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詩『カナリアの春』

冬の芯を開拓して、柔らかにほころび始める春。曲線を描く吐息、回り道して、つめたい身体に配達されてゆく。断層のように積み重なる温度。胸の小鳥が震えるから、蒼ざめたカナリアに炎が灯る。忘れても、忘れても、また歌い出す。未熟な雛が何度も背伸びして、芳醇な音符を啄むんだ。啼くように歌って、歌うように啼く。伸び代のある声が季節を押し広げる。かわいた刷毛で、宙をじんわり、となぞる。滲んでいる主旋律。薄い膜を破って、打楽器の鼓動が溢れ出すよ、フライング破水、破竹の勢い。踊るように文字を繰り出せ。なないろの銃声が響いて、冬の真ん中を突き抜けた。あかい鮮血のはなびらがはらはら、と泣く。散らばっていった、解けていった、きのうまでの日々に輸血、輸送。新しいスペースへと誘導されて、どんどん進んでいるから、空席の椅子はすぐに埋まってしまう。合掌、また合掌。
 

昨日から今日へと
去年から今年へと
区切られた時間に
春の旋律がにじむ
溝が口をひらいて
脱ぎ捨てた昨日を
かき集めるように
放りこんでゆく朝

淡々とした日々が
ゆるやかにつづく
暖房汗で歪む身体
火照りを冷まして
こおりそうな水を
やさしく混ぜたい
ゆびからみずへと
伝わってゆく温度

黄色人種の肌の色
ファンデーション
アーチを描く眉毛
輝くアイシャドー
艶々に色めく口紅
時代を映すメイク
顔の地図を彩って
立体的に創造する

毎朝、素顔に魔法をかけて
毎晩、仮面を洗い落として


あかい郵便ポストに、きょうの夕焼けを折り畳んで投函する。あしたの朝焼けに向けて、配達夫の自転車が出発する。今までの道程は胸の石碑に刻まれている。もうきのうは振り返らない。きのうの記憶が後ろ髪を引いても、あしたの方向だけを見つめている。そう、ラプソディー・イン・レインボー、雨上がりにカナリアが飛び立つ。時代の匂いにナイフを突き立てろ。風向きが変わったら、羽根がざわざわ粟立つ。歌え、生きるために、歌え、飛翔するために。眠たい眼に着火。ぶあつい外套を突き破って、こころの箱庭にも春が来る。産道はひらかれた。青信号が灯って、カナリアが主旋律を口ずさむ。ちいさな声からおおきな声へと。そろそろ直線の吐息を漕ぎ出すタイミング、

(Hello,good bye and hello again……)


photo:1見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、素晴木あいさん)

photo:2~4、Unsplash
design:2~4、未来の味蕾
word:2~4、未来の味蕾



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