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みなとせ はる
2021年4月29日 12:44
「おねーちゃ、だれ?」まだ覚えたての言葉で、辿々(たどたど)しく尋ねる女の子。小さな菜佳が、オリーブの実の様な大きな瞳を私に向けると、ふっくらとした頬に幾本も涙の筋が見えた。私は、お姉ちゃんと繋いだ手が解けないように、ゆっくりと屈んで、女の子の目線に近づける。そして、「菜佳ちゃんのお友達だよ」と答えた。「菜佳ちゃんは、どうしてこんな所にいるの?」私が尋ねると、菜佳は
2021年4月23日 17:23
「悪夢を見るのは、大抵、過去に怖いと思った記憶が、時々悪さをするからよ」お姉ちゃんは、悪夢を見る理由をそう語る。それは、本人が忘れたつもりでも、『記憶の樹』にはちゃんと残っているんだって。菜佳の『記憶の樹』は、3m程の高さがあった。幹は私の両腕で抱えられそうな位で、そんなに太さはないけれど、まっすぐ靭(しな)やかだ。表皮は傷もなく滑らかで、数本の太い枝から幾つもの細い枝が伸びている。
2021年4月26日 12:15
『記憶の樹』から放たれた光が収まって、私はやっと目を薄く開けることができた。あまりにも強い光だったから、暫くの間、目の前が白くぼやけて見えた。段々と、ものの形が把握できる様になると、人形(ひとがた)をした影が動いた。それは、お姉ちゃんが『記憶の樹』の枝に手を伸ばしている姿だった。『記憶の樹』は、お姉ちゃんに心を許したように、大人しくなっている。一本の太い枝を左右に振ったかと思うと、そ
2021年4月19日 20:16
私のお姉ちゃんは、織部(おりべ) アキラという。私よりも4歳年上の21歳。髪はショートカットで、176cmの長身。スラリと伸びた長い手足は、モデルの様だけれど、顔は童顔で実年齢よりも幼く見える。透けるような白い肌、少し癖のある栗色の髪、そして美しい琥珀色の瞳は、日本人離れしている。いつも白いTシャツにジーンズみたいな、シンプルな服装だけれど、それが彼女の美しさをより引き立てて、とても格
2021年4月17日 19:19
透明な紫色のガラス製のドアノブに触れると、ひやりとした感触が掌(てのひら)に伝わる。ドアノブは、ガチャリと音を立て、しっかりと回った。店が営業している証だ。「愛、帰ろうよー」後退を促す菜佳を尻目に、私は躊躇(ちゅうちょ)なく重い扉を開ける。すると、「チリンチリン」と小さなベルが鳴るのと同時に、扉の中に閉じ込められていた暖かな空気が、私達の頬を掠(かす)めていった。良い香りのす
2021年4月21日 20:57
お姉ちゃんと菜佳は、それぞれ両手を繋ぎ合い、向かい合って座っている。さっきまで興奮していた菜佳も、お姉ちゃんに目を瞑るように言われ、大人しく瞼を閉じた。マスターは、BGMにかけていたジャズのレコードを止め、ハーブティーを淹れ始めたようだ。ガラス製のポットにハーブを入れ、ケトルからお湯を注ぐ音がする。ハーブティーの香りが、湯気に乗って、私達の元にやって来た。甘い香りと共に、ほんのりとレ
2021年4月14日 11:53
放課後、品川からJR横須賀線の電車に乗り、私と菜佳は鎌倉までやって来た。「東京から遠くはないけど、なんか遠足の気分だね」菜佳は、キョロキョロ周りを見渡して、美味しいものがありそうなお店を探している。「菜佳さーん。あんまり時間ないから、行きますよー」「えー!? 一軒くらいどこか入ろうよー」観光客の多い駅前の通りには、道の両脇に食べ物屋がずらーっとどこまでも並んでいて、どこにいても
2021年4月12日 19:06
私が小さな頃、怖い夢を見て泣いていると、隣で寝ていたお姉ちゃんが起きてきて、必ず私を泣き止ませてくれた。お姉ちゃんにゆっくり頭を撫でてもらうと、自然と怖くなくなって、私はすぐに眠りについた。❋「愛ちゃん、愛ちゃん、聞いてよー!」クラスメイトの菜佳(なのか)が、後ろの席から指で背中を突いてきた。「どうした、菜佳。また、変な夢でも見た?」普段、私を「愛」と呼ぶ菜佳が、わざわ