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本ときどき書評

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読書は大好きで、いい本に出会うと、この本もう一度読むと、腑に落ちるだろうなと思いはするけれど、他に読みたい本だらけ、だから立ち止まって書評なんて、なかなか書けないのです。
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#書評

社会学してみる

社会学してみる

 ここ数日、岸政彦の日記みたいな本を読んでいる。何と言うんだろう、世の中のどうでもいいようなことに如何に気づくか、社会学者の職業病なんだろうか、そういう性格故に社会学者になったのか定かではないけど、そのどうでもいいようなことを如何に文字にするかが勝負なんだと読み取ってしまう。

 例えば、読みかけの本を取り落とした時に、落としたことよりも、本に挟んでいた栞が本から抜け落ちたことにショックを受けて、

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圧巻の677ページ

圧巻の677ページ

 「荒野の向日葵」(野村 和志著)拝読させて頂きました。長い道のりを一緒に読み歩いた感覚にさせられました。障害当事者がご自身で書いた本では口述とは言え最高水準だと思います。感動しました、素晴らしい作品でした。とても自費出版の範疇に収まる作品ではないですよ。商業出版で沢山の人に読んで貰いたいと思いましたよ。

 著者の自伝という一本の物語に、関わった様々な人たちの生き様と考え方まで、加えて、その時代

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表現力のこと

表現力のこと

本を読んでいて思うのが、作家の表現力の凄さですね。見たこと感じたことを、どう表現して伝えるか。村上春樹、夏目漱石、皆さん、凄いです。ここまで言葉に置き換えられるのかと感心させられてばかりです。私たちの日常はひどいものです。秋の夕焼けを観て感動した時に、そのことをどう伝えますか。「凄く綺麗だったよ」ダメですね。「もう超感動、とても言葉に出来ない。」これもダメだなぁ。「沈みゆく太陽の眩しい残照が落ちて

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蜩ノ記

蜩ノ記

この前、「蜩(ひぐらし)ノ記」という時代小説を読んでみたけど、二つほど良いところがありましたよ。時は1600年代、百姓と武士、さらには主君と家臣との関係の中で物語は展開されます。良かったことの一つは、幼い頃に川べりで見かけただけの主人公と娘、きっと今風に言えば、あの子イケてるなぁ程度か、それ切り二人はそれぞれの人生を歩き始めるも、40数年の時を経て、なお、あの時に抱いた淡い恋心、決して成就されるこ

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紋切型社会

紋切型社会

「紋切型社会」武田砂鉄著を読んだ。まあ社会全体が波風を立てないことを基準に言葉を選んで使っているのではないかというような話。適当に引用するとこんな感じ。五体不満足の乙武 洋匡 氏とHIV訴訟原告の川田龍平氏、世間は乙武くんと呼び、川田さんと呼ぶ、高校野球は選手を君付けで呼び、国会でも議員を君付けで呼ぶ。指名手配の容疑者は犯罪が確定していなくても呼び捨てだ。かの24時間テレビ、今年は D

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神々の山嶺

神々の山嶺

孤高の山エベレスト、ネパール名サガルマータ、チベット名チョモランマ、私は今、その神の領域と接する山を正面に見上げるベースキャンプに居る。標高8848メートルの孤高の頂を見上げている。気温マイナス22度、地上の3分の1程度の希薄な空気の中で、小さく息をしている。足元に横たわっているのは、エベレストの頂に降った雪が凍りつき、自らの重量に耐えられずに滑り下りて来る氷河、20キロを3500年かけて移動する

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武蔵無常

武蔵無常

久しぶりに北方謙三ワールドに浸ろうと「黒龍の棺」を読むものの、予想に反して面白くなかった。じゃあと北方が絶賛している「武蔵無情」(藤沢周著)を手にとってみた。若い頃に「宮本武蔵」吉川英治著に心踊らされた私としては、武蔵をどう語るのか興味津津、物語の序盤、吉岡一門との決闘の幕開けとなる清十郎との闘いの件、この物語で終始亡霊のように纏わりつく内なる武蔵が語る武蔵の人物評が凄い。不覚にも一気に引き込まれ

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僕の声は届かない

僕の声は届かない

「僕の声は届かない。でも僕は君と話がしたい。」(近藤崇著)ある日、突然に訪れた病で、寝たきりの閉じ込め症候群となった医師の語り。痒いけど、掻けない。痛いけど痛みを誰にも伝えられない。ある日ある時、いきなり注射を打たれ、突然、手術が始まる。地獄のような日々。情報がアウトプット出来ないことの壮絶な記録、障害の重い人、寝たきりを余儀なくされている患者さんの気持ちを少しだけ垣間見たような気がしました。この

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三国志

三国志

4月は12冊も読んでしまった。少し紹介しましょう。
まず、北方謙三の「三国志(全13巻)」読破しました。長編歴史小説、群雄割拠の戦国時代、ある武将は力で、ある武将は徳で、或いは志で、出会いと別れを繰り返しながら、天下を取りに行くわけですよ。歴史小説を読むといつも思うのが、この業界をそのまま小説にしても、似たような波乱万丈小説が出来てしまいそうだということです。そして、トップを走っている人、オーナー

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