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短編小説作品集1

52
初期の短編小説集。物語の中の日常を伝えられますように。
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2021年4月の記事一覧

『星屑の森』―AKIRA―(8)

『星屑の森』―AKIRA―(8)

「おねーちゃ、だれ?」

まだ覚えたての言葉で、辿々(たどたど)しく尋ねる女の子。

小さな菜佳が、オリーブの実の様な大きな瞳を私に向けると、
ふっくらとした頬に幾本も涙の筋が見えた。

私は、お姉ちゃんと繋いだ手が解けないように、ゆっくりと屈んで、女の子の目線に近づける。そして、

「菜佳ちゃんのお友達だよ」

と答えた。

「菜佳ちゃんは、どうしてこんな所にいるの?」

私が尋ねると、菜佳は

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『星屑の森』―AKIRA―(6)

『星屑の森』―AKIRA―(6)

「悪夢を見るのは、大抵、過去に怖いと思った記憶が、時々悪さをするからよ」

お姉ちゃんは、悪夢を見る理由をそう語る。
それは、本人が忘れたつもりでも、『記憶の樹』にはちゃんと残っているんだって。

菜佳の『記憶の樹』は、3m程の高さがあった。
幹は私の両腕で抱えられそうな位で、そんなに太さはないけれど、まっすぐ靭(しな)やかだ。
表皮は傷もなく滑らかで、数本の太い枝から幾つもの細い枝が伸びている。

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『星屑の森』―AKIRA―(7)

『星屑の森』―AKIRA―(7)

『記憶の樹』から放たれた光が収まって、私はやっと目を薄く開けることができた。
あまりにも強い光だったから、暫くの間、目の前が白くぼやけて見えた。

段々と、ものの形が把握できる様になると、人形(ひとがた)をした影が動いた。
それは、お姉ちゃんが『記憶の樹』の枝に手を伸ばしている姿だった。

『記憶の樹』は、お姉ちゃんに心を許したように、大人しくなっている。
一本の太い枝を左右に振ったかと思うと、そ

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『星屑の森』―AKIRA―(4)

『星屑の森』―AKIRA―(4)

私のお姉ちゃんは、織部(おりべ) アキラという。
私よりも4歳年上の21歳。

髪はショートカットで、176cmの長身。
スラリと伸びた長い手足は、モデルの様だけれど、顔は童顔で実年齢よりも幼く見える。
透けるような白い肌、少し癖のある栗色の髪、そして美しい琥珀色の瞳は、日本人離れしている。
いつも白いTシャツにジーンズみたいな、シンプルな服装だけれど、それが彼女の美しさをより引き立てて、とても格

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『星屑の森』―AKIRA―(3)

『星屑の森』―AKIRA―(3)

透明な紫色のガラス製のドアノブに触れると、ひやりとした感触が掌(てのひら)に伝わる。
ドアノブは、ガチャリと音を立て、しっかりと回った。
店が営業している証だ。

「愛、帰ろうよー」

後退を促す菜佳を尻目に、私は躊躇(ちゅうちょ)なく重い扉を開ける。

すると、「チリンチリン」と小さなベルが鳴るのと同時に、
扉の中に閉じ込められていた暖かな空気が、私達の頬を掠(かす)めていった。

良い香りのす

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『星屑の森』―AKIRA―(5)

『星屑の森』―AKIRA―(5)

お姉ちゃんと菜佳は、それぞれ両手を繋ぎ合い、向かい合って座っている。

さっきまで興奮していた菜佳も、お姉ちゃんに目を瞑るように言われ、大人しく瞼を閉じた。

マスターは、BGMにかけていたジャズのレコードを止め、ハーブティーを淹れ始めたようだ。
ガラス製のポットにハーブを入れ、ケトルからお湯を注ぐ音がする。
ハーブティーの香りが、湯気に乗って、私達の元にやって来た。
甘い香りと共に、ほんのりとレ

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『星屑の森』―AKIRA―(2)

『星屑の森』―AKIRA―(2)

放課後、品川からJR横須賀線の電車に乗り、私と菜佳は鎌倉までやって来た。

「東京から遠くはないけど、なんか遠足の気分だね」

菜佳は、キョロキョロ周りを見渡して、美味しいものがありそうなお店を探している。

「菜佳さーん。あんまり時間ないから、行きますよー」

「えー!? 一軒くらいどこか入ろうよー」

観光客の多い駅前の通りには、道の両脇に食べ物屋がずらーっとどこまでも並んでいて、どこにいても

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新連載『星屑の森』―AKIRA―(1)

新連載『星屑の森』―AKIRA―(1)

私が小さな頃、怖い夢を見て泣いていると、
隣で寝ていたお姉ちゃんが起きてきて、
必ず私を泣き止ませてくれた。

お姉ちゃんにゆっくり頭を撫でてもらうと、自然と怖くなくなって、私はすぐに眠りについた。



「愛ちゃん、愛ちゃん、聞いてよー!」

クラスメイトの菜佳(なのか)が、後ろの席から指で背中を突いてきた。

「どうした、菜佳。また、変な夢でも見た?」

普段、私を「愛」と呼ぶ菜佳が、わざわ

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