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バンクシー再考。


バンクシーとは一体、何者なのか。

バンクシーらしき人物が東京にネズミの絵を残し、世間を騒がせてから、はや数年。初めてその名を聞いた時から、人物像や作品について知る機会は幾度もあったように思う。

しかし、バンクシーについて未だよく分からない自分がいる。実際、バンクシーについて理解を深めた人は、世界にどれくらいいるのだろうか。

私は小さい頃から芸術鑑賞を好み、国内外の様々な作品を目にしてきた。中でも、バンクシーの作品には強いメッセージ性があるように感じている。

今回、読書の秋ということで口コミが高かった本の中から「バンクシー アート・テロリスト」(光文社新書)を選び、読んでみることにした。

この本の中では、私の知らなかったバンクシーの姿が描かれていた。そして、今まで疑問に思っていた答えもいくつか見つけることができた。ここからは、本の感想も踏まえつつ、バンクシーの魅力についてお伝えできればと思う。


バンクシーとは

本の内容を簡潔にまとめると、バンクシーとは、このような人物だ。

イギリスのブリストル出身とされていて、世界各地で活躍し、主にステンシルアート(型紙とスプレーを用いた技法)で作品を描いている。匿名で活動していることを特徴としている。

なぜ、彼は匿名で活動しているのか。それは、以前から気になっていることだった。プライバシーの問題なのか?匿名で活動した方が作品の価値が高まるからだろうか?

本を読み進めると、バンクシーの匿名性について言及している部分を見つけることができた。以下のような内容だ。

「バンクシーの活動の中心は、壁に絵を描くというグラフィック活動であり、そのほとんどが所有者に許可を求めない非合法なものです。」

日本では、壁などに絵を描くことは許可がない以上、器物損壊罪などに問われる恐れがある。実際、海外でも日本のように落書きを非合法なものと考える国が多いようだ。

たとえ、壁にバンクシーの絵が描かれていたとしても非合法は非合法なのだ。バンクシーが匿名であることは、警察などの公権力から身を隠すということが大きな理由であることが分かった。

バンクシーと権力。

バンクシーを考える上で、重要なキーワードになりそうだ。実際、バンクシーは権力に批判的な作品を多く制作している。このことについては、記事の後半で少し触れたいと思う。


バンクシー出現

匿名で活動していることや、ステンシル技法という比較的他のアーティストも用いる技法を使っていることを踏まえると、なぜここまでバンクシーが人気になったのであろうか。

バンクシーの名を世に広めることになったきっかけの一つが、イラク戦争の反戦運動だ。

「バンクシーは、彼のトレードマークのステンシルを用いて爆弾を抱きしめる少女やリボンを付けた戦闘用のヘリコプターの絵に、『反対(NO)』『まちがった戦争(WRONG WAR)』というメッセージを添えた段ボールのプラカードを作ってデモの参加者に配りました。」

と本の中で述べられている。

まさか、バンクシーがイラク戦争に関係していたとは。

たしかに、芸術と戦争は関わり深いものだとは感じていた。有名なところで言うと、ピカソの作品がある。戦時下で「ゲルニカ」を描いていることは知っている方も多いのではないだろうか。ピカソのように戦争に絡んだ作品を描いている芸術家は、多数存在しているが、バンクシーもその一人だったのだ。

2000年代に入ると、バンクシーの活動はさらに活発になっていく。

「反戦、パレスチナ問題、難民問題、反資本主義といったテーマに積極的に取り組むようになり、作品が描かれる場所も、ロンドンだけでなく、パレスチナをはじめとする紛争地域や政治問題を抱えた地域へと、その活動を世界中に拡大していきます。」

反戦などをテーマに描く。だから、バンクシーの作品からは強いメッセージを感じるのかもしれない。

特に、パレスチナ問題や難民問題といったテーマは、マイノリティに寄り添う作品が多くなるだろうし、抑圧されている人々の心に刺さる作品が多いのではないだろうか。

「強いものに迎合せず、芸術で真実に迫ろうとする。」

自分を貫く強さがあるところが、バンクシーの魅力だと感じた。

また、時を同じくして2000年代にイギリスがブレア政権だったことも大きい。ブレアが打ち出した政策の一つが、「クール・ブリタニア」だ。

「それは、これまで産業としては周縁化されていた文化や芸術などの領域を新しい成長産業として位置づけるというものでした。現在美術もまた新しい産業として注目を集めたのです。」

と本の中で述べらている。国内政策が追い風となり、一般庶民の間でも現代アートへの関心が高まっていったようだ。

戦争などの国際問題(外的要因)と政権交代による国内政策の転換(内的要因)。

イギリスで無名だったバンクシーは、こうしたことを背景にして、世界的に有名になったのだ。


バンクシーの作品について

これまでのところで述べたとおり、バンクシーは権力を批判した、メッセージ性の強い作品をいくつか制作している。

この記事を読まれている方の中には、バンクシーの作品がいまいち分からないという方もいるかもしれない。

そこで、ここでは海外のある美術館を訪れた時に実際に私が出会った、バンクシーの作品を少し紹介したいと思う。(※写真は撮影許可があった作品のみです。)

まず、一つ目はこの作品だ。

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POLICEと書かれていることからも分かるように、この絵には警察官が描かれている。

非合法なアートを描くバンクシーにとって、警察官は怖い存在かもしれない。しかし、よく見ると顔が笑っている。

にこにこと笑いながら、大きな武器を持つ警察官。

笑顔で親切そうにしている警察官も、いつこちらに銃口を向けるか分からない。そんな危うさが表現されているように感じる。

ユーモアを入れ、チクリと社会風刺をする。バ  ンクシーらしい作品だ。

続いて、こんな作品もバンクシーは残している。

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有名な作品なので、知っている方も多いのではないだろうか。

この作品にも英語が書かれている。あまり英語が得意ではないが、翻訳すると「今は笑うがいい、いつか俺たちの出番がくる」という意味のようだ。

権力者を批判し、庶民の意見を表現するバンクシーだからこそ生まれた作品ではないだろうか。この絵からは、社会に対する反骨心のようなものを感じることができる。観る者に力強さを与えるような、メッセージ性の強い作品になっている。

この他、たくさんの作品があるが、長くなってしまうので割愛したい。バンクシーの作品についてもっと知りたいという方は、今回読んだ本にいくつか写真が載っているので、そちらをご覧いただけたらと思う。


おわりに

あまり読書はしない方だが、今回の本はとても読みやすかったように思う。巻頭に掲載されている作品の写真を見ながら読むことができ、絵が描かれた背景を知ることができたので面白かった。

そして何よりもバンクシーと戦争が関係していることは驚いた。だからこそ、今回の記事ではその部分について重点的に触れることにした。

中でも興味深かったことは、反権力的なバンクシーが、ブレア政権の産業政策を追い風にして、その名を広めていったことだった。権力に取り込まれてしまいそうな、バンクシーの危うさを感じることができた。

ただ、バンクシーに関しては、このような疑問も残っている。

なぜ、作品にはネズミが多く描かれているのか?なぜ、匿名を貫くことができているのか?など。

この記事では語り尽くせないほど、たくさんのことが本に書かれていた。せび、一度読んでみることをおすすめしたい。

バンクシーの作品は落書き、非合法とされているため、上から塗りつぶされて消されることも多い。

何を芸術とするか、非合法な作品も芸術と言えるのか。様々な論争があると思うが、私はバンクシーの作品が好きだ。

これからどのような形で、バンクシーの作品と 再び出会えるかは分からない。ただ、今後もその動向を追っていきたいと思う。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

以上、みいちゃろでした!

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