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渋谷のデザイン会社が、島根でビールをつくる理由

私たちレベルフォーデザインは渋谷に事務所を構え創業26年目のデザイン会社です。もちろん、社員は全員デザイナー。そんな環境にもかかわらず、島根県の益田市でクラフトビールをつくっています。なぜ、デザイン会社がクラフトビールをつくり始めたのか。その理由や経緯、成功のポイントをまとめました。


1.   きっかけづくり編


フィロソフィーがきっかけをつくる。


きっかけは、総務省による「関係人口創出プロジェクト」に参画したこと。参画の理由は私たちレベルフォーデザインのフィロソフィー(経営理念)にあります。それは「全社員の物心両面の成長と幸福を追求し、デザインの力で社会に貢献する」というものです。

15名のスタッフの約8割が地方出身者であり、生まれ育った故郷を盛り上げたいという想いを持っています。私自身もその一人、山口県から上京し東京で35年、生まれ育った地域に少しでも役に立ちたいという想いがあります。その私の想いはスタッフの想いにも重なり、「デザインの力で社会に貢献する」というフィロソフィーにも繋がっています。

その理念を体現するために、2018年に公募された、島根県高津川流域の関係人口創出プロジェクトに応募し、レベルフォーデザインからは私を含むデザイナー2名が選出されました。

「関係人口」とは移住でもなく観光でもない、地域と多様に関わる人のことを指すもので、関東エリアを中心に専門的なスキルを持っている人が求められていました。島根県を選んだ理由は山口県の実家が比較的近いというだけで、出身のスタッフがいるわけでもなく、ご縁は全くないという中での参画となりました。

プロジェクト参加者は約15名。IT、NPO、公務員、大学教授と年齢、性別、職種は様々。内容は約3ヶ月間、全6回のセッションがあり、関係人口をつくるための企画をプレゼンするというもの。

初回は1泊2日の訪問で島根県高津川流域である、益田市・津和野町・吉賀町の役場や観光地、棚田や農園をめぐり、生産者の方々に話を聞きながら地元の食と文化を体験し課題を探りました。その後、東京で参加者同士のチームをつくり、訪問時に感じた課題や自分たちのスキルを活かした提案に向けての企画立案に取り組みました。

地元役場の方々も参加され、東京会場では4回の会議が開かれたのち、最終回は再び現地へ訪問し、市長や町長をはじめ、地元住民の方々約100名へ向けてプレゼン大会が開催されました。

地元のテレビ局や新聞社の取材、報道もあり大いに盛り上がり、プロジェクトとしてはここまでで一旦終了、あとは個別で関係を深めながら直接、事業者や役場への提案となりました。

学校や社会では「やりたいこと」を問われることが多いように思います。もちろんそれは大切なことで、生涯をかけてやりたいことが見つかった人は幸せだと思います。

ただそれよりも大切なのは「何のためにやるか」だと私は考えています。私はデザイナーですが、デザインは私と会社にとっては手段でしかなく、フィロソフィーを体現するために磨き上げた、一番得意としている武器の一つです。

そのデザインの力を自分たちのためだけではなく、世のため人のために使い、一人でも多くの人に喜んでもらいたいと思っています。そんな想いが今回のきっかけとなり、その後のご縁へと繋がりました。


知行一致。まずは行動から。


「関係人口創出プロジェクト」最終回の私たちの企画提案は「ふるさと納税受入強化とファンづくり」でした。それなりの評価と関心は持ってもらえ一段落となりましたが、企画提案はプロジェクトのゴールであり、本来のゴールではありません。

この時点では今から始まるレースにエントリーさせてもらった感覚で、まだまだこれからです。その後は個別にアポイントを取り、再度企画をブラッシュアップさせ仕事に繋げる必要があります。

この先は覚悟を決めて、有言実行、知行一致、提案者の本気度が試されるところ。ここでもフィロソフィーの力が発揮されました。

ここで一つ問題なのが費用面。プロジェクト参加にかかる交通費、宿泊費、交流費は国と自治体側からの補助により、参加者への負担がありませんでしたが、プロジェクト終了後は2人で訪問するたびに、約12万円程度の費用がかかります。

これも地域への貢献の一つとして考えていましたが、正直なところ小さなデザイン会社にとって負担は小さくありません。費用面だけではなく、通常業務もある中で時間の負担も気になるところで、これがあまりにも大きくなると継続ができません。だから仕事として正当な利益を頂きながら、「この会社にお願いして本当に良かった」と思ってもらえるよう、取り組む必要があると考えていました。

私たちは、プロジェクト終了後3度の個別訪問と企画提案を経て、「ふるさと納税受入強化とファンづくり」施策を受託することができました。この時点でやっと、スタートラインに立てた感覚、これからが本番です。

施策の内容は

1 生産者紹介をメインにしたフリーペーパーの制作
2 島根県と周辺地域(山口・広島)、東京エリアでの配布
3 東京でのイベント参加、開催によるPR活動

決めたことに責任を持って最後までやり切ること。仕事をする上で当たり前かもしれませんが、アートディレクター、デザイナーをはじめとする制作スタッフがプレッシャーのかかる中、尽力してくれました。このプレッシャーの正体は単なるファンづくりではなく「ふるさと納税受入強化」にあります。

デザインの仕事は成果として見えにくい性質があります。私たち自身はデザインの力を信じてお客様に説明しているのですが、まだまだ理解されない面、特にアイデアに対する価値を感じてもらいにくいと思うことが多々あります。

原因の一つにデザイナーの力量不足、説明不足もあるとは思いますが、もう一つの側面として、デザインの良し悪しが個人の感覚に委ねられ、数値で表しにくいということもあると思います。

ただ、今回の「ふるさと納税受入強化」にはふるさと納税受入額の増減がファンづくりの数値としてそのまま反映される可能性があることを承知した上での提案です。文字通り「デザインの力で社会に貢献する」ということであり、デザインの力を証明する良いチャンスだと考えていました。

2019年末に「ふるさと納税受入強化とファンづくり」の施策を実行し、翌年2020年のふるさと納税受入額は前年度比146と大きくその数字を伸ばしました。弊社施策以外の様々な要因も加味された結果かとは思いますが、これによりさらに益田市との信頼関係を築くことができ、まずは目標達成、ゴールはできたのではないかと思います。

世の中には結果を出すためのセミナーや書籍が数多く存在します。それらを学ぶことはとても大切です。ただ、知識がいくらあっても行動に移せないとあまり意味はありません。

いくら良いアイデアを提案できても、自分ごととして責任を持ってそれを行動に移せなければ、そのアイデア自体にも意味はありません。考えることは大切ですが、それ以上に大切なのは知行一致で行動すること。

行動してみると、考えた通りにいかないこと、知識が通用しないことが多々あります。行動して、つまずき、考えて、また行動する。そんな思いでゴールまで走り抜けた「関係人口創出プロジェクト」でした。

ちなみに、施策約1年間のレベルフォーデザインの益田市での滞在日数は約40日間、私たちが一番の関係人口になったのではないかと思います。
次回の記事は、信頼と期待がチャンスに変わる瞬間。クラフトビール醸造所スタートの話です。


⚫︎この記事を書いた人
清水 啓介(しみず けいすけ)/  L4D / 代表取締役
1967年生まれ、山口県出身。高津川リバービア取締役。映画(マーベル)と読書(ビジネス書)とポールスミスが大好き。好奇心旺盛でリスク耐性が強い。稲盛和夫氏より経営を学ぶ。
Facebook:https://www.facebook.com/keisuke432/


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