覧くださりありがとうございます。 昨年、エイプリルフール用に執筆したSSになります。 お楽しみいただけましたら幸いです。 ―――――――――― 【エイプリルフール特別SS 「異世界ファンタジー系社会学小説?!」】  かつて、「忘れられた学問」を用いて世界の理ことわりを発見した偉大なる学者が存在した。その学者の名は、マックス・ウェーバー。彼は「合理化」を基軸に歴史を読み解き、隠された世界の理――キンダイカの呪い――を発見したのである。  人類の歴史、それは「呪術からの解

        • ありがとうございました

          『愛と秩序の四時間目 ―小学六年生への社会学講義―』にお付き合いくださったみなさま、ありがとうございました。少しでもお楽しみいただけたなら、こんなに嬉しいことはありません。 じつは、『愛と秩序の四時間目〜』には出発点となる小説があります。『「僕」と「孤独」の境界線 ―社会学カフェへようこそ―』という作品なのですが、こちらは現在、カクヨムにて連載中です。 クラスメイトから「ぼっち」と蔑まれ孤立している「カンナギ」、眉目秀麗・文武両道の完全無欠な人気者「蓮」、スクールカースト

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          最終話 「未来と勇気の放課後」 『愛と秩序の四時間目〜』参考文献一覧

          ○ 「おはよう!笠原!なぁなぁ、あの件、考えてくれたか?」  午前八時十分。朝の会を控えた六年二組の教室である。  寝不足の頭に少々響く声の主は、眞家さんだ。 「あの件…というのは?」  昨日の今日なのだから見当はついているが、念のため訊ね返す。 「なんだよ~!昨日給食の時に誘っただろ?社会学部の件だよ!」  そう言って眞家さんは昨日の苦労話――久野先生をつかまえて新しいクラブ活動の意義を演説してみせたことなど――を意気揚々と語り始めたが、私は彼の寝癖が気になって

          最終話 「未来と勇気の放課後」 『愛と秩序の四時間目〜』参考文献一覧

          第5話 「未来と勇気の放課後」

          「異議あり、です!」  力強い声に顔を上げると、真っ直ぐ右の手を挙手した佑希君が、熱のこもった眼差しで私をじっと見つめていた。顔はわずかに上気しているようで、赤くなっている。その迫力に呑まれて、私は思わず「は、はい…佑希…君?」とうかがうように答えると、佑希君は勢いよくガタッと椅子から立ち上がり、 「未来ちゃんに出来損ないってなんだよそれ!いくら未来ちゃんのおばあさんでも許せないよ!見る目なさすぎでしょ、あー、もう!腹立たしいな!」  言っていいことと悪いことの区別もつ

          第5話 「未来と勇気の放課後」

          第4話 「未来と勇気の放課後」

          「…なるほど。さっき未来ちゃんが僕に『社会秩序はどうやって保たれていると思う?』って訊いたのは、今日の社会学の授業に触発されてのことだったんだね」  佑希君はそこで一度言葉を切って、腕を組みながら「うーん…そうだなぁ」と視線を宙に這わせた。 「僕は社会学のことは知らないから、僕の回答が社会学の立場から見て適切かどうかわからないけど、社会秩序が保たれるためには、個々人が社会でそれぞれの約束を守りながら誠実に生きることが必要なんじゃないかなって思うんだ」 「約束を守りながら

          第4話 「未来と勇気の放課後」

          第3話 「未来と勇気の放課後」

           お母さまからの返信を確認し、スマホのチャットアプリを終了する。  学校を出た私は、塾がある方向とは正反対の図書館に来ていた。  いつもなら、学校が終わるとそのまま塾の自習室に直行して授業が始まるまで黙々と勉強に打ち込むのだけれど、今日はどうしてもそういう気分になれなかった。 「社会学部」に入部するかどうかは別として、いつまた「社会学」の話題が出るとも限らない。  そのときに、今日と同じく建設的な意見一つも言えずに終わるのはもうご免だ。これ以上、悔しくて惨めな思いはしたくな

          第3話 「未来と勇気の放課後」

          第2話 「未来と勇気の放課後」

           受験日当日、私は万全の体調で試験に臨むことができた。  ペーパーテスト、記憶力を問う問題、すべてパーフェクトだったと思う。  受験生同士で取り組む課題、当日出題されたテーマに沿った作文、そして親子面接だって、ちゃんとできたって思った。一つも間違えなかったって、思ったの。  ――ところが。  私は、落ちた。  天藍女学院初等部に、落ちてしまった。  あの日のこと…おばあちゃま、お母さま、お父さまの家族総出で合格発表を見に行った日のことを、私は今でも鮮明に覚えている。覚え

          第2話 「未来と勇気の放課後」

          第1話 「未来と勇気の放課後」

           ――どうして、あんな歯切れの悪い返事を…。  すっかり人のいなくなった教室で、私はひとり、大きなため息とともに頭を抱えた。  内申点のためクラブ活動に参加する意思があったとはいえ、あれじゃあまるで検討してみますと言っているようなものだ。  大体、私はすでに入部する候補を「茶道部」「文芸部」「プログラミング部」の三つに絞っていた。その選択の基準は「興味の有無」「気分転換になるか否か」「受験勉強に支障がないこと」。そしてさらに熟考を重ねて判断した結果、茶道部に決めかけていた

          第1話 「未来と勇気の放課後」

          最終話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          【眞家翔吾】 「翔吾ってけっこう賢かったんだな~」 「俺、ただふざけてるだけだと思ってたわ」 「なんだとっ?俺はいつでも真面目よ。実はすっげぇ色々考えてんのよ?」  給食係――それぞれ「大きいおかず」を担当している河瀬と「ご飯」を担当している鈴木の二人が配膳しながら声をかけてきた。  多少引っかかる言い方だけど(こいつら俺のことなんだと思ってたんだ)、俺に対する評価が上向きに修正されているのだから悪い気はしない。 「それよりその…一番奥にある大きいやつ入れてくれよ

          最終話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          第十一話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          ◆ 「パーソンズは秩序問題を相互行為の観点から考え直したの。この時、パーソンズは何に注目したのか?それは、相互行為の中に潜む…つまり、対人関係やコミュニケーションの中に潜む『ダブル・コンティンジェンシー』と呼ばれる状況に注目したの」  愛は「ダブル・コンティンジェンシー(二重の条件依存性)」と黒板に書いて、翔吾らの方に向き直った。 「パーソンズが提起した『ダブル・コンティンジェンシー』は、二重の条件依存性と訳される概念でね」 「パーソンズが提起した」を強調して、愛は言っ

          第十一話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          第十話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          ◆ 「パーソンズは秩序問題を行為の観点から考えたんだけど、その背景にはそれまで想定されてきた伝統的な考え方…『功利主義』を乗り越えようとする狙いがあったの。先に、この狙いについて説明するわね」  愛は「パーソンズの狙い…功利主義的な行為論を乗り越えること!」と黒板に書き出していく。  すると、早速書き写そうとする生徒らの様子が目に入り、内心で嬉しく思いながらも「すぐに書かなくても大丈夫だからね。あ、どうしてもノートに取りたいって人は書き留めておいて」と呼びかけたのち、生

          第十話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          『愛と秩序の四時間目〜』第七話、訂正のお知らせ

           ご覧くださりありがとうございます。  本来、第七話に挿入されるべきはずであった板書の内容が抜け落ちていたのですが、このたび訂正いたしましたので、お知らせさせていただきます。  第七話のリンクは以下になります。よろしければご一読ください。 https://note.com/mirusocio11/n/n1073402d68c1

          『愛と秩序の四時間目〜』第七話、訂正のお知らせ

          第九話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          ◆ 「はぁ〜笑った…。いやいや、笑ってる場合じゃなかったわ!そう。博郷さんや栄名さん、田中さんが話してくれた通り、自然状態を脱して秩序を形成する方法があったとしても、実際に人々がどういう行動に出るかまではわからないわよね」  愛は黒板消しで板書の一部を手早く消し去った。チョークの粉が舞い、愛の指が白に覆われていく。が、汚れなんか気にしていられない。残り時間、XX分○○秒。  白っぽい消し跡が残った黒板に愛は勢いよく「行為」とチョークを滑らせた。 「社会学では、社会とは何

          第九話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

          第八話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』

           かつての愛は学校で習うこと、教科書から学ぶものはすべて「正しい」と思っていた。疑問など挟む余地もなく、すべて受け入れてきた。そういう素直さは美点であり、ほとんどの場面 ――たとえば人間関係を構築する場面―― において歓迎されるだろう。  愛は、「本当にそうなのか?」「なぜ」という疑問を抱くことが、自分で考えるチャンスの入り口だということを、学生時代に偶然出合った「社会学カフェ」で知った。  そこで「考えた」こと…決まった答えが必ずしも存在しない問題に向き合い、あーでもな

          第八話 『愛と秩序の四時間目 小学六年生への社会学講義』