見出し画像

最終話 「未来と勇気の放課後」 『愛と秩序の四時間目〜』参考文献一覧

「おはよう!笠原!なぁなぁ、あの件、考えてくれたか?」

 午前八時十分。朝の会を控えた六年二組の教室である。
 寝不足の頭に少々響く声の主は、眞家さんだ。

「あの件…というのは?」

 昨日の今日なのだから見当はついているが、念のため訊ね返す。

「なんだよ~!昨日給食の時に誘っただろ?社会学部の件だよ!」

 そう言って眞家さんは昨日の苦労話――久野先生をつかまえて新しいクラブ活動の意義を演説してみせたことなど――を意気揚々と語り始めたが、私は彼の寝癖が気になって仕方がなかった。

 私の関心が自分の話に向いていないことに気づいたらしい眞家さんが、「おい!笠原!それで、どうなんだよ!」と返事を急かしてくるので、寝不足の成果を少しだけ披露することにした。

「社会はどうやって成立しているのか、についてだけど」
「え?な、なんだよ、昨日のおさらいか?」

 いいえ、違うわ――声には出さず、私はニンマリと笑って、話を続ける。

「フランスの社会学者、エミール・デュルケムによると、社会の成立には『集合意識』が不可欠というわ。集合意識っていうのは、『信仰』や共通の『感情』……さらに具体的にいうならば、同じ土地への愛着や祖先を崇拝することなんかが挙げられるわね」

「す、すげぇ!パーソンズどこ行ったんだよ!」
「いろんな見方、考え方をするのが社会学だからね。ちなみに、パーソンズはデュルケムの学説を検討した上で、自らの理論を体系化させていったのよ。デュルケム以外にも、何人かの学説を検討しているらしいけど」

「さっすが、笠原だな~!そこまで調べあげてるってことは、興味津々なんだろ?もう、早く言ってくれよ~。じゃあ、入部ってことで…」

 ガラガラガラッ!

「はーい、みんな、おはよう!朝の会、はじめるよー!」

 眞家さんの暑苦しい勧誘は、久野先生の登場によって中断を余儀なくされ、眞家さんはわかりやすいくらいにがっくりと肩を落とした。
 タイミングが良いというか悪いというべきか――私は思わず苦笑いする。
 眞家さんにはちょっと申し訳ないけれど、返事は少しの間、保留させてもらおう。
 どうせ私の決心は、変わらないのだから。

(了)

――――――――――――――
参考文献

■T・パーソンズ(著),稲上毅・厚東洋輔(訳)(1976)『社会的行為の構造 1 総論』木鐸社
■荻野昌弘 (2018)「不可視の他者 ─社会学的伝統の埒外にあるもの─」p.59-74『日仏社会学年報』29
■田中耕一(1988)「秩序問題再考 ―T・パーソンズとN・ルーマン―」社会学評論39(2), p.137-152,226
■田中浩 (2006)『ホッブズ』清水書院
■那須壽(編)(2005)『クロニクル社会学』有斐閣
■名部圭一(1992)「パーソンズの行為理論における諸問題 ―秩序問題は社会学の根本問題か―」
ソシオロジ 37(2),p.93-110,117
■宮原浩二郎 (1998)『ことばの臨床社会学』ナカニシヤ出版
■溝部明夫 (1976)「初期パーソンズの諸問題 ―主意主義と秩序問題―」ソシオロジ 21(3),p.1-24
■柳父章 (1982)『翻訳語成立事情』岩波新書

『現代社会学事典』(2012) 弘文堂
『三省堂 例解小学国語辞典 第七版 とらデザイン』(2020)
『社会学小辞典〔新版増補版〕』(2005) 有斐閣
『小学教科書ワーク 社会 6年 東京書籍版』(2020) 文理


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?