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夜の散歩


「夜の散歩」

誰も私のことを思い出さない時間だけは、私は誰のことも忘れてないと思える。私がいなくても、やがてここは朝日が照らし、素敵な人や場所は受け継がれていく、私がきみのことを思い出さなくても、きみの影には、太陽で焼かれたきみの瞳よりも深い色が、古傷となって、誰かによって途切れることなくきみは思い出されて、いつもジリジリしているんだろう。それをさみしさだと勘違いをして、全てがどうだってよくなり、音楽や、夜や、火照る体温で体を痛めつけたくなる衝動は制御不能だからいいんだ、生きていてほしいんだ、そんなきみを抱きしめられるのは、街一番の光に照らされた夜空より、全ての人に忘れられた誰かじゃなければだめだ。春なのに遠い昔の夏の匂いがする。誰かと出会った時のような、さよならをした時のような、私が生きている限り犠牲になり続ける、思い出せない大切な人、私は今、きみを抱きしめている。

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