司 門

ツカサ モンです。本業の傍ら小説を書いています。

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ツカサ モンです。本業の傍ら小説を書いています。

マガジン

  • テレコテーション

    音楽家の他多ジャンルに活躍している菊地成孔さんが、ニコ動をプラットフォームにしているコンテンツの中の大恐慌ラジオに投稿した質問をベースに、自身の過去の亜流を溶かせた物語のようなものを創りました。

最近の記事

【小説】Ib.(b)009

 とにもかくにも私の1日は忙しく回っている。朝は5時に起きて、水道の浄水を常温でコップ1杯飲む。寝ている間に私の身体から出ていく水分を補給する。パジャマを脱いで姿見で全身を映す。裸の私がそこにある。スタイルが良いとか胸の形が綺麗だとか大学の子が誉めたり羨ましがったりするほどに私は自分の身体が好きではない。であるからこそ、毎日こうして身体におかしなところがないか検分してるのだ。決して自分に酔ってるだけじゃない。  洗面所で洗顔料を手で泡立たせ、触れるか触れてないかの加減で丁寧に

    • 【小説】Ⅰb.(b)008

       美大の教授なんてのは、一皮剥けば狂人であって、何をやらかしてもおかしくないと思っている。教授が自分の作品とSEXしてるのは、エロ漫画家が自分の作品でセンズリしてるのと大して変わらない行為だと思っていたのだが、アダルトサイトに投稿された動画は、単なる変態というだけでは片付けられなかった。 『美大の名誉毀損教授w』  大学の崇から送られてきた動画は、手ブレが激しく、時々撮影者の指なんかが映り込んでしまってる典型的な素人映像だった。映像を専攻してる身からしてみれば悪い見本そのまん

      • 【小説】Ⅰb.(b)007

         きっかけはなんだろう。そうだった。欲しいダウンがあって、大学に着て行きたくって、お金がないのにカード切って、買ったは良いものの、着てみたら袖が足りなくて、なんだかもの凄いダメなことを自分はしてしまったんじゃないかっていう罪悪感と、十何万のカード負債があって、ずっとびくびくしながら生活してた。 「便所掃除やるようなもんだから。」  街で声かけられた人にすぐお金を稼げるからなんて、怪しい誘いに一方ではそんなわけないじゃんと否定しているのに、頭のどこかが返済できるんだからと私の血

        • 【小説】Ⅰb.(b)006

           好きな音楽家が好きな芸術家の作品が好きになり、それが高じて美大を目指した。もちろん現役ではどこにも引っかからず、浪人することになった。実家には居づらくなり、住む場所と生活費と予備校代が手に入る仕事を探していたが、条件に合うのはビデオボックスか風俗のスタッフだった。とりあえず、どちらも面接した。  ビデオボックスは待遇こそ良かったが、仕事中はずっと店舗内に居続けることが辛そうだった。客がオナニーしたあとの客室清掃も嫌だったが、それは風俗店も大差ない。逆に風俗店は待遇こそビデオ

        【小説】Ib.(b)009

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        • テレコテーション
          3本

        記事

          【小説】Ⅰb.(b)005

           なんとなく足が向いたから、私は今は夫に占拠されている、元は私の実家に行くことにした。夫の作る芸術とやらが、私には全く理解できず、一度だけ実物を見せてもらったが、まだ人間の形を成してない胎児がそのまま大きくなったような、等身大のパン生地みたいな外貌は、正直グロテスクに思えた。 「私には、よく分からないけど、なんか凄い。」 と私は声を振り絞った。それが、お気に召したのか、その日の夜、珍しく夫は私を雑に抱いた。  夫が私のいる家に帰って来るのは、よくて週に1回ぐらいで、生活の拠点

          【小説】Ⅰb.(b)005

          【小説】Ⅰb.(b)004

           唐突と思われるかもしれないが、私は子供の頃からゲームのテトリスが好きだった。ブロックの隙間に形の合ったブロックがうまく嵌ると、胸がすっとすくような想いがした。私の両親は、ゲームは子供の可能性を潰すと信じて疑わなかったので、自宅にはゲーム機が一つもなかった。だから、私は父親がテーブルや玄関の下駄箱の上に置きっ放しにした小銭をこっそりと持ち出し、駅前のゲームセンターに通って、テトリスに興じた。ふと隣を見たら、けむくじゃらのおじさんがズボンを脱いでいたり、好きなもの買ってあげるか

          【小説】Ⅰb.(b)004

          【小説】Ⅰb.(b)003

           警察のマル暴にいた頃は事あるごとに海を見に来ていたのに、いつの頃からか商売敵に逆恨みされ、身動きの取れない状態でドラム缶よりももっと窮屈な大型のスーツケースかなんかに押し込まれた後に海に沈められて、視界を遮られた真っ暗な中で海水に窒息し、溺れ死んでいくのを想像してしまい、特に夜の海なんかは近づくことすらしなくなった。  階級が警部にあがり慢心もあったかもしれない。外見が極道と見分けがつかない同僚を尻目に、内通者からの情報を頼りに、違法風俗を摘発してきた。星を挙げる毎に上から

          【小説】Ⅰb.(b)003

          【小説】Ib.(b)002

           私は一介の大学教授で燻っているような人間ではない。しかも私の肩書きである特任教授とは甚だ身分が心許なく、毎年の学生の履修登録数によって次年度の雇用が更新されるというから噴飯ものだ。  私は私の芸術をこよなく愛している。この大学は無知な輩ばかりで、真の芸術を理解しようなどという人間は一人もおらず、ただエゴイズムを吐き出してるだけの烏合の衆だ。  大学があてがってきたのは、研究室と呼べる代物ではなく、単なる待機部屋でしかも他の教授との共同であって、これではタコ部屋と変わらないで

          【小説】Ib.(b)002

          【小説】Ib.(b)001

           四季が巡り、春らしい長閑な気候の一日は、本来であればごくごく平凡な休日だったはずである。  娘の沓子はお昼ご飯を食べたあと、小一時間昼寝をして、午後3時過ぎに目を覚ますと、行ってくるとだけ言い残し、外に出かけた。  私は自宅で次の日の仕事の準備をしていて、妻は1週間分の食料を買うため、区境にある比較的品質が良く、良心価格の大型スーパーに車を走らせた。  17時を過ぎても沓子は帰って来なかったのだが、私は作業に没頭していたため、その異変に気づかない。 「ごめんさい、遅くなっち

          【小説】Ib.(b)001

          独善(ひとりよがり)001

          昇華がしたい。 日々、ストレスが溜まる。しかし、ストレスというのは便利な言葉である一方、捉えどころのない概念であって、もう少し正確に表すならば日々、生きる中で生じる精神への圧迫や負荷がどんどん堆積する。 某の場合、仕事よりも家庭でのストレスが大きい。 しかし、家庭というのはなんとも不思議な空間で、ストレスが溜まる場所である一方、ストレスの解消の場でもある一筋縄ではいかない陰と陽が混在している。何気ない一言や仕草で傷ついたり癒されたりする。だから某も家庭なんて崩壊させてやるな

          独善(ひとりよがり)001

          テレコーテーション03

           僕の記憶は、幼稚園の制服のボタンをかけるところから始まった。 ずっとそう思い込んでいたが、ここ何日か家を離れてビジネスホテルに泊まり、フードコートの窓辺から小名浜の港や海を日がな眺めていると、記憶している幼稚園とは違う場所で、女の子が僕に靴を履かせてくれて、祖母がその女の子にお礼の言葉をかけている記憶が蘇ってきて、ひょっとしたらその記憶の方が古いんじゃないか、僕の記憶の始まりは後ろに更新したのではないかと思う。  記憶の原像は意図してない部分が鮮明だったりする。夏の日、

          テレコーテーション03

          テレコテーション02

          日中のラブホテル街には、互いにはしゃぎながら自宅のマンションのような自然さでホテルに入っていくカップルもあれば、日陰の中を縫うように目立たず、ある瞬間、消え入るかのようにそっと入っていくカップルもいる。 どちらにせよ、やることに変わりはない。 10時を少し回った頃の太陽の日差しは強烈で、この場に巣食う人間の姿を白日の元に晒そうと躍起になっているかのようだった。 有象無象のラブホテルの中で、スターウォーズと古代ギリシャを足して2で割り、猥雑さを足したようなサイバーエンタシ

          テレコテーション02

          テレコテーション01

           開店して間もないはずなのに、マクドナルドには既に客が数名いた。 ありがたいことに、いつも使っている席は空いていた。 今日のレジの店員は気の利かない方。 この店員の手首には、毎回絆創膏が貼ってある。 リストカットの跡を隠している。 悪趣味な僕はそう決めつけてしまう。 店員はまだ10代に見える。表情は固く、声もぎこちない。 僕は注文を早く済まそうとして、 店内でコンボのチキンクリスプマフィンとホットコーヒー と口早に言う。 「店内でしょうか?お持ち帰りでしょうか?」 店員は機械

          テレコテーション01