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【読書記録】春日太一「時代劇入門」 時代劇は過激なジャンル。水戸黄門のような作品が異端だった

農民が「直訴」って書いた紙を竹の割れ目にはさんで、お上に出すかんじで、
「やることないし映画とか飽きた」と言ってる人には、この本を竹竿の割れ目に挟んで出そう。

黒澤明って?清水次郎長って?西南戦争って?勝新太郎って?忠臣蔵って?というレベルの僕でも読める、知識ほぼゼロからの時代劇カタログ。

名前だけでも覚えとけば損のない、役者名と作品と監督名を地引網でかっさらうようにガーッと並べて、最低限の関連事項をバーッと教えてくれる。

歴史の勉強ではない。
ひとりのアイドルやスポーツ選手をきっかけに、気が付けばその世界に詳しくなるように、食わず嫌いしている世界の、壁に穴をあける「針」のような存在が見つかればいい。

この本は、本当は夏に入る前の自粛ムードがガンガンの時期におすすめすべきだった。
Amazonプライム。NETFLIX。kindle。そのかたわらに置いてカタログがわりになる。
我々の手の届くところに、先人が命を削って作り上げた作品が、タダ同然で一生かけても味わえない量ある。「退屈」とか簡単に口に出してはいけない。

特に好きなのは、忍者の成り立ちを説明していく章。
もともと正体不明で小さな存在だった忍者が、黒装束になって、特撮で「忍術」が発明され、白戸三平の漫画で「抜け忍」のオキテがくわわって、水戸黄門でセクシーくのいち要素が定着して、、、
作品を重ねるごとに忍者要素が足されていくのを追っていく。

巻末には「ガンダム」の富野由悠季監督との対談も収録。

僕はガンダムに詳しくないけど、ロボットアニメにリアルな視点を取り入れたところが評価されたと聞いている。
でも、リアルな戦争に、現代の人間同士の闘いでも見かけない「なぎなた」での戦闘がある。なぎなたの攻撃をひらりとかわす動きは「弁慶と義経」のイメージがある。

劇場版「哀・戦士編」での、ガンダムVSグフの立ち回りは、柳生十兵衛VS荒木又右衛門に置き換えても成立するという。

ところが、時代劇を見てきた経験が糧となってガンダムになったのかと思ったら、富野監督の口から時代劇には厳しい言葉が次々と出る。
特に、人を斬ることへの意識が軽い、動きが軽い時代劇には厳しい。
「るろうに剣心」を悪い例として名指しで批判するのも驚いた。
的外れなことを聞いたら切り捨てられそうなインタビューだ。

映画が娯楽の王様だった時代から、
テレビがスターを生む時代になって、残念ながら時代劇が衰退した現代までの流れが一通りわかるけど、これだけ形を変えて生き残ってきたものが、簡単にこのままなくなっていく気がしない。
時代劇は、「配信時代」に入って、また姿を変えて出てくる気もする。

この本では「時代劇は若い世代にマンネリ、ワンパターンなものと捉えられている」とあるが、おそらく、本当に若い世代に「時代物は退屈」というイメージはない。
王道の西洋風ファンタジーが「またか」と思われて、時代劇は「逆に新鮮」と受け止められている。

プレイステーション4では「SEKIRO」や、元寇をとりあげた「ゴーストオブツシマ」が大ヒットしている。「ニンジャスレイヤー」の二次創作も溢れかえっている。
今こそが、歴史上かつてない数のサムライ・ニンジャが世界中にあふれている時代だ。

若者に流行っていることは、チャンバラの腕を配信したり、クロサワ風の津島の風景をSNSにあげることだ。
NETFLIXで大型時代劇の企画が進んでてもおかしくない。世界中にサムライや忍者の活躍を観たい若者がいる。

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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。