【読書記録】海と毒薬
2022年1月29日の読書記録(Instagram投稿)
2022年1冊目は遠藤周作の「海と毒薬」
戦時中に九州大学で行われた米軍捕虜の生体解剖事件を題材とした小説です。
殺すことを前提とした解剖実験は現代を生きる人間からすると当然許されざる行為で
参加した人間に良心はないのか?罪の意識はないのかと問いたくなるけど
この物語を読むと戦争が、その時代に生きた人々の命や倫理観をどれだけ麻痺させてしまうものだったか思い知らされます。
毎日のように街が焼け人が死んでいく時代。
「病院で死ななかったら空襲で死ぬんや」という言葉が繰り返され、いかに戦争が命の重さを軽んじてしまうものかが綴られます。
何年もそんな日々が続いたら命の価値観が揺らぐのは想像に難くない、そんな時代に「敵国の捕虜を人体実験に使用する」と決定し、流されるままに解剖に参加した医師は戦争が終わってからこのことを何度も何度も後悔します。
解剖に手を染めた人たちを残虐非道な異常者と責めるのは簡単だけど本当にそうだろうか。
同じ状況下に置かれて絶対やらないなんてだれが言えるだろう。
これを読むと登場人物みんなが「戦争」という時代に生まれた犠牲者であるような気がしてならないし
条件さえ揃えば自分も手を染めてしまうのではないかと考えさせられます。
この物語で何度も「神」という存在が強調されますが、神なき日本人とクリスチャンの対比がすごく興味深かった。
キリスト教にはやってはいけないという絶対的な規範があって、それがキリスト教徒の行動の核となっているし、
実際この物語のクリスチャンの言葉には「神様が見ている」「神が怖くないのか」とある。
一方日本人は、ほとんどの人が無宗教だからそもそも「神が見てる」という概念がない。
核となる存在や教え、思想がないからこそ極限状態においてどこに救いを求めればいいのか、
なにが正しいのかわからないまま戦時中の社会や同調圧力に飲まれていき、「神はいるのだろうか」と神を求め苦しむ様子は、神なき日本人ならではでないか。
後から知ったけど遠藤周作はキリスト教徒とのことなので、このクリスチャンとの対比は日本人でありキリスト教徒である遠藤周作だからこそ描けたものだと思う。
この小説、ずっと気になってはいたものの重苦しいテーマになかなか気が進まず長らく積読してました。
読んでからも感想をまとめるのに時間がかかってしまいやっとの投稿。
久しぶりにずっしりとした読書体験ができて満足。
初詣や海と毒薬を読んだことを機に、
日本人の信仰心や宗教観にすごく興味がでてきて最近はそれ関連の本ばかり読んでいます。
遠藤周作の「沈黙」も積読中なので近々読みたい。
読んだら五島列島に行きたいな〜
2022年1月29日の読書記録(Instagram投稿)
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