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Netflixオリジナル 『ミス・アメリカーナ』 自分が自分であるために

Taylor Swift: Miss Americana(ミス・アメリカーナ -テイラー・スウィフト-)
監督:ラナ・ウィルソン 2020年 ドキュメンタリー( Netflix )

音楽に疎い私は、テイラー・スウィフトを知らなかった。
ドキュメンタリー途中で「Me!」が流れて、「あ、これ聞いたことある!でも誰が歌っているのか知らない」という程度の知識量。
実際のところ、彼女の姿も初めて目にした。

テイラー・スウィフト。
アメリカのシンガーソングライターで、グラミー賞受賞歴もある大スター。

初めてのグラミー賞を受賞した頃(10代後半)の彼女は、まるでお人形さん。
細い体。美しい表情。
歌は素晴らしい。でも、彼女の非のうちどころのない佇まいに違和感を感じた。
そして、発言も優等生。
「完璧」
そう形容するのがしっくりくる感じ。

実際に、ドキュメンタリー前半でテイラー自身が語っている。

「子供の頃からの私の倫理観は、良い人と思われること」
"do the right thing, do the good thing"

目指していたのは "good girl"
求められる自分になること。

自己表現が人に評価をされ、それが自信となり成長していく。
理想的な成長のプロセス。
しかしそれに伴い強くなるのは「人に好かれたい、認められたい」という気持ち。
それも悪くないけれど、彼女は「いい子」すぎた。

「称賛のために生きると、喜びや満足感を他で得られなくなる。たった1つのミスで全てが壊れる」

承認欲求の上に成り立つ満足感はとても脆い。
テイラーは人に認められることに執着し、努力を重ねる。

(いったい誰のために?)

そして、絶大な支持を得たときの喜びと興奮は大きかった。
やがて人に認められる自分、完璧な自分を目指すのをやめられなくなる。
そうでないものを受け入れるのは恐怖となる。でも、やがて、壊れる。


カニエ・ウエスト。
テイラーの物語の中では重要な登場人物となる。

MTVビデオ・ミュージック・アワードで最優秀女性ビデオ賞を受賞したテイラー・スウィフト。
その受賞の喜びの瞬間にマイクをとり「ビヨンセこそが真の受賞者だ」と発言したのが彼。30代の成功したアーティスが、ティーンエイジャーの若き新星にとったこの行動は非難されるべきもの。テイラーの落ち度ではない。

彼の行動は、自分と(もしくは彼が属する世界と)キャラが真逆の優等生に対する嫌がらせにしか見えなかった。
しかし「皆に愛されるgood girl」 を目指すテイラーにとって、この仕打ちは耐え難いものだったと思う。実際に「精神的に追い込まれた」と語っている。

そして、皆に受賞にふさわしい歌手だと認めさせるために、更なる努力の末、2度目のグラミー賞を受賞する。
でも、ふと気がつく。

自分には「今すぐ話したい相手もいない」。

成功で手に入れるのは賞賛だけではない。
彼女は妬みや嫉みに晒され、心無い言葉や批判を浴び、苦しむ。

「愛されたくて人前に出てるのに ー 歓声や拍手が聞こえると不完全な自分を忘れられる。15年も続けてきて疲れ果てたわ ー もう音楽だけの話じゃない。我慢できる日もある。でも限界がくる日も…」

そして1年、表舞台から姿を消した。

「人の評価が全てだったから、ひどく傷ついたの」

でも、彼女は自分を取り戻していく。

一番大切なのは何か?

それは家族と友人。今の自分でいられることが幸せ。
それために必要なのは人の評価ではない。

性的被害の裁判で人間性を踏みにじられたと感じたことも彼女を変えたきっかけになる。

「いかなる局面に立たされても、信念を持って言いたいことを言おう」

そして、30歳を目前にして、周りの声に惑わされなくなったテイラーは顔つきが変わっている。肉付きがよくなった彼女の表情には、ようやく彼女自身が現れているように見える。特に、政治的立場を表明してからの彼女は、かっこいいと素直に思えた。

人に好かれることと自分を好きでいることはまったく別のこと。
人は人だし、自分は自分。

彼女の原点は日記にある。
自分が体験したことを書きとめ、それを表現した歌が人々に共感を持って受け入れられる。
感じたことを表現し、それが誰かに届く。
夢見たいに素敵なことだ。

「今でも欲しいものは、ペンと繊細な気持ち、それから素直さ。Open heart」

テイラーには人々の心の琴線に触れるなにかを作り出す才能と、それを届けることができる実力、そして、影響力がある。
すべてを手にしている今、自分を見失うことなく、できることをやる。

このドキュメンタリーを見て感じたのは、原点(自分)に立ち返ることの大切さ。

自分で自分を認めること。
自分が自分であるために。


写真:光のある場所(豊島にて)

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