春風に絡まって動けないでいる私は、 天国を思い浮かべるように、 今年の夏を待っているようです。 石につまずく人の影に手を伸ばして、 もう歩かなくてもいいよと慰めるつもりで、 本当は光に照らされてこぼれてしまった誰かの愛に触れたかった。 めったに泣かないけれど、本当は毎日泣いていたいのです。 そうして、砂埃の舞う乾いた春を終わらせて、 涙に濡れたみずみずしい大気やコンクリートや葉っぱで、 ひとつの季節を一からつくり上げたい。 昨日から雨が降っている。 遠く、ジャングルの奥地で
恋をしているからだね それは正しくて、不幸なことだよ 私も恋をしている、きみ以外のすべてに ほとんどの人が私と出会う直前に死んでいく 空に恋をしたことはないな、とっくの昔に別れたよ 美しいと言ってあげる人も必要だから、私は昔の恋人を忘れた 空の青は人類にとって美しさの象徴になった 毎日見上げて、こっちを見るなと言われて、ああ美しい
気分は常に変容する。何を着ようか考えている時もだ。高低があり、速さがあり、常に波打っている。ファッションってその人の、服を選んだ時の、気分だ。そんなの当たり前だと言われるようなことなんだろうし、私もそう思ってた、はずだった。でも違った。自分はそう思っているという気だけで生きていただけだった。当たり前だと吐き捨てて終わらせてしまうことほど、私はきっと何も知らない。今回はファッションだった。 自分が持っている服の中でできることなんて、どんなにたくさんもってたって数には、クローゼッ
「夏至」 世界にはいろんな人がいて、あなたにとっての当たり前は、本当は当たり前なんかじゃないんだよと、あなたが言った言葉は、私以外のみんなを救っているんだろう。朝だっていうのに、眩しい。 私は、花の美しさを忘れてしまいました。だから、私は傷ついている人を見ても悲しくならない。かわいそうだ、と言った、誰かが誰かに、夜が明けるまでの時間稼ぎみたいに。永遠だと信じてもらいたい恋は、本当はきみたちを大切に思っていたことなどない。朝が、どれだけの人を救えるというのか。朝に、絶望した
もはや、私にとって、誰かにまた会うということになんの意味もなくなってしまったのかもしれない。嫌われたくないなと思わせる素敵な人だった。それだけだった。誰かに会うのに理由なんていらない。しかし今、私は、理由なんてないけどあなたに会いたい、と思ってはいなかった。ふと、元気かなって、私が知らないどこかで、私の知らないふうに生きている人がいるんだってこと、そんなあなたに私は会ったことがあるということ、元気かな、どうしているかなって思い出せる人が、今、私のそばにはいない人が私を居心地良
「夜の散歩」 誰も私のことを思い出さない時間だけは、私は誰のことも忘れてないと思える。私がいなくても、やがてここは朝日が照らし、素敵な人や場所は受け継がれていく、私がきみのことを思い出さなくても、きみの影には、太陽で焼かれたきみの瞳よりも深い色が、古傷となって、誰かによって途切れることなくきみは思い出されて、いつもジリジリしているんだろう。それをさみしさだと勘違いをして、全てがどうだってよくなり、音楽や、夜や、火照る体温で体を痛めつけたくなる衝動は制御不能だからいいんだ、生
「雪の詩」 私が住んでいる街よりもきっとはやく、この街は眠りにつく。太陽が沈む直前の、一日でいちばん美しい光が、ほんの少しのあいだ、夜の街を灯している。なんにも伝わらなくていいなら、見ず知らずの人との会話は、頭上から降ってくるひとつの雪の一生みたいに無音だった。少し離れるだけできみも、街も、私の視界に収まり、どんどん小さく、死んでいくっていうのに、生きている限り、誰にも会えるはずはなくて、ただ、視界の中で死んでいったたくさんの人たちの残像を、誰一人こぼさないように毎晩まぶた
「恋」 何度記念日を迎えても 私たちは今日限りの関係だった。 本気だなんて言わないで 二度と私を離さないなんて言わないで 言って いつか離すと 言って いつかわたしがいなくなった人生を君に贈ると。 あなたに出会う前の私に一生戻ることなく あなたに出会う前のように わたしはひとり 生きていくの。 あなたもひとり 生きていて。 恋をする以外の別れ方を、私たちは知らない。
「絶望の詩」 きみが愛しているものを愛することはできないけれど、きみが愛しているということだけで、きみに愛されている気がするから、私はきみを愛しています。進んでいく、時間を、私を超えて、指先で辿っていくその先が、決してわたしに行き着かないから、私はきみの頬を撫でたくなる。何も知らず、わからずに、進んでいくきみが、人生最期の瞬間まできみらしかったと、わからなさが、きみそのものだったと、きみより一日長く生きて伝えるために、私は、腹八分目でしょくじを終える、ほしいとおもったものた
「生きること」 本を読んでも、言葉には追いつけない。本を読んでも私の上にあなたを上書きすることはできない。人に影響されやすくて、口癖や口調や、語尾の息遣いがコロコロ変わる。何を信じて、何を切り捨てるのか、全ては私の意思ではなかった。それが嫌でした。私と呼べるものが何一つなくて、海だって、空だって、それぞれの色をしているのに、私はカメレオンみたいに、変わっていく景色に溶け込んでしまう。生き延びることは楽なことだ。毎晩襲ってくるひどい眠気に従い続ければ、それはもう永遠を手にした
「宝箱の詩」 月が綺麗ですね、と誰かが言うたびに、 宝箱へとその思いはしまわれて、月へと返された。この掌で、あの表面に触れることができたなら、 僕の心にも、誰かの骨を芯まで冷やしてしまうような冷たさがあるのだと思い知って、 君を傷つけずに、夜を支配するただ一つの、 君の冷たさを知らせる光になれるのに。
あんなこと言ってるけど実際はこうに違いない、と相手を疑ってしまえるって、異常なことだ。人にそう思わせるような行いをしてきたのだから仕方がないと、人は言う。疑うことこそ正しいと、熱くなれる。住んでいる地域、国、言葉、年齢、時代を軽々と超えて、凄まじい勢いで伝染していく。私たちが本来、正しくないとすることでも、相手がしてきたのなら、その相手にやり返すだけのためなら、正しくないことをするのが正しさになってしまう。でも本当に、私たちはそういう態度でいいのだろうか。私たちが信じてきた正
「年末年詩」 君が話す言葉も、思いも、幻で、君が君自身の本当の思いを知ることはできないだろうし、そしてその思いを話してくれる日は永遠に来ない、と思ったとき、波音が聞こえた。瞳の水面でパチパチと光が踊っている。君がぼくのことを好きになる日は永遠にこない、それは君がいちばんよく知っているね。だから、好きとか、嫌いとか、相槌とか、感情で話すこと全部、僕は信じない。君のこと全部、僕は信じない。 君がいなくても生きていける、それは、僕が言葉を話さなくても生きていけるくらいどうでもい
公務員に対して、あなたたちの給料は税金から支払われているんだから、もっと市民に対して優しくしろ、とか、ご飯を奢ってもらった人が、奢ってくれた公務員の相手に対して「それは私が払った税金でもあるからね」って言う人までいるという話を聞いて、面食らった。まあ、世の中には他にも似たような話がゴロゴロ落ちているわけですけれども、誰が誰にどんなことを言ってるのかとかいう内容はどうでもよくて、人が人にこうすれ、ああすれって言う行為はみっともないなって思う。そういう発言してる人のエネルギーが私
僕と空の間に、境界線として、風が流れている。 僕と君の間に、境界線として、恋がある。 繋ぐものではなくて、 これ以上近づかないために僕は君を好きになった。 肌は、恋の境界線。 君に触れても、この手の感触が 君がここにいるという証明にはならないけれど、 僕の体が温かい限り それは君がそばにいるっていうなによりの証明になるよ。 この肉体に触れていたくて、君に恋をしたのかもしれない、 太陽に手をかざせば温かい、 ここが僕の居場所なんだ。
命をかけて世界を変えようとしている人の何が素晴らしいのだろうか。軽々しくそんなことを言う人がいるから死ぬ人が後を絶たない。私は誰も殺したくないし、そうとも気づかずに今日も言葉で誰かを殺している人、殺人事件のニュースを見て「こんなことをした奴は死刑だ」と叫ぶ全員を私は嫌いになる。私は言葉の冷酷さを知っている。目の前の出来事を不気味なほど美化して綺麗に片付けることができる言葉。矛盾や違和感だらけの日常を生きているからこそ、その屈託のない清々しさ、後味の良さに怖くなる。だから私はあ