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ラッタウット・ラープチャルーンサップ「観光」今年ベスト短編集!

タイ系アメリカ人の短編集。ハードル低かったのもあるけど、すごい良かった!誰かにオススメの短編聞かれたらこれにする!
こんなのとの出会いがあるから、ブックオフもたまには行くもんだな!

「カフェ・ラブリーで」
お兄ちゃんに連れられて初めて悪い遊び場に行くはなし。
お兄ちゃんについて行ったら大丈夫、と思っていたらシンナー吸いだしてわけわかんない状態になって、一人で取り残された少年が女の人にからかわれながら強がる感じが痛々し愛しい。怖いんだけど、エロいやらワクワクするやらで、どうすればいいかわからなくなった一夜。

たしかな記憶だったはずなのに、あとで聞いても兄ちゃんには「絶対行ってない」と否定されて、なんだかその日ごと夢だったみたいに曖昧になってしまう。そんな子供のころの記憶。バイクのクラッチ操作やシンナーを吸う描写がリアルで、よく若い作者がこんなところをごまかさずに丁寧に書けるなあ。

「闘鶏師」
思春期の女子視点で、闘鶏にのめりこんで破滅していく父を観る話。
庭で鶏を育てるところから始めるので、母を放って鶏の育成に夢中になり、ボロボロに殺された鶏を車に乗せて帰ってきて、ずっと強がりを言う父に代わって母が羽をむしり、食卓にあがる。
昔は頼りにしていた父がだんだんおかしくなっていく。

バカなことに夢中になっている男たちのかわりに母子がやることが、よりによってブラジャーに飾りをつける内職で、学校では胸のことを男子に言われるし家では父が強い鶏理論を語って大金を注ぎ込むし、男たちを心底軽蔑したくなるが、父親だから完全に捨てるわけにもいかない。そして母はある行動に出る。

「観光」
失明する直前の母が、まだ見えるうちに息子と小旅行をする。
頼りになる母が、観光客向けの店で「アルマーニ」のロゴが入ったサングラスを強気の値切り交渉で買う。
ガイジンじゃなくてタイ人向けの値段にしろ、と明らかに偽物とわかってるアルマーニを値切る母の頼もしさと、近いうちに視力を失う人がサングラスを値切る姿が、物騒だけどあったかい。
気丈な姿を見せて息子を送り出したかったのかなあ、と、いろんな感情がこみあげる。

タイでの出来事を書いているけど、どこの国の人が読んでも共感できる。
子供の頃に怖かったことや、頼っていた両親が衰えた瞬間を見てしまった苦い味。
初めて見るのに、掘り出される感情には見覚えがある。物珍しさで買ったけどお気に入りの一冊。


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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。