海外で視覚障害者に日本語を教える in ボスニア・ヘルツェゴビナ~教材を用意するにあたって①墨字編~
前回の記事「海外で視覚障害者に日本語を教える in ボスニア・ヘルツェゴビナ~クラスを始めるにあたり分かった事~」では、レディネス調査の結果として点字の教材だけでなく墨字(紙に印刷または書かれた文字)の教材も準備する必要があることを紹介しました。
生徒全員が点字使用者という前提で授業準備を進めようとしていた私も迂闊でしたが、改めて調べてみたところ視覚障害者=全員点字を使用というわけではなく視覚障害者の点字の識字率は10%ほどで、また現在視覚障害者の間では「点字離れ」が進んでいるということも知りました。
点字離れの原因には中途視覚障害者の増加によって点字の習得が困難になっていたり、視覚障害者の高齢化により触読が難しくなっていることもあるようですが、やはりPCやスマホをはじめとした読み上げ音声機能が普及してきたということも大きいようです。
そういえば視覚障害を持つ生徒達に日本語を教え始めた頃とほぼ時期を同じくして弱視の女子高生がヒロインのドラマ「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜」が放送されていたのですが、このドラマの中でも確かヒロインのユキコと彼女の親友で同じく弱視の空ちゃんが点字教材ではなくルーペなどを使って墨字の教材で授業を受けたり勉強しているシーンがありました。
さて、私が担当した日本語クラスでは墨字の教材を使用する生徒は1名だけでしたが、この弱視の生徒(以下N君)が墨字の教材を使用することは初回の授業で知らされました。
そこで2回目の授業の前に様々なフォントや文字サイズで書かれた文字、またそれらの文字を白黒反転したものを作成し、2回目の授業の際にN君が最も読みやすいフォントと文字サイズを選んでもらうことにしました。
参考にしたサイトによると、日本語フォントの場合には明朝系の書体よりもゴシック系の書体が読みやすく、欧米フォントの場合にはArialなど飾りがないフォントの方が読みやすいとのことですが、学習者全員との話し合いにより今回はかな表記は使わずローマ字で教材を作ることになったので、飾りがない種類のフォントをいくつか使用して教材のサンプルを作ったところ、N君が選んだのはフォントサイズが20ポイントのArielでした。(ちなみにN君は弱視レンズや拡大読書器等の視覚補助具は使用していませんでした)
最終的に今回の教材にはローマ字のみ使用したので選択したフォントも1種類のみでしたが、もし日本語の文章をかな表記し、現地語による文法等の説明を現地語のアルファベットを用いて表記した場合、日本語とアルファベット表記でそれぞれに読みやすいフォントを用いた方がよいのか、それとも言語に関わらずフォントは統一した方がよいのか、その辺りも確認した方がよいのかなと思いました。
また、フォント以外にも、まぶしさを軽減する必要がある生徒に対しては、印刷に使用する紙の種類を紙面反射率の低いものにする、トナーは原則反射率の高いオイルを含有しないものにする、といった事にも配慮しながら教材を作成する必要がありそうです。
(今回は通常の印刷で使用しているトナーおよび紙を使用しました)
次回は点字の教材作成について紹介します。
<参考にしたサイト>
視覚障害ナビ・ラジオいま、改めて点字を考える
日本の視覚障害者は164万人、どうやって文字を読んでいるの?
https://bright3.jp/2020/10/19/accessibility/
保健師のまとめブログ 視覚障害者にとって読みやすいフォントとは?
https://hokenshi.hatenablog.com/entry/20100205/1265466154
拡大教科書普及推進会議 第一次報告
第2章 拡大教科書の標準的な規格について
(文部科学省サイト)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/1282361.htm
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