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2020年ブックレビュー『何様』(朝井リョウ著)

朝井リョウさん原作の映画『何者』を観た。すごくいいなと思い、原作を読もうと図書館で間違えて、『何者』の続編『何様』を借りてしまった。「え?映画と違う??」なんて思いながらしばらく読んでいて、タイトルが違うのに気づいてびっくり。おっちょこちょいだな、もう。

就活する学生たちの姿と彼らのSNSを通じた自意識、承認欲求などをあぶり出した『何者』。そこに登場する人物たちのサイドストーリーが、『何様』だ。

6編の短編の中で、『それでは二人組を作ってください』は、『何者』で意識高い系なのに就活でなかなか結果を出せない小早川理香が主人公。同棲中の恋人との出逢いを描く。一緒に住んでいた姉が引っ越しするため、部屋をシェアしてくれる友人を探していた理香。目当てにしていた友人の朋美がカワイイというインテリアを購入する。

しかし、朋美は別の友人とルームシェアすることに。理香はつぶやく。

「小さなころから、女の子とじょうずに二人組になれなかった。何かを察するように、女の子は私と二人組にはなりたがらなかった。いつでも私は、二人組ではない場所から、二人組をじょうずに組める子たちを見ていた」

理香は朋美が愚かなことを十分分かっている。なのに、朋美の機嫌を取ってでも「二人組」になりたい。それは、「寂しい人」に思われたくないから。

理香はインテリアショップでアルバイトしてい男子学生の宮本隆良に、ルームシェアを申し出る。軽薄で、浅はかな男だと分かっていながら。

「この人はバカだ。きっと。私よりも」…(中略)結局私は、自分よりもバカだと思う人としか、一緒にいられない。

『むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった』は、『何者』の物語の中で確実に内定もらった女子大生・田名部瑞月の父親が、なぜ家庭を捨てたのかーその理由が明かされる。

マナー講師の正美は、子どもの頃からいつも「いい子」。親の期待に添って生きている。でも、葛藤がある。妹の栄子は道をはずれ、学生時代は両親とぶつかっていたのに、結婚した今では自分より両親と仲良くやっている。仕事では、元ヤンの講師に人気を奪われる。

「むしゃくしゃしてやった」ー。そう言い訳をしてグレていた誰かがまともに仕事したり、家庭を作ったりすると、何だか昔のことが武勇伝としてもてはやされる。ずっと正しくて周りに迷惑をかけなかった私は、損しているー。正美はそう感じている。

正美は、仕事の場で田名部と出会う。田名部もまた、正美と同様に世間を見ている。田名部は自分を束縛する妻からの逃げ場を、正美に求める。

朝井さんの物語は、登場人物の中にある感情が私の中にも潜んでいることを教えてくれる。普遍的で、何かの刺激で暴発しそうな感情…。




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