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幸せって何だろう。
星明かりの下、ひとり物思いに耽っている。夜の海はただ美しく、空虚な闇だけが広がっている。波の音がやたらと孤独を誘う。風は涼しいのに何だか温かい。
幸せって何だろう。
何度目かの同じ問いを繰り返しながら、自然の奏でる音楽を聞いている。そう、ただ、聴いているだけ。

「すべての痛みを知ってる人なんていないんだよ。」
彼女はそう言って笑った。
だからこそ僕らは、きっと誰かに優しく出来るんだろうね。僕の知らない痛みを知る誰かに。
それでも僕はあなたの痛みだけは知っていたかったな。それはさ、僕の痛みでもあるから。

寒さに震える。
もはや慣れてしまったかじかむ痛み。
風が冷たいな。手を擦りながら信号を待つ。摩擦熱なんかじゃこの寒さはどうにもならないようだ。僅かな熱が虚しくとけてむしろ寒さを助長する。
ただ春だけが待ち遠しい。
それなのにどうして、どうしてこんなにも。
嗚呼、凍える月が綺麗だ。

空を飛べたら良いのに。そう願わなかった人がいるんだろうか。地を這う僕らは、今日もなぜだか空を見上げる。届かぬ何かを慕うように。ただ空を。あの空を。嗚呼、今もただ一陣の風が遥かな虚空を駆け抜けた。もしも、そうもしも。僕らを包む風も空の一部だというのなら。今、僕らは空で暮らしている。

今日もどうでもいい言葉を綴っては悦に浸っている。果たして書き捨ててるのとどこが違うんだろうか。何かある度に見上げる空に、結局答えなんてありはしないのに。
明日も日が昇るなんて誰が決めたんだ。冬の後に春が来るなんてわかりはしないだろ。それはそう、共通認識。常識という名の信仰の類だ。

「よく分かんないんだけど」
そう前置きして君は話し始めた。案の定、あまり中身があるとは思えない話だったけど、あんまり瞳が輝いているから遮る事もできずに。僕は適当に相槌を打ちつつ、君の若干大きな身振りを見ながら思う。こんな日々に名前をつけるとしたら、それを幸せと呼ぶのかもしれない。

強さってなんだろうか。守りたいものすら守れなかった僕はあの日のまんま、弱いままなんだろうか。
心が凍ってしまったみたいに涙が出てこなくて、泣けないまま僕は空を仰いだ。守るって一体何からだろうね。
涙の代わりに歌でも歌おうか。ギターが僕の代わりに泣いてくれているから。今なら、歌える

なんだかよく聞く経験、その程度な体験談。それなのに、あなたの人生変わったの。結局人間の本質って大して変わんないものなのね。自虐気味にそうひとりごちた。そう、こんなものよくある話なのに。いつの間にか流れていた涙を乱暴に拭い、もう一度目を閉じる。願わくは次こそは安らかな眠りを、と。

ふと集中が切れて、PCから目を上げそのまま天井を見つめる。蛍光灯の光が眩しくてぎゅっと目をつむる。今何時なんだろう?時計すら見る気力が湧かない。少しだけ歩いてこようか
暗い夜道にほっとため息が出る。このまま夜が明けなければ良いのに。歩道橋の上でひとり明日が迫る音に耳を傾けている。

夜、ひとり受付の前にぽつりと座っている。BGMが思考を阻んでやけに鬱陶しい。たまに感じる人の気配に少しだけほっとする。それでも世界に忘れられたような不安は拭えなくて。繋がる先を求め、何となくスマホを開く。もっとも、その向こう側が確かに存在する保証なんて、どこにもないのだけれど。

たかがこんな一粒に僕の心が左右されるなんてね。皮肉にも似た気持ちで水とともに嚥下する。いつも僕を振り回す暴れ馬が、いとも容易く化学物質に屈してしまう。自分ですら手綱を握れないのにさ。果たして僕は僕と言えるのだろうか。少しだけ身震いがして考えるのをやめた。僕は僕だ。そうだろう?

いつもの電子音と雨の匂い。気怠げに僕はゆっくりと伸びをした。ガラス越しに見る雨は、カーテンのように風に揺れている。雨は嫌いなんだけどな。見ているだけなら好きでいられそうだ。ふとあの子のことが脳裏をかすめた。届かなかった想いを音に乗せたら、それはラブレターと呼べるのだろうか。