見出し画像

国際情勢:プーチン大統領について⑫

プリゴジンの乱とワグネル(⑫は7,062字)
 
 今から一年前の話である。2023/06/23、ロシアでワグネルのエフゲニー・プリゴジンが立ち上がった。
 
 だが2023/08/23、プリゴジンは、モスクワ北西のトヴェリ州で、乗機が爆破されて、墜落死した。
 
 そして2024/05/12、セルゲイ・ショイグは国防相を解任され、安全保障会議書記に転任した。
 
 振り返ってみると、たったの三行である。だがこれだけでは、よく分からない。
 
 当時、公開しなかったが、当方が書いたとあるドキュメントがあったので、一部転載する。2023/07/23だ。
 
2 ロシア プリゴジンの乱とその影響
 
 2023/06/23、ロシア軍から攻撃を受け、民間警備会社ワグネルのプリゴジンが、南ロシアで決起した。重武装のワグネル戦闘部隊を率いて、モスクワに向うと宣言。
 
 06/24、プーチン大統領は、これはワグネルの反乱であると宣言。プリゴジンも直ちに反論し、これは正義の行進であると主張。その後、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介に入り、ワグネルはベラルーシに行く事になり、反乱は終結。ワグネルの戦闘部隊も撤退。
 
 06/25、プリゴジンは行方不明・連絡付かずと報道が出回る。
 
 06/26、SNSにプリゴジンの音声メッセージが発せられ、決起の真意を説いた。それに対してプーチン大統領は、ワグネルの兵士たちに謝意を示しつつ、プリゴジン断罪の演説をした。
 
 06/27、プリゴジンは、飛行機でベラルーシ入りしたと発表があった。8,000人規模のワグネルのキャンプが設置されると言う。だがその後も、人が入った様子は暫くなかった。
 
 06/29、プリゴジンはプーチン大統領と密かに会い、再び忠誠を誓った。詳細は不明。
 
 07/07、プリゴジンはロシアにいるとベラルーシのルカシェンコ大統領が発言。
 
 07/10、10日以上経過して、6/29のプリゴジンとプーチン大統領の会見が報道された。
 
 07/12、ワグネルはロシア軍に兵器を返却し、武装解除したと報道された。
 
 07/21、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、ロシア民間軍事会社ワグネルは現在、ウクライナ戦争に参加していないと報じた。ベラルーシにいるとの事だ。
 
 この事件は何なのか?ロシアは一体どこに行こうとしているのか?
 
・見解
 
 所謂、反乱とは異なる。これは、ワグネルのプリゴジンとロシアのショイグ国防相の間で起きた権力闘争だったと思っている。形の上では、プリゴジンがワグネルの戦闘部隊を率いて、モスクワに向かっていたので、反乱のように見える。
 
 だがこれは、限りなく反乱に近い、一種の抗議活動だったと思われる。それは、6/26のSNS上の音声メッセージでも、そう言っている。あくまで、ワグネルを解体から守り、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を解任、もしくは軍から取り除く事が目的だった。
 
 そもそもプリゴジンは、ロシアの大統領になろうとは思っていない。全土を支配して、国家を立て直そう、という考えはなかったと思われる。だからプーチン大統領に、上記を要求しただけだ。だが抗議活動の一環として、重武装の戦闘部隊を率いていた。
 
 これが問題となり、クーデタと言われたのだ。重武装の戦闘部隊を率いた抗議活動というのは前代未聞で、これほど脅しの効いた抗議活動はない。効果は抜群だった。
 
 だが本当の処、一体何を要求したのか、まだよく分かっていない。それはこれから分かるかも知れない。だが反乱を事前に治め切れなかったプーチン大統領の威信は下がり、ロシア軍の士気も地に墜ちるだろう。これはウクライナ戦争に影響する。ロシアは戦闘が困難になる。
 
 プーチン大統領は、反逆したプリゴジンを許すのだろうか?プーチン大統領はこれまで、国内国外を問わず、全て政敵を葬ってきている。戦争は苦手でも、旧ソ連のKGB式の暗殺は得意だ。だがプリゴジンは、暗殺を警戒して、行方を晦まし、2日間潜伏した。
 
・KGB式暗殺術
 
 暗殺は、反逆が起きる前であれば、有効な手段だ。だが反逆が起きた後、暗殺すると、たとえ証拠がなくても、世間は利害関係から、誰が犯人か分かってしまう。だから反逆した後、反逆者を暗殺するのは下策である。反逆者は、反逆前に暗殺するのが上策である。反逆する前に暗殺してしまえば、世間は何で殺されたのか分からないし、誰が犯人か分からないからだ。
 
 この原則から言えば、プーチン大統領は、もう迂闊にプリゴジンを消せなくなった。今から暗殺すれば、たとえ証拠がなくても、世間はプーチン大統領が犯人だと思う。プリゴジンは先手を取る事で、プーチン大統領の得意技から逃れた。暗殺の危機から、ひとまず逃れた。
 
 プーチン大統領はこれまで、全ての政敵を、決定的な行動を起こす前に、始末してきた。だが今回は初めて、先手を取られた。プーチン大統領は後手に回ったが、何とか交渉して、モスクワまでのワグネルの進軍を止めた。これでロシア人同士の流血の事態を免れた。
 
 だがプーチン大統領は、後でプリゴジンを消すかもしれない。放置はしないだろう。プーチン大統領が政権にいる限り、プリゴジンは国外に逃げるか、プーチン大統領に服従するか、国内に潜伏するか、選択するしかない。だがワグネルがあるので、選択の余地はあまりない。
 
 プリゴジンがワグネルを手放さないという事であれば、プーチン大統領に服従するしかない。
 
・プリゴジンが立ち上がった経緯
 
 どうしてこうなったのか?話を戻そう。2023年6月上旬に遡る。
 
 ワグネルがウクライナのバフムートを完全制圧し、正規軍と交代して、ロシアに引き揚げた後、プリゴジンは国防省から、一通の通知を受け取った。
 
 それによると、2023/06/30までに全ての傭兵は国防省に登録し、以後全て国防省が直接指揮を執る事になる。このためプリゴジンは、ワグネルの指揮権を剥奪されるという内容だ。怒ったプリゴジンは、国防省に行くが、受付で面会を拒否され、SNS上で要求を発表する。
 
 曰く、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長と直接会って話し合いたい。(プーチン大統領ではない)以後この要求は繰り返され、モスクワまでの「正義の行進」の時まで続いた。
 
 プリゴジンは、5月のバフムート攻防戦の時、武器弾薬燃料食料が足りないと、SNS上で何度も訴えて、ショイグ国防相を激しく非難していた。傭兵は使い捨てかと青筋を立てて、怒っていたが、これが功を奏したのか、物資が届くようになり、戦闘に勝利した。
 
 ショイグ国防相としては、正規軍ではなく、傭兵が活躍するのは面白くないし、プーチン大統領からの評価も下がるので、要求通りの物資を送っていなかったかもしれない。またロシア軍も、武器の横流しや、物資の中抜き、転売等、腐敗していた可能性もある。
 
 だから、バフムートで戦うワグネルに届く物資は、本来の何分の一にまで減っていたとしても、不思議な事ではないのかもしれない。だがそれでは戦えないので、プリゴジンは怒った。
 
 結果、プリゴジンとショイグ国防相の関係は最悪になった。戦闘中だった5月も、ワグネルは後方から味方のロシア軍に攻撃されたと主張したが、真偽は不明である。
 
 6月中旬、南ロシアに視察に来るショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を捕らえる秘密作戦を、ワグネルで立てるが、事前に作戦が漏れてしまい、二人は南ロシアに来なかった。
 
 逆に作戦が漏れた事で、ワグネルはロシア軍に狙われ、06/23にロシア軍から攻撃され、30名の隊員が死亡した。ワグネルは反撃して、武装ヘリを撃墜した。これが始まりだ。
 
 このワグネルに対する攻撃だが、ロシア軍は否定している。無論、ロシアがやった可能性は否定できないが、西側の工作の線も捨て切れない。今回の件で、西側は大きな利益を得ている。どちらにしても、ワグネルは利用された。乗せられてしまった。
 
 プリゴジンの行動は早く、06/24ロシア南部ロストフ州の州都ロストフ・ナ・ドヌーを、50人で占領したと言われ、ワグネル25,000人の兵士は死ぬ覚悟ができていると宣言した。
 
 同日午後、プーチン大統領は直ちに声明を発表し、これは「武装反乱」だと断言した。プリゴジンも直ちに反論し、プーチン大統領は間違っている。これは「正義の行進」だと言った。これまで二人は、決定的な対立を避けてきたが、表面化した。覆い隠せなくなった。
 
 モスクワから大統領専用機が飛んだが、プーチン大統領はクレムリンで執務を続けていると情報が錯綜した。モスクワ南部200kmのボロネジまで、ワグネルは進軍したが、プリゴジンの要求が通ったので、「正義の行進」は完了したとして、隣国ベラルーシに向う事になった。
 
 ベラルーシのルカシェンコ大統領は、事前にプーチン大統領と電話協議してから、プリゴジンに電話した。ルカシェンコ大統領とプリゴジンは、20年来の知り合いだと言う。ルカシェンコ大統領がプーチン大統領から、身柄の安全の保障をもらったとプリゴジンに伝えた。
 
 06/24「ロシア人の血が流れることに対する責任を自覚し、部隊を方向転換させている」とプリゴジンはSNS上に発して、ワグネルを引き返させた。
 
 この「正義の行進」に参加した兵は、最終的には5,000人だったと言う。西側の観測では、ロシアの軍用機や軍用ヘリが撃墜されて、死者が出ているらしい。ロシア国防相も死者は発表している。ワグネル側の被害は、最初の30名以外は明らかではない。
 
 ロシア軍は、ウクライナに戦闘部隊を送っていた関係で、モスクワまで守りが手薄で、治安部隊しかいなかった。そのため重装備のワグネルの部隊とは、戦闘を避けて、投降したり、道を開けたりして、殆ど素通りさせていた。これを止めたのはプーチン大統領である。
 
・プリゴジンとワグネル
 
 これが直近で起きた大きな事件だが、これはウクライナ戦争の行方と、ロシアとプーチン大統領の将来に暗い影を落とすと思われる。プーチン大統領とプリゴジンは、親密な関係だった。ワグネルは民間警備会社と言われるが、ワグネル・グループが本体である。
 
 ワグネル・グループは主にアフリカで、鉱山やエネルギー事業で財を為している。ロシア政府の公認、プーチン大統領の後押しで、アフリカで事業展開し、大きな利益を上げて、ワグネルとロシアで山分けしている。この関係を作ったのが、創業者のプリゴジンだ。
 
 プリゴジンは、複数の犯罪歴がある札付きの男で、刑務所に入っていた時間も長い。だがビジネスの才覚はあり、ケータリング会社で成功して、クレムリン宮殿に入るようになり、プーチン大統領のシェフとまで言われた。そして本体のレストラン事業から別事業も展開した。
 
 それが民間警備会社ワグネルである。ロシアの法律では、民間警備会社を作る事は禁じられている。だがプリゴジンは、プーチン大統領と親しいため、大手を振って歩いた。
 
 そして現在のワグネル・グループを作るまで10年掛からなかった。ただ民間軍事会社の軍事的作戦については、部下の元ロシア軍中佐ドミトリー・ウトキンが、全て立案していたと言われている。彼もプーチン大統領の腹心で、ロシア軍からワグネルに入っている。
 
 プーチン大統領は、ワグネルを潰さず、乗っ取るかも知れない。プリゴジンを消せば、それは可能だからだ。これまで腹心の子飼いとして扱ってきたが、自分に歯向かってきた狂犬は、いつか始末するだろう。だが今始末するのは得策ではない。暫くは置いておくだろう。
 
 だがなぜプリゴジンはモスクワに向かったのか?そこまでショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長がクソだったのか?戦場に生きる者として、あの二人だけは、どうしても許せなかったのか?だが親分に、自分の言い分を認めてもらいたかったと考えれば、筋は通る。プリゴジンは一本気の通る男だった。極道の任侠だ。だが親分は怖かった。
 
 これが当時、書いた文章だ。もう一年前になる。
 
 プリゴジンが消された時、「早っ!」と思った記憶がある。事件からちょうど二ヶ月後に死んでいる。
 
 消されるとは思っていたが、存外早い退場で、逆にショイグの方は、解任されるまでが長かった。
 
 プリゴジンは消されて、ショイグは左遷というのが、当時の読みだったが、大体その通りになった。
 
 プーチンは、裏切者を許さない。これはスパイの鉄則だ。だから部下たちが立案して、後始末を付けた。
 
 恐らくプーチンは、特に反対しないという態度で、部下たちの仕事を黙認したのだろう。
 
 ロシア社会のマフィア性というか、寒い国独特のやり方みたいなものを感じる。残酷だ。
 
 プーチンは、英雄であると同時に、かなり反英雄の側面も持つ。これはきっとカルマになる。
 
 プリゴジンの不成仏霊は、きっと今でも、あの動画のように怒っているのだろう。墜落地点で。
 
 プリゴジンの怒りは正当性もあるが、正面切って、組織に立ち向かえば、ああなる。
 
 怒りを抑えきれなかったのが、プリゴジンの破滅を招いた。しかも中途半端な行動をしている。
 
 流石にプーチンを倒して、ロシアを率いる自信はなかったのだろう。彼の怒りは極めて個人的だ。
 
 公の怒りとして認められれば、話は違っただろう。だが彼の怒りは、個人的なレベルに留まった。
 
 プリゴジンは、簒奪者でも、革命家でもない。ただクレムリンに文句を言いに行っただけのおじさんだ。
 
 だから途中で引き返している。プーチンを倒す絶好のチャンスだったのにもかかわらず。
 
 ウクライナと戦争中に、クーデタをやらかすと、ロシア全体が危なくなると、流石に分かったのだろう。
 
 ナポレオンみたいな男であれば、ブリュメールのクーデタのように、鮮やかにやるだろう。
 
 プリゴジンはやっぱり小者だったと言わざるを得ない。傭兵団のボスというのが、役どころだった。
 
 それにしても、プーチンは、本当に沢山の人を殺している。もう自動的に死体が積み上がる感じだ。
 
 よく耐えられるなと思う。戦争中の国家指導者なんて、そんなものだが、この人は特別に見える。
 
 以前、ローマ帝国の運命と、ロシア連邦共和国の運命が、よく似ているという話をした。
 
共和制ローマ→クーデタ→帝政ローマ
カエサル→ブルータス→アウグストゥス
 
ソビエト連邦→クーデタ→ロシア連邦共和国
ゴルバチョフ→エリツィン→プーチン
 
 起きている出来事も似ているが、この三人の登場人物もよく似ている。
 
 ゴルバチョフとカエサルの類似性もそうだが、プーチンとアウグストゥスの類似性もそうだ。
 
 仮に、プーチンが、アウグストゥスの転生者と仮定するなら、色々な事が見えて来る。
 
 まず二人とも、長期政権で、非常に長く活動していたという点である。
 
 また二人とも、戦争が下手で、最終的に勝てる戦いでも、大きな損害を出している。
 
 特に目を惹くのが、プーチンが家庭的に、あまり幸福ではなく、独身である点だ。
 
 アウグストゥスの娘に、ユリアという女性がいた。この人は最終的には追放され、孤独死している。
 
 政治の道具にされ、アウグストゥスに二回結婚させられ、二回離婚させられた。
 
 最初の結婚は幸福で、次の結婚は過酷だったかも知れない。そして夜な夜なローマの街に出没した。
 
 このユリアの呪いという訳ではないかもしれないが、プーチンは女に嫌われている。避けられている。
 
 いくら政治とは言え、アレだけの事をやれば、二千年くらい、女は祟るかもしれない。
 
 プーチンに女難のカルマが炸裂しているのは、そういう事ではないか?もちろん、当方の勝手な妄想である。
 
 ゴルバチョフは相変わらず、女にもてるのと、好対照かも知れない。カエサルは女を幸福にする。
 
 戦争が上手く、政治生命は短く、女と富を一手に得て、権力の階段を一気に駆け上がり、悲劇的に終わる。
 
 ゴルバチョフとカエサルの生き方は、本当によく似ている。面白い。まさに歴史の転生者だ。
 
 偽プルタルコスという企画も考えているが、実現するか分からない。『シン・対比列伝』だ。
 
 転生者でなくても、プルタルコスが取り上げなかった人を取り上げてもいい。文体は真似できる。
 
 あと当方は器用なので、ラノベの『キノの旅』とか、真似ができる。アレなら幾らでも書ける。
 
 なお当方には変なコピー能力があって、マンガの絵とか、コピー機のように正確に書き写せた。
 
 昔の話だが、週刊少年「ジャンプ」の表紙の絵を毎週、休憩時間に書き写したりしていた。
 
 ピアノも楽譜は読めないが、バッハの平均律クラヴィーアの一番とか、見様見真似で演奏できた。
 
 これは霊能力と直接関係はないが、そういう変な力があった。今はもう失われたが。
 
 人間はホント、掘れば、掘る程、泉のように、色々な能力が溢れて来る。全部、過去世の証明だ。
 
 一体、過去世でどんな生き方をして来たのか?またまた脱線した。話を戻す。
 
 あと一人、現代には英雄がいる。アメリカのトランプだ。この人はどうしても、テミストクレスに見える。
 
 考え方がそっくりで、戦上手だ。また世の人気者になるが、嫌われ方まで似ている。嫉妬だ。
 
 トランプは、それこそ今、アテナイで言う処の「陶片追放」になりそうになっている。January Sixだ。
 
 テミストクレスの最期は悲惨である。ギリシャの大英雄の死に方ではない。トランプもそうならないか心配である。
 
 プーチンが、アウグストゥスの転生者で、トランプが、テミストクレスの転生者であるならば、ローマとギリシャの英雄が、今再び世に現れて、世紀の東西対決をする。まるでFateか何か、なろうの異世界転生ものみたいだが、そういう妄想も悪くないと思う、今日この頃である。それにしても世界平和は何処(いずこ)に?
 
 とても長くなったが、これで考察を終わる。ここまで読んでくれた方に深く感謝する。
 
 また途中から拾い読みしてくれた方にも感謝する。斜め読みして、飛ばしてくれた方にも感謝する。
 
 そしてしっかり全部読んで、当方をきっちりブロックしたあなた。あなたもきっと正しい。
                                以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?