司 門

ツカサ モンです。本業の傍ら小説を書いています。

司 門

ツカサ モンです。本業の傍ら小説を書いています。

マガジン

  • テレコテーション

    音楽家の他多ジャンルに活躍している菊地成孔さんが、ニコ動をプラットフォームにしているコンテンツの中の大恐慌ラジオに投稿した質問をベースに、自身の過去の亜流を溶かせた物語のようなものを創りました。

最近の記事

Ib.(b)001

 四季が巡り、春らしい長閑な気候の一日は、本来であればごくごく平凡な休日だったはずである。  娘の沓子はお昼ご飯を食べたあと、小一時間昼寝をして、午後3時過ぎに目を覚ますと、行ってくるとだけ言い残し、外に出かけた。  私は自宅で次の日の仕事の準備をしていて、妻は1週間分の食料を買うため、区境にある比較的品質が良く、良心価格の大型スーパーに車を走らせた。  17時を過ぎても沓子は帰って来なかったのだが、私は作業に没頭していたため、その異変に気づかない。 「ごめんさい、遅くなっち

    • 独善(ひとりよがり)001

      昇華がしたい。 日々、ストレスが溜まる。しかし、ストレスというのは便利な言葉である一方、捉えどころのない概念であって、もう少し正確に表すならば日々、生きる中で生じる精神への圧迫や負荷がどんどん堆積する。 某の場合、仕事よりも家庭でのストレスが大きい。 しかし、家庭というのはなんとも不思議な空間で、ストレスが溜まる場所である一方、ストレスの解消の場でもある一筋縄ではいかない陰と陽が混在している。何気ない一言や仕草で傷ついたり癒されたりする。だから某も家庭なんて崩壊させてやるな

      • テレコーテーション03

         僕の記憶は、幼稚園の制服のボタンをかけるところから始まった。 ずっとそう思い込んでいたが、ここ何日か家を離れてビジネスホテルに泊まり、フードコートの窓辺から小名浜の港や海を日がな眺めていると、記憶している幼稚園とは違う場所で、女の子が僕に靴を履かせてくれて、祖母がその女の子にお礼の言葉をかけている記憶が蘇ってきて、ひょっとしたらその記憶の方が古いんじゃないか、僕の記憶の始まりは後ろに更新したのではないかと思う。  記憶の原像は意図してない部分が鮮明だったりする。夏の日、

        • テレコテーション02

          日中のラブホテル街には、互いにはしゃぎながら自宅のマンションのような自然さでホテルに入っていくカップルもあれば、日陰の中を縫うように目立たず、ある瞬間、消え入るかのようにそっと入っていくカップルもいる。 どちらにせよ、やることに変わりはない。 10時を少し回った頃の太陽の日差しは強烈で、この場に巣食う人間の姿を白日の元に晒そうと躍起になっているかのようだった。 有象無象のラブホテルの中で、スターウォーズと古代ギリシャを足して2で割り、猥雑さを足したようなサイバーエンタシ

        Ib.(b)001

        マガジン

        • テレコテーション
          3本

        記事

          テレコテーション01

           開店して間もないはずなのに、マクドナルドには既に客が数名いた。 ありがたいことに、いつも使っている席は空いていた。 今日のレジの店員は気の利かない方。 この店員の手首には、毎回絆創膏が貼ってある。 リストカットの跡を隠している。 悪趣味な僕はそう決めつけてしまう。 店員はまだ10代に見える。表情は固く、声もぎこちない。 僕は注文を早く済まそうとして、 店内でコンボのチキンクリスプマフィンとホットコーヒー と口早に言う。 「店内でしょうか?お持ち帰りでしょうか?」 店員は機械

          テレコテーション01