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エグゼクティブ・リーダーシップの意思決定と組織の危機管理

先日、あるクライアント企業様の研修で問題発見・解決力の研修を実施し、『組織として意思決定が進まないのはなぜ?』というイシュー(問題)から派生し、そもそも『意思決定とは何?』という論点が浮かび上がったため、noteにまとめていくことにする。クライアントの受講生の行動力を促すため、私自身もnoteを今月2本書き上げると約束をしたので、このnoteでその約束も果たされることになる(笑)

ちょうど以前あげていたMBAの講義内容を元にしたこの投稿をベースにちょっと修正を加えてみた。(1カウントにならないかな(笑))

経営のみならず日常生活においても、人は朝起きた瞬間から意思決定の連続で毎日を過ごしている。朝起きた瞬間に先に歯を磨くかもしくは顔を洗うか、トーストにするかごはんと味噌汁にするか等々、また仕事を終えて帰宅し、次の休みのプランを計画しどこに行こうかスマホで行先を検討する等々

例えば、この先に歯を磨くか顔を洗うか等の選択(意思決定)は、認知科学者によると直感的で自動的な思考であるシステム1が司り、対照的に休みの日のプラン計画は、熟慮的で合理的な思考であるシステム2により操作されていると言われている(『ファースト&スロー』ダニエル・カーネマン、2011年)

経営においては、組織階層が上がるにつれ意思決定のハードル(よりリスクを伴うか否か)も上がるものの、意思決定とは何も経営層だけが行うべきものではなく一般階層においても業務をどう進めていくか日々意思決定を行いながら業務を進めていっている。また、業務の難易度による成長レベルを示すものとして、コンフォートゾーンやストレッチゾーンとして領域を示すこともあるが、言い換えるとある一定の意思決定を容易にこなせるようになることで使用する脳もシステム2からシステム1になり、コンフォートゾーンに移行してしまうのではないかと考える。よって若手時代に行っていた自らの業務における意思決定はシステム1で容易にこなせるのは当然で、職位が上がるということは自らの業務遂行という責任範囲だけでなく、もちろん部下・チームとしての業務遂行という責任範囲が広がることになる。それに伴い、従来個人の見解で、システム1により無意識に意思決定を行い、誰にも迷惑をかけずに(かけたとしてもそれは自らの責任が取れると思っている範囲で)行動まで移せていたものが、チームを率いると責任範囲が広がり失敗した時のリスクもより大きくなり、自身の無意識レベルの意思決定(システム1)ではなかなか瞬時に判断できなくなる。よって、システム2を稼働させることにストレスを感じ意思決定を放棄し、責任の所在をうやむやにする管理職は多いように感じている。しかし、これではマネージャーとは言えず、上司に責任を依存する一般階層と何ら変わりがないわけだ。管理職へのストレッチゾーンへと移行しなければならない。

よって、意思決定を行うには、
①各階層に応じた責任範囲をそれぞれの階層が明確に理解し
②コンフォートゾーンから抜け出し、多少リスクが伴う意思決定のアクションをとることで自らを常にストレッチな状況へと促し成長をしていく必要がある
(若手時代に行っていた意思決定領域から階層が上がるごとに、意思決定の範囲は広がっているか?)
③また、リーダーとしては、部下がリスクをとってでも意思決定に踏み切ろうとする姿勢を承認し、例え意思決定が間違ったとしてもそれを許容する文化を醸成しなければならない(世の中100%正しい意思決定なんてないに等しい。それ以上に意思決定の精度を上げるには、間違いから学ぶ経験学習が必要なのだ)

リーダーがそのような風土を醸成できたか、フォロワーが能動的に意思決定に参画をしアクションが起こせたかにより、組織の危機管理が行えた場合とそうでないケースの対比で、あるべき意思決定の姿を考えさせられたのが以下のケース内容である。MBA組織論の中でも自身が最も秀逸なケーススタディだと感じた『エグゼクティブの意思決定×組織の危機管理』から。(ここまで公開して見つかったら教授から怒られそうだが(笑))

舞台は、1960年代アメリカ。当時のアメリカ大統領ジョン・F・ケネディの元、1961年に起きたアメリカの国際的評判につながり、のちのキューバミサイル危機を引き起こすピッグス湾危機(Bay of Pigs Invasion)にての政府の意思決定プロセスの失敗と、1962年に勃発した冷戦時代の重要な国際的緊張事態で、核戦争の危機にまで至り得るキューバミサイル危機を免れた同政府の意思決定プロセスを比較し、エグゼクティブ・リーダーが意思決定を行う際の組織における課題とリーダーシップのあり方について議論をするといった内容。

ピッグス湾危機(好ましくない意思決定スタイルとして)
1961年4月に起こった歴史的な出来事で、アメリカがキューバのフィデル・カストロ政権を転覆させるために企画し、さらに失敗した侵攻。この計画は、アメリカ中央情報局(CIA)によって策定され、キューバ亡命者約1,400名を訓練し、装備し、キューバのピッグス湾に上陸。しかし、カストロ政権の迅速な反応とアメリカの空軍支援の欠如により、侵攻は失敗に終わる。この失敗は、ジョン・F・ケネディ米国大統領にとって大きな外交的失敗となり、アメリカの国際的な評判にも悪影響を与え、後のキューバミサイル危機へと繋がることになる。

キューバミサイル危機(好ましい意思決定スタイルとして)
1962年10月に発生した冷戦時代の重大な国際的緊張事態で、アメリカとソビエト連邦が核戦争の瀬戸際に立った事件。アメリカの偵察機がキューバにソビエト製中距離弾道ミサイルの設置を発見し、これらのミサイルがアメリカ本土を攻撃する能力を持っていたため、大きな脅威となる。アメリカの大統領ジョン・F・ケネディはキューバに海上封鎖を実施し、ミサイルの撤去を要求したが、一方、ソビエト連邦の首相ニキータ・フルシチョフは当初抵抗し、最終的にミサイルを撤去することで合意。これには、アメリカがキューバ侵攻を行わないことと、トルコに設置されたアメリカのミサイルを撤去するという秘密裏の取引が含まれており、この危機は、核戦争の恐ろしさを世界に示し、その後の国際関係において緊張緩和への動きを促進する契機となった。

講義での最初の問い、
問①
ケネディ大統領が対応した2つの危機において、 そのリーダーシップの違いを考察せよ』

経営(組織マネジメント)とは意思決定。戦略とは何を捨てること。よって、組織活動とは何をしないかを明確にし、消去法で、進むべき方向を決定することではないだろうか。経営陣は会社の方向性、それ未満は各々の日々のプロジェクトのオペレーションの意思決定を行う必要がある。

この2つのケースでは、フォロワーが会社全体の意思決定に積極的に参画しリーダーシップを発揮できたか(キューバミサイル)、またはフォロワーがリーダーの意思決定に依存し集団浅慮に陥った(ピッグス湾)かの対比が見事に描かれている。面白いことにリーダーは両案件とも同一人物、異なるのはフォロワーであるメンバー構成と、時系列(失敗も繰り返しチーム形成がなされていったか)の違い。

MBA講義レポートから(キューバミサイル危機とピッグス湾危機のリーダーシップの違い)

政府メンバー全員に意思決定の権限委譲がなされボトムアップでリーダーシップを発揮しながら決定がなされていったキューバミサイル危機に対し、ピッグス湾時には、前任の時代の決定事項でありCIA・統合参謀本部に牛耳られトップダウンで話が進められ、メンバー全員がリーダー含むトップへ依存していた。また、ピッグス湾の意思決定時は、政府自体のチーム形成の過程が成熟していなかった(形成期~混乱期)ことも課題にあげられる。

チーム形成のタックマン5段階モデル

問2
ケネディ大統領が対応した2つの危機において、 その危機対応チームと活動の違いを考察せよ』

施策の合理性
意見の対立への対応
会議の進め方&柔軟性
それぞれの主張と思惑 
※MBA講義資料は時間に追われての資料だということをご了承いただきたい(笑)

まとめると、トップダウンでの意思決定においては、群衆からの意見を徴収できず、トップの意見が群衆全体の意見として形成されるという集団浅慮(グループシンク)の罠に陥ることもある。

集団浅慮(グループシンク)とは
集団浅慮(グループシンク)とは、グループ内のコヒーション(結束力)が強すぎることによって、批判的思考が低下し、不合理な決定が行われる心理的な現象。心理学者のアーヴィング・ジャニスによって提唱され、主な特徴としては、グループ内で意見の一致を無批判に求める傾向が挙げられる。

集団浅慮の具体的な特徴:

  1. 過度の自信: グループは、自分たちの意見や判断が正しいと過信し、リスクを過小評価する

  2. 圧力による同調: グループ内で異なる意見を持つメンバーに対し、同調を強制する圧力が働く

  3. 自己検閲: 個々のメンバーが、グループの一般的な意見に異を唱えることを自ら控える傾向がある

  4. 幻の一致: グループ内で意見の一致が得られているという錯覚が生じる

  5. 集団による合理化: グループは、批判的な視点を無視し、自分たちの決定を正当化するための合理化を行う

  6. 倫理的考慮の欠如: グループが行う決定において、倫理的な観点が無視される

②団浅慮(グループシンク)は、重大な誤決定を引き起こすリスクがあり、企業経営や政治的決定など、様々な場面で問題となることがあり、この現象を避けるためには、オープンな議論、批判的思考、多様な意見の尊重が重要だと言われている。

一国の存続に関わる重要な決定であったキューバミサイルは、ステークホルダー全員がリーダーシップを発揮し、集団浅慮に陥ることなく、ポジション関係なく柔軟な意見出しを行い最善策を合理的に導き出した。

組織の良質な意思決定における結論

これを阻害しうるのが、

①強すぎるリーダーシップ&フォロワーシップ(権限委譲ができない&されたくない)
②組織構造&文化の特性(トップダウンかボトムアップかという構造&文化)
③チームの形成過程(混乱期は必ず訪れる)
④集団浅慮(グループシンク)

強すぎるフォロワーシップにおいては(ここでは、全政権時の決定事項であったこと。またCIAが牛耳っていたこと)、時折そのリーダーシップにメンバーが依存し、ボトムアップの意思決定に参画しないリスクがある。

リーダーはメンバーへの権限委譲を行い、フォロワーは当事者意識と意思決定への参画意識を持ち、さらには心理的安全性の高い組織文化を作ることで危機管理の能力の高い良質な意思決定を行うことが可能になる。

また、フォロワーはリーダーや状況に依存せず、前提を疑うというメンバー全員のクリティカルシンキングも必要になる。フォロワーが、コンフォートゾーンから脱却し、失敗や批判を恐れてでも疑問を持ちリーダーとの対話を心がけるというリスクをとることが出発点かもしれない。

皆さんの組織がキューバミサイル時に米国にて進められていた意思決定のプロセスがとられているのか、はたまたピッグス湾時の意思決定プロセスになっているのかを振り返り、明日からのとるべき行動についてリフレクションをしてみてほしい。

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