見出し画像

渋谷のデザイン会社が、島根でビールをつくる理由 vol.3

レベルフォーデザイン代表の清水です。
クラフトビールは1994年の酒税法改正により、小規模事業者がビール事業へ参入できるようになり、改正当時は地ビールという名称でブームとなりました。そして2017年頃から2度目となる流行の兆しの中で、ビール醸造にチャレンジを決意します。
2019年の準備段階で全国に270社程度の醸造所があり、毎年10%の伸び率という絶好のタイミングでもあり、「関係人口創出プロジェクト」参画から約1年。知識も技術も経験もない中で、いよいよクラフトビールづくりがスタートします。


3. ブランディングでピンチを乗り越える編


計画が覚悟に変わる瞬間。


事業のコンセプトは「シニア世代が楽しく活き活き働き続けられる場所をつくり、クラフトビールでたくさんの人を笑顔にする」。つくりたいものは「働ける場所」と「人の笑顔」
実際に製造するクラフトビールはあくまでも手段だと捉えています。もちろん美味しいのは大前提での話です。
私は事業を考える時に大切にしていることが3つあります。

1  何のためにやるか
2  誰とやるか
3  何をやるか

一番大事にしているのが、「何のためにやるのか」
これが事業の根幹となり、コンセプトになるものです。では、なぜビールづくりにシニア世代かというと、益田市の視察の時に一つの課題として感じたことがあったからです。
それは農家さんや工場では人手不足に悩んでいる一方、おじいちゃん、おばあちゃんたちはとても元気なのに仕事はないという状況。60歳を過ぎても元気に楽しく働ける環境があり、社会に必要とされる仕事があれば、心も体も元気になるはず、と感じました。そして、後の社長となる上床も同じように感じたことから、一緒に事業を立ち上げることになったのです。

「ビールつくりたいです!」は3番目の何をやるか。ビールをつくることは目的ではありません。主軸となる目的は、60歳オーバーの元気な人が楽しく働くことができれば、働く人も、ビールを飲む人も、その地域もすべて笑顔になれる。そんな想いと志、いわば経営の理念に変わるものが事業の中心に必要だと考えています。

計画進行の中、2020年1月に、益田市で初の「ビジネスプランコンテスト」が行われることを知りました。これを絶好のチャンスと考えた私たちは、このコンセプトにストーリーと数字を加えエントリー、発表会へ参加しました。結果は最優秀賞を受賞、翌日には地元新聞にも掲載され、地元のみなさんの期待に背中を押されたことが、大きな力にもなったのです。
「これはもうやるしかない」
本当に覚悟が決まったのはこの瞬間でした。

地元新聞に掲載されました


コロナ禍のピンチがチャンスに変わる。


ビジネスプランコンテスト優勝の2020年1月は、コロナ禍の入り口でした。まだ、行動の規制はありませんでしたが、マスクの着用が必須となりはじめた頃で、その時点では長期にわたるコロナ禍で、飲食業や観光業が大きなダメージを受けるとは思いもよりませんでした。
世の中の雲行きがあやしいそんな中、会社設立準備に始まり、免許の取得、設計、デザイン等、着々と準備を進行し10日間のクラフトビール醸造研修にも参加しました。やる気だけは十分ありながら、つくったことは一度もない素人の2人でしたが、醸造研修の結果、やはり醸造の責任者の必要性を痛感し、島根に移住をしてクラフトビールをゼロから一緒につくってくれるヘッドブルワーを探すこととなりました。

クラフトビール醸造研修

はたして東京でそんな人材が見つかるのか・・・と思いつつも知り合いの伝手を頼り、情報収集をしているところに、2020年6月、偶然にも醸造に携わりたいという30代の男性(後のヘッドブルワーとなる辻)がいるので話だけでも聞いてほしいとの連絡が舞い込んできました。
立ち上げメンバーであり、醸造責任者という重要なポジション、しかも東京から島根への移住、潤沢な資金もない。というハードな条件を伝えたところ、彼からの返事は「ビールがつくれるのならどこへでも行きます」。その場で採用が決定しました。1週間後に島根に同行してもらい、その日のうちに引越し先まで決めるという熱い男、辻と巡り会うことができました。
面接前の辻の状況は、夢だったビール関連の仕事が決まり、長く勤めた会社を退職したまでは良かったが、コロナ禍となり採用を取り消され、途方に暮れていたというタイミングでした。私たちにとってはコロナ禍でのピンチが今後の事業を左右する最高の出会いにつながった瞬間でした。

高津川リバービア株式会社、誕生。


関係人口創出プロジェクト参加から約2年、辻との出会いと同じタイミング、2020年6月にクラフトビール醸造の新会社「高津川リバービア株式会社」を設立しました。
高津川は私たちの醸造拠点の裏を流れる第一級河川、ダムがなく水質日本一にも選ばれた美しい川です。この川の恵みを受けた、農作物を原材料にし、この美しい日本の原風景の中で美味しいビールを飲んでほしい。そんな想いをイメージした会社名となりました。

ビールづくりは素人ですが、会社のブランド構築は本業とするところ、まずは経営理念づくりからスタートしました。
これは会社を経営する上での考え方や価値観を表したもので、ブランディングに欠かすことのできないMI(マインドアイデンティティー)です。
私たちは経営方針を以下のようなミッションとバリューで表現し、経営理念を決定しました。

Mission
人生は、もっと楽しく、もっと豊かに

Value
1  日々を謳歌する
2  常に誠実である
3  仲間の為に動く
4  真の勇気を持つ
5  全てに感謝する

たった一度の人生。まずは私たち自身が楽しみながら仕事をすることで、年齢、性別、地域に関係なくいろいろな人を巻き込み、関わる人を笑顔にしたい。
大切にする考え方や価値がはっきりすると、さまざまな判断基準ができるので意思決定のスピードが上がり、メンバー間での意見のズレも少なくなります。この経営理念があることで、コロナ禍が拡大し経済が混乱する中、これから始まるクラフトビール事業に不安はあまり感じませんでした。持ち前の楽観的な性格もあるとは思いますが、美味しいビールをつくりたいということだけだと、コロナ禍で事業の準備は延期していたかも知れません。

意思決定だけでなくビジュアルを構築も、その価値観に基づいて視覚化するというデザイン制作の軸が定まり、大きくブレることはないと感じています。大切にする考え方や価値をベースに見える化することが、その地域や会社の「らしさ」につながってきます。
これらはレベルフォーデザインと私自身が最も得意とし、これまで磨き上げてきたところです。


次回はロゴマークやラベル等の実際のデザインの考え方、なぜこのようなデザインになったのか、表現の仕方についてのお話です。

高津川リバービアのロゴマーク


▼第1回目の記事はこちら

▼第2回目の記事はこちら


⚫︎この記事を書いた人
清水 啓介(しみず けいすけ)/ L4D / 代表取締役
1967年生まれ、山口県出身。高津川リバービア取締役。映画(マーベル)と読書(ビジネス書)とポールスミスが大好き。好奇心旺盛でリスク耐性が強い。稲盛和夫氏より経営を学ぶ。
Facebook:https://www.facebook.com/keisuke432/



【みんデザ連続投稿キャンペーン】

キャンペーンは終了いたしました。
皆様、応募いただきありがとうございました。




▼高津川リバービアのサイトはこちら


▼株式会社レベルフォーデザインのサイトはこちら

▼みんなのデザイン進化論のサイトはこちら