Review 19 ネコギガ
最後の本は『ねこまたごよみ』だ。
なんの最後か、というと、「読書の秋2021」でいただいた賞品の、最後の1冊、である。
ずっとReviewを読んでくださった方にはもうおなじみと思うが、以下が経緯となる。
上の記事にも書いたのだが、こちらの本を選んだのは、せっかくポプラ社さんの本をいただけるのであればまずはなにはさておき「絵本」が良かったからだ。
(選書した後にUPされて、ますます到着が楽しみになった記事👇)
そしてこの本が今まさに「賞品の最後の1冊」として登場した理由。
それは・・・
2/22が近いから 。
そう。「猫の日」。
noteでも、こういった盛り上げ企画がある。
毎年猫の日あたりはどういうわけかソワソワしてしまって、何かしら猫関係の記事を書いている。昨年は「はてな」にこんな記事を書いた。
さて、この『ねこまたごよみ』。
何がすごいと言って、細かい書き込みがすごい。
鳥獣戯画、というのをご存じだろうか。
そうそう。これこれ。
この鳥獣戯画に、文字の説明がついた感じ。
それが『ねこまたごよみ』を一読した私の第一印象だった。
神無月の「うんどうかい」などはまさに、そんな感じ。
まるで、猫戯画だ。
ん?猫又戯画、か。
タイトルの通り、「ねこまた一家」の1年を描いた絵本なのだが、最初の扉絵は、「ねこまたムコ」さんが「ねこまたヨメ」さんに素敵なプレゼントをするところから始まる。所帯を持った二人が、子宝に恵まれ、すくすく成長する子供たち(猫は何匹か一緒に生まれるし、成長が早い)とともに過ごす1年が描かれる。四季を通して、基本的には「和風」の行事が中心なのだが、ニャロウィン(ハロウィン)やクリスニャス(クリスマス)などもあり、ワールドワイドでグローバルな行事が催されている。
絵本、というと「絵本って子供向けでしょう、あんまり読むところがないから、あっという間に読み終わってしまってちょっとつまらない」という大人と、時々、会う。
いやいや。絵本は、絵と文の両方を三昧する、つまりは、たっぷり堪能することができる、一粒で二度おいしい「お得本」なのだ。
外国の絵本であっても、訳がイマイチであっても、幼過ぎてまだ字が読めず誰かに読んでもらった本であっても、オノマトペだけの絵本であっても、心に深く深く刻み付けられる、ということが起こり得るのが絵本の特徴だ。
絵は、たとえ動画やアニメーションのように動かなくても、子供だろうがお年寄りだろうが、肌の色が違おうが、性別が違おうが、宇宙人だろうが(これはちょっと確信がないけれど)、言葉以上に豊かなものを、私たちの心に直接テレパシーみたいに飛ばしてくる。
はたまた絵とともにある文は、小説のように長かったり描写が細かくはないかもしれないが、情感に訴えかける名文も多い。言葉と、絵の相乗効果によって、絵本は私たちの記憶の中に深く根を下ろす。生涯、忘れられない思い出になる。
美術館でタブローをじっくり観るのもよし。そしてこうして「絵本」を眺むるのもまたよし。
人生に迷ったとき、孤独を感じるとき、小説を読むにはあまりに心の傷が疼くとき、老眼で目がショボショボするとき、絵本はそっと傍に寄り添ってくれる。
『ねこまたごよみ』の 「ねこまた」は「猫又」である。いちおう念のため補足すると、山の中にいたり、家猫が年老いて化けたりする妖怪の一種だ。
細かに描かれた「ねこまた」たちの楽しい絵に、ぺろんとネームシールを貼ったように解説がひとこと付けられている。吹き出しはないけれど、漫画でよくある「コマの中だけれど吹き出しの外」に描かれるちょっとした台詞のようなものも書きこまれていて、ねこまた一家以外のねこまたたちの様子も、よくわかるようになっている。
妖怪世界のできごとなので、ねこまたにとって親しみのある妖怪もいれば、ちょっと怖い天敵みたいな妖怪もいる。「ねこねこカーニバル」では、世界各国の猫の出し物が練り歩く。
面白いのは「ねこまたのおばけ」。幽霊のねこまたが描かれているのだ。妖怪も幽霊になるのかしら。家猫→猫又→猫又の幽霊というルートがあるのだろうか。敬老の日には、おじいちゃんとおばあちゃん合わせて600歳のお祝いをしているのだが…
おぼんには、ねこまた一家のひいおじいちゃんとひいおばあちゃん(の幽霊)もやってきて、一緒に寛いでいる。時節柄、アマビエやマスクなども描き込まれている。
個人的に印象に残った箇所はこちら。
…キリがない。
とにかく飽きない。
いつまでも観ていられる。
1年間を説明してくれる文も「にゃ語(あらゆるものを”にゃ”で変換する語)」で楽しいのだが、なにより楽しいのは絵を見ているうちにいつの間にか自分だけの物語ができていることだ。
ひとり(?)のねこまたに注目して、そのコの1年を追うもよし、ねこまた一家の大忙しにつきあうもよし、いっそ、ねこまた異世界で転生生活をするもよし。
想像しうる限りのあなただけの物語を、いくらでも。
そんなお楽しみのある絵本は、なかなか、ない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?