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渋谷のデザイン会社が、島根でビールをつくる理由 vol.2

2018年の「関係人口創出プロジェクト」への参画で様々な人とのご縁をいただきました。その出会いがきっかけとなり、思いもしなかったことが始まります。その一つが今回の記事の本題でもあるクラフトビールづくり
なぜ渋谷のデザイン会社が縁もゆかりも無い土地でビールづくりを決断したのか。人との出会いや、試作づくりと進め方の紹介をします。



支社設立の候補地がまさかのビール工場に。


島根県益田市での訪問回数が増えると人との出会いも一気に増えました。
市長や役所の方々が中心に紹介の輪が広がりました。生産者、地元企業、飲食店や地域住民の方々。1年間で約200名を超え、訪問時には必ず予備の名刺100枚をバックに入れて行動していました。レストランや居酒屋に入ってもオーナーやお客さんまでつながることもあり、名刺は欠かせません。

地域の皆さんが私たちのために人を紹介していただくことは大変嬉しく人との出会い、信頼関係の大切さを感じます。仕事をする上で当然のことですが、この信頼関係をつくるためには私たち自身の「本気度」が試されると感じています。
私たちはその決意を示すためにも益田市支社設立を決定しました。「本気度」伝えるためには絶好の機会です。

2019年3月、役所の方に3ヶ所の支社候補地を選んでいただき、物件案内ツアーが開催されました。「空き家問題」は市が抱える課題の一つで、企業誘致にもつながることから、役所担当者の方にも大変喜ばれました。
そして、その候補地の一つとして案内されたのが、神社の参道にある築160年の古民家。ここは元料亭として地域の方々に愛された場所で、今はもう営業されていません。入り口には立派な土間、二階に50畳の宴会場、一階に大きな厨房スペースがあります。
歴史を感じさせる風情や趣もあり、非常に魅力的な建物でしたが、デザイン事務所の支社に厨房と宴会場は必要ありません。

ただ「この古民家を利用して、かつて賑わっていた街に少しでも賑わいをつくる方法はないかな」と思考を巡らせながら・・・この古民家との出会いが予想外の展開へと続きます。

古民家を見学中に、一緒にプロジェクトに参加していた仲の良いメンバーの上床(うわとこ:後の高津川リバービア株式会社の代表)から、会社を退職し独立へ向けて、相談メールの着信があり、返信のついでに冗談半分で古民家の写真添付し「ここでビールをつくって欲しいです」と送ったところ、5分後に返信が。 「ビールつくりたいです!」


楽観的に構想し、まずはやってみる。


軽い気持ちで送ったところ、まさかの「ビールつくりたいです!」という返事を受けて、その後東京で話をしました。私もビールは大好きです。ただつくりたいと思ったことは一度もありませんし、つくり方も知りません。
とはいえ、つくれる場所があり、つくりたいという人もいる。これをチャンスととるか、ただ盛り上がるだけの会話と取るかは自分次第。

判断するための知識すらないので、話し合いの結果まずは調べてみることになり、物件案内から2ヶ月後の5月、友人から紹介された宮城県のクラフトビール醸造所「石巻ファーム」への訪問が決まりました。

タイミングよくホップ栽培のワークショップに参加することができ、醸造所設立の話も聞くことができました。まだ何を質問していいかも分からないレベルでしたが、そこで飲んだビールがとにかく美味い!帰りの新幹線で「自分たちでつくったクラフトビールならもっと美味しいはずだ」とビールを飲みながら盛り上がりました。
そのワクワク感が冷めていない翌週に、都内のマイクロブルワリーの設計設備の専門業者へ相談に行きました。

そこで初めて醸造に必要なタンクや冷蔵庫、洗浄機を目にして、大まかな費用は設備だけで約2000万円。これに施工や古民家の内装工事、運転資金を含めると約5000万程度の費用が必要となり、スモールスタートとはいえ新規事業への壁が立ちはだかり、やや意気消沈。

そのような話を役所の人に相談したところ、島根県江津市にオリジナルの設備でクラフトビールを醸造している会社があることを聞き、早速アポイントを取ってもらい、相談のために訪問しました。
そこでは約5分の1の400万円程度の設備投資で醸造が可能で、さらには開業までの準備期間中はOEMでの製造を依頼でき、醸造研修までもサポートしてもらうことができることが分かりました。
これにより、「ビールつくりたい!」から約5ヶ月、醸造所設立に向けて望みがつながりました。

ちょうどその頃、3ヶ月後の2019年11月に川崎市で「川崎市民まつり」へ益田市・津和野町・吉賀町を含む高津川流域として出店の話があり、私たちは3日間の店舗サポートを引き受け、特産品とともに3市町の特長を活かしたクラフトビールの製造販売もさせてもらえることになりました。
自分たちではまだビールをつくれないので、OEMでの製造を依頼し、テストとしてお祭りでの販売を計画しました。ここでのテスト販売は今後を左右する重要な3日間です。地元の農家さんと原材料を交渉し、シャインマスカット、栗、お茶の3種類に決定し、依頼先の醸造所で打ち合わせや試飲を繰り返し、計600本のクラフトビールが完成しました。
もちろん私たちが一番得意としている、コンセプト設計を初め、ラベルやネーミングをしっかりデザインし「川崎市民まつり」で第一弾としてお披露目、1本700円での販売が開始されました。

3日間の結果は566本、約40万を売り上げ、完売とまではいきませんでしたが、上々の滑り出し、クラフトビール自体の認知度、ネーミング、価格等の課題もありながら、手応えを感じることができました。

楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」京セラ創業者、稲盛和夫氏の言葉です。小さな会社の新規の事業には、資金・人材・時間・ノウハウ、すべて揃っていることなどまずありません。
できる方法を考え、できることから実践する。まずは50%うまくいけば上出来くらいに考えて、さらに精度を高めていく。
自分たちの力でできそうになければ、できる人に助けてもらう。そんな楽観的な構想で約8ヶ月、古民家での醸造所設立に向けていよいよ本格的に準備が始まります。

人との出会いでチャンスが生まれる。


クラフトビールづくりを決断して感じたことが2つあります。
一つは、行動することの大切さ。関係人口創出プロジェクトへの参画、役所への企画提案と実施、支社設立の決断等、有言実行を大切にしてきました。言わないと伝わらないし、口先だけの人に期待はされません。そして、その期待に応える、できれば超えることができると信頼に変わり、そこからチャンスが生まれるということ。古民家も厨房も自分には関係ないと思っていたら、そのチャンスには気がついていなかったかもしれません。

もう一つは、そこには必ず人との出会いがあるということ。多くの人に力を借りて少しずつ道が拓けてきたので、人との出会いの大切さを痛感するとともに感謝しています。私一人の発想と力では間違いなくビールづくりに発展していません。この時点では、資金・人材・免許・運営・販路等、まだまだ課題が山積みで、今後も多くの人に助けが必要になりそうでした。
その分、応援してくれている多くの人の期待も背負い、その期待にも後押しされながら全力でオープンまで突き進むことになります。

次回の記事はピンチの時にこそ試される本質と、ブランディングデザインの話です。

▼第1回目の記事はこちら


⚫︎この記事を書いた人
清水 啓介(しみず けいすけ)/  L4D / 代表取締役
1967年生まれ、山口県出身。高津川リバービア取締役。映画(マーベル)と読書(ビジネス書)とポールスミスが大好き。好奇心旺盛でリスク耐性が強い。稲盛和夫氏より経営を学ぶ。
Facebook:https://www.facebook.com/keisuke432/



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