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哲学の 問いに戸惑い 冬里に 結果来れたは 唐久谷かな

「どんなに言葉を尽くしても、結論が出ないであろう哲学的なテーマについて語り合うことは、時間の無駄だと思いますか?それとも有意義だと思いますか?」

突飛もない質問を受けてしまった。ひとりの学生が町から寒さが少し和らいだ晴れた日の冬空を見ながら山の方向に歩いている。学生は中学生のころ図書館で読んだ歴史上で有名な哲学者の伝記を読んだことがきっかけで、「自分も哲学を」と考え、大学で哲学を学び始めた。

だが学生を担当する教授が哲学の根本に対するような質問をメールでぶつけてきた。明日までメールで回答せよという。

「肯定も否定でもよいから自分の言葉でと言われてもなあ」哲学者にあこがれて哲学を学ぼうと考えたことがそもそもの間違いだったのかと、山に向かうアスファルトの広い道を歩きながら思った。ときおり車が猛スピードで学生を追い抜いていく。「細い道に入るか」学生は広い道から、車の往来が少なそうな細い道に入る。

「哲学の『て』の字もわかっていないのに、哲学を学ぶとは、ふう」学生はため息をつく。ふと風景を眺める。学生は山を切り開いた新興住宅地に住んでいるが、今日は坂を降りてさらなる山のほうに向かって適当に歩いていた。歩いていたら、教授からの問いの回答が得られるかもしれないと考えたのだ。

結局回答ではなく、愚痴だけが先行していたが、気が付いたらずいぶんと山里に来ていたようだ。「こんなところに家が何軒も」近くに住んでいたのに今まで行ったことがないところに来ていた。ここは観光地でも何でもないし、町とは反対方向だから行く用事など普通はない。

知らないところだが。スマホがあるから今どこにいてどうやったら帰られるかはわかる。電波は届いているから何も不安はないのだ。

「ほう、これは集会所か。へえここ、唐久谷なのか」聞いたことはあっても初めて来た場所だから新鮮だ。立ち止まって集落を眺める。
「大学での問いなど、もうどうでもいいかもな」ここで学生は諦めた。結論が出ないテーマで議論することが有意義か時間の無駄か、そんな問いに真剣の考えることが時間の無駄かもしれない。

「でもあの問いがあればこそ、ここに来た」結論が出ないまま、迷った末に歩いてきた場所だ。だったら有意義なきっかけを生むことになるのかなとも思った。

「ひ、さ、寒い」突然強い風が吹いてくる。冷たい空気が体を襲う。全身が震えた。すぐに風が収まったので、もう一度集落とその先の山に視線を置く。この先を歩けば本当の山道に入れるだろう。だが、寒いしもう帰ることにした。「哲学は難しい、奥は深そうだけど」そんなことを思いながら戻っていく。そしてふと口から出たのはどういうわけか短歌であった。

哲学の 問いに戸惑い 冬里に 結果来れたは 唐久谷かな
(てつがくの といにとまどい ふゆざとに けっかこれたは からくだにかな)

山根あきらさん「あなたへの5つの質問」のQ.2に参加しました。

今日の記事「河内長野のへそは唐久谷」を参考にしました。

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