見出し画像

眠る月

暁に夢を見た。

月が、田んぼに埋まっていた。
ざくざくと耕された夜中の田んぼに。

盆のように平たくて丸い月は、
黄色く、明るく、
公園の砂場ほどに大きくて、
その丸い曲線の端だけを見せて、
静かにそっと横たわっていた。

てのひらで、すりすりと土をはらうと、
月は、ひんやりと冷たくて、
人肌くらいに柔らかく、
ゆっくり、ゆっくり、呼吸をしていた。
傷つけないよう、少しずつ、
少しずつ土をはらうと、
あらわれた部分は尖っていて、
三日月だと知ったのだった。


それだけの夢。

目覚めたとき、
湿った土の匂いがした。
ひんやりとすべらかな感触が
てのひらに薄く残っていた。

月は、田んぼに眠るのだろうか。

-------------------

作家・魚住陽子さんから声をかけて頂き、魚住さんの個人誌「花眼」7号(2008年12月)に書かせて頂いた短編「片割れの月」、実はこの夢がもととなっているのでした。この号の目次を見ると、魚住さんはもちろん、詩人の野村喜和夫さん、画家の加藤閑さん、と、豪華執筆陣。ここに加えて頂いたなんて、なんと畏れ多いことだったろう、と今更ながらに。

「花眼」7号 目次
掌編小説 「野末」       魚住陽子
短編小説 「片割れの月」    田川未明
詩     「小言海」     野村喜和夫
句集    「花眼」      魚住陽子
随筆   「クラインの壺2 
      高田渡の仕事のこと」加藤閑
連載小説 「菜飯屋春秋」(七) 魚住陽子

この「片割れの月」、いつか電子化しようかなあ、なんて、ぼんやり考えていたのだけど(そういえば、小説現代新人賞最終候補作「天糸瓜」も、いつかは、と――ちなみにこの時に受賞されたのは朝倉かすみさん。選考委員のおひとり椎名誠さんとはこの後ご縁がつながり、有り難いことでした)。

ここで有料公開、というのもありなのかな(まだnoteの使い方がよく分かっておりません)。その両方で、っていうのは、許されるもんなのか。ちょっと調べてみます、です。

ところで。
このnote、テキスト投稿にすると、TOP画像は切り取られてしまって、オリジナルは表示されない仕様のようで。基本的にわたしはアップ画像のほとんどを「よかったら使ってね-」というスタンスなので、ここにオリジナルサイズも追加しておきますね。重複しちゃうけど、お許しを。

満月2016-03-26 12a-1




この記事が参加している募集

自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?