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男の子の言い分

 今年の3月まで30年近く自宅で学習塾をやっていました。最初は学年別で教えていましたが、途中から無学年制の個別指導形式になりました。講師は私ひとりで全教科を教え、生徒は小学生から高校生まででした。塾の思い出や子どもたちのこと、教育について思うことなどつづっていこうと思います。

 小学校4年生くらいになると、男の子たちは口をそろえて言います。
「最近、女子、わけわからん」
 ついこの間までみんなで仲良く遊んでいたのに、女の子同士でこそこそと、文通や交換日記などをしているのです。何を書いているのかのぞこうとすると、
「あっちへ行って!」
と拒絶される。毎日学校で会って話をしているのに、まだそれ以上手紙や日記に書くことがあるというのが、男の子には理解しがたいらしい。

 口げんかも女の子にかなわなくなります。男の子のボキャブラリーはわりと貧困ですが、女の子の口のまわることといったら。それに、相手は自分が忘れてしまっているささいなことも、きちんと覚えているのです。
「あんた、1週間前の掃除の時に、こうこうこういうことしたやろ!」
 そう言われても記憶がない。そしてケンカの最中に女の子は言う。
「あんたが今日の体育の時間にこういうこと言うからやんか!」
 男の子はあっけにとられます。怒っていたのは、1週間前の掃除の時間のことだったはずだ。それがなぜ、今日の体育の時間の話になるのだ?彼はまだ知りません。この『記憶力のよさ』と『論理の飛躍』には、その後一生悩まされ続けることになるということを。

 男の子の最後の砦であるはずの腕力も、やがて女の子にはかなわなくなります。小学校の5、6年は、女の子の方が体格がいい。男の子たちはぼやきます。
「女子を1発たたいたら、5発返ってくる。めっちゃ痛い」
 そして時々泣きそうになるらしい。女の子にたたかれて涙目になってる男の子。なんてかわいそうなんでしょう。

 中学生のお兄ちゃんによると(うちの塾は個別指導だったので、同じ時間に小学生から高校生まで一緒に勉強していました)、状況は中学生になっても変わらないらしい。いや、もしかしたらもっと悪化しているかも。
 口げんかでは、もちろんもうぐうの音もでません。男の子は女の子より大きくなっていますが、もし女の子をたたいたりしたら大変です。女の子たちに取り囲まれて糾弾されてしまいます。
「男のくせに、女子をたたくなんて最低やわ!」
 けれども自分たちは平気で男の子をたたくのです。そこに矛盾を感じつつも、
「やっぱり女子のことはたたけんよな。俺たち男やし」
と言ってる男の子たちは、ちょっとけなげだったり……。

 高校生になったら事態は好転するのではという期待もむなしく、まったく一緒だとのこと。さすがに暴力はふるわれないけれど、「女子は強いですね」のひとこと。ためいきをつく男の子たちでありました。

 私は心の中でにんまりします。それはきっとね~、大人になっても、結婚しても、おじいさんとおばあさんになっても、きっとず~っと変わらないよ。だって、自分たちのまわりを見てごらん。

 それに対して女の子の男の子に対する評価は、小学校から高校生まで見事なほど一貫しています。
「男子って子ども~!!!」

 そういえば、好みのタイプが『守ってあげたくなるような女の子』という男子高校生がいました。彼曰く、そんな子は学校中をさがしてもいない、というか、生まれてから一度も遭遇したことがない。
 なんだかかわいそうな気がしたので、今どきいないだろうなと思いつつも
「きっと進学先で見つかるよ。受験勉強がんばろうね」
と言ってあげました。

 またあるとき、高校生女子が、友だちから電話がかかってきたんだけれどそのうち相手が泣き出して、何時間も慰めていたらテスト勉強が全然できなかったとぼやいていたことがありました。
「その子『彼女とうまくいかへん』って泣くんです」
「え、電話の相手って男子なん? 女の子相手に電話でめそめそしてんの?」
「そうなんですよ~。しかも『俺たちってちゃんと別れたんかな』って言い出して」
 なんとその子は元カレだそう。元カノに今カノの悩み相談かい……。
「ちゃんと別れたよって言いましたけど、『俺のどこが悪いんやろ。俺っていけてないんかな』ってまた泣いて」
「あんたのそういううじうじしとるところがあかんのやって、はっきり言うたったらよかったのに」
「いやでもそんなんしたら、号泣して電話切られへんようになるし。大丈夫。いけてる。めっちゃいけてるよって励ましておきました」

 時代とともに、男子はだんだんソフトに、女子はどんどん活発になっていて、男女差がなくなってきている印象があります。『男の子は泣いたらあかん』とか『女の子はおしとやかに』みたいな古式ゆかしい決めつけから解放されつつあるのかなと。なんかええですよね。

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