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肥後百景#26【タワレコ】

ダサいと思われたくない。
あわよくばイケてると思われたい。

その思考回路そのものが既にダサいということには気づくことなく突き動かされてしまうのがダサい男子特有なのだけれど
とにかく、イケてるとどうやったら思われるか日々必死だった。

その中の一つに
「音楽」
というジャンルがあった。

イケてる男子は歌がうまかったり楽器(特にギター)が弾けたり、このジャンルにおいてアイデンティティーを確立している(と勝手に思い込んでいた)

が、自分は音楽はからきしで
鍵盤ハーモニカを人差し指と中指の2本で小学校6年間を乗り切るという大挙を成し遂げた男だ。
2フィンガーズというあだ名さえ一部では付けられていたぐらいだ。なぜ複数形にされていたのかは分からん。あきらかに僕個人に眼差しは向けられていたが、もしかすると僕の指に対するあだ名だったのかもしれない。

脱線したが、詰まるところ、音楽は厳しい。ギターなんてFコードにも辿り着かずにインテリアと化してしまうのが見えていたので、そこはエアーでいいやと早々に割り切った。

が、楽器は扱えずとも音楽を楽しむというのは悪くないし、僕でもできるとふんで、とにかくイケてる人が何を聞いているのかというのにはアンテナを張るようになった。

TVを観るときはとにかく音楽系の番組は欠かさずチェックするように心掛け、CDTVなど夜更かしをする価値があると毎週血眼になり視聴した。さようなら、僕の成長ホルモン。

だが、流行りの曲やいわゆるJPOPが
ダサい
という風潮すらあった

そんなのってあり?だったら何がイケてんのよ?

ある人は言う

「レゲエ」

またある人は言う

「メタル」

先輩が言うには

「ハードロック」

仲良いギャルが言うには

「ORANGE RANGE」

いや、正解どれなん。
路頭に迷った僕は、正解を追い求めてふらふらと根無草のように漂い続け、気づいた時には黄色い看板に赤字が映える店に辿り着いていた。

そこには、これまで見聞きしてきたジャンルやアーティストの総数をゆうに超えるCDやレコード、挙げ句の果てにカセットまで豊富に揃っていた。

店員さんが一押しの曲やアーティストには手作りPOPと共に視聴コーナーが設けられていて暇さえあればそこに足を運ぶようになっていた。

イケてるかどうかはもはや分からんままだったが、高校3年間かけて相当な時間をそこで過ごすことになった。

悟ってしまった。

音楽には正解がない。
とんでもない世界に首を突っ込んでしまったと。

相変わらずからきしなままだけれど、黄色い看板を見かけると心が弾む。

「NO MUSIC NO LIFE」

上手いこと言うねんなー。

熊本にタワレコがあってよかった。

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