ドイツ期待の若手逸材5選を紹介!Ⅱ+2024年、スペインの年。 FOKUS Bundesliga!!! #11
前書き
8月24日にブンデスリーガ開幕を控えるなか、移籍史上では大きな動きが続いている。ドイツ人の若手選手でいえば、マクシミリアン・バイアーがドルトムントへ、ブラヤン・グルダがブライトンへ、パリス・ブルンナーがASモナコへ移籍した。
個人的にはドイツ人の若手タレントがブンデスリーガから去るのは残念だが、様々な経験を積んだ彼らがドイツ代表で活躍する姿を見ることを期待したい。
本テキストでは、2024/25シーズンのブンデスリーガで活躍が期待される若手逸材5選を紹介する。今夏移籍を決断した選手から、クラブでの飛躍を目される素晴らしいタレントの持ち主まで紹介していく。
1. パウル・ヴァナー #10
paul wanner
現所属:1.FCハイデンハイム
生年月日:2005年12月23日
出身:ドルンビルン, オーストリア
身長:185cm 利き足:左足
2023/24シーズンの成績:28試合 6得点(ブンデスリーガ2部)
昨シーズン、昇格1年目ながら8位と躍進し、話題をさらったフランク・シュミット監督率いるハイデンハイムは今夏の移籍市場で「洗礼」を浴びた。躍進に貢献した3本槍のうち、ティム・クラインディーストがフライブルクへ、ヤン=ニクラス・べステが名門・ベンフィカへ移籍し、レンタルで所属したエレン・ディンクチがブレーメンへと戻ったのだ(ディンクチはブレーメンからフライブルクへ移籍)。
その後にクラブが移籍市場で見せた立ち回りは見事で、実力あるアタッカーの獲得に成功した。しかし迎えたのはブンデスリーガ1部レベルでの実績がほとんどない選手ばかり。シュミット監督のもとでクラブがどのような変化を遂げるかが注目される。
今夏の移籍市場でハイデンハイムが獲得した選手のなかでも、とくに注目を集める選手はパウル・ヴァナーだろう。18歳ですでに卓越した左足の持ち主であるヴァナーは昨シーズン、ブンデスリーガ2部の降格候補筆頭とされたSVエルフェアスベルクで活躍し、クラブの残留に貢献。今夏、バイエルンに様々なクラブからレンタルのオファーが舞い込むなかで、彼が移籍したのはハイデンハイムだった。
ハイデンハイムでヴァナーに求められる役割は、移籍したヤン=ニクラス・べステの「巨大な穴」を埋めることにある。正確なスルーパスやフリーキックなど、多彩なテクニックで違いを生みだしたベステに取って代わるのは非常に難しい仕事だが、チームの陣容を考えても多くのチャンスが与えられるだろう。素晴らしい指導者のもと、バイエルンの屈指の逸材がどのような成長を遂げるか楽しみでならない。
2. ジャスティン・ディール #17
justin diehl
現所属:VfBシュツットガルト
生年月日:2004年11月27日
出身:ケルン
身長:174cm 利き足:右足
2023/24シーズンの成績:7試合 0得点
2023/24シーズンのブンデスリーガで2位躍進を果たしたシュツットガルトは、夏の移籍市場でも優れた立ち回りをみせている。伊藤洋輝やヴァルデマール・アントン、セイル・ギラシーなど各ポジションの中心選手を失いながら、ラモン・ヘンドリクス、ジェフ・シャボー、エルメディン・デミロヴィッチなど彼らに代わるタレントを確保してみせたのだ。
また将来性ある若手タレントをフリーやレンタルで獲得し、選手層に厚みをもたらすことにも成功した。バイエルンからはフランス・クレツィヒを、ブレーメンからはニック・ヴォルテマーデを、そしてFCケルンからはジャスティン・ディールが加入している。
なかでも注目を集めるのが、ディールの加入だ。フローリアン・ヴィルツを輩出したFCケルンのユース出身のディールは、左ウイングを主戦場とするアタッカー。少ない挙動から威力のあるキックを蹴ることができるのが最大の特徴で、アスレティック・クルブとの親善試合ではクロスからデミロヴィッチの得点をアシストした。
昨シーズンのシュツットガルトの左ウイングはクリス・フューリッヒがフル稼働を余儀なくされたが、ディールが加わったことで複数のコンペティションを戦い抜くための陣容を既に揃えることに成功している。
3. ティム・エルマン #14
Tim Oermann
現所属:VfLボーフム
生年月日:2003年10月6日
出身:ボーフム
身長:189cm 利き足:右足
2023/24シーズンの成績:16試合 0得点
2024/25シーズンのブンデスリーガの降格候補を挙げるなら、ボーフムをその筆頭に選ぶファンは多いだろう。パトリック・オスターハーゲやケヴェン・シュテーガー、アントヴィ=アジェイ、浅野拓磨などクラブの1部残留に貢献した選手の多くを今夏の移籍市場で失ったためだ。
なかでも昨シーズン、レッチュ監督率いるチームの中心だったケヴェン・シュロッターベックの退団はボーフムにとって大きな痛手だ。ボーフムの残留はペーター・ツァイドラー新監督の守備構築の能力に託されたが、そのなかで注目されるのがティム・エルマンだ。
2012年からボーフムの下部組織に所属したエルマンは、2022年9月19日に行われたケルン戦でブンデスリーガデビュー。レッチュ監督率いるチームではクリスティアン・ガンボアの控えとして右サイドバックでプレーした。
一定水準のスピードと足元の技術を備えるエルマンは、現在のボーフムの選手層を考えても、2024/25シーズンのブンデスリーガで多くの出場機会を得るだろう。特別な才能の持ち主とまでは言えないものの、ラルフ・ラングニック流の戦術を扱う新監督のもとで、エルマンがどのような成長を遂げるか注目したい。
4. トム・ローテ #15
Tom Alexander Rothe
現所属:ウニオン・ベルリン
生年月日:2004年10月29日
出身:シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州 レンズブルク
身長:193cm 利き足:左足
2023/24シーズンの成績:33試合 4得点(ブンデスリーガ2部)
「ウニオン・ベルリンとはどのようなクラブか?」と聞かれたとき、多くのブンデスリーガファンはオリヴァー・ルナートSDが大量の選手補強と放出を行い、ウルス・フィッシャー監督が残ったメンバーで見事なチームを作り上げるクラブだと説明するだろう。
しかし今シーズンのウニオン・ベルリンは少し違った様相を呈している。主力級の選手が引き抜かれてきたこれまでの移籍市場と違い、昨シーズンの中心メンバーを残したまま新シーズンに臨むことができる状態なのだ。またラースロー・べネスの獲得とジョルダン・シエバチュの復帰に伴って、昨シーズンの課題であった得点力も期待できる陣容がそろっている。
ボ・スヴェンソン新監督のもと、万全のスカッドを揃えつつあるウニオン・ベルリンだが、なかでも左ウイングバックの陣容は非常に充実している。既にロビン・ゴゼンスやヨシップ・ユラノヴィッチという名選手を擁しながら、トム・ローテを獲得したのだ。
若く才能溢れるトム・ローテは2023/24シーズンのブンデスリーガ2部でブレイクを果たした。ドルトムントからのレンタルで加入したホルシュタイン・キールでは、第1節のブラウンシュヴァイク戦からフル出場し、カードの累積警告による1試合の出場停止を除くリーグ戦33試合に出場。長身なフィジカルと左足からの正確なクロスを駆使して、4ゴール7アシストを記録したのだ。
ウニオン・ベルリンでローテに期待される役割はゴゼンスのバックアッパーという以上に、得点のオプションを増やすことにあるだろう。プレシーズンからも見て取れるように、スヴェンソン監督はマインツ時代と同じく3バックを採用し、ウイングバックに攻撃的な役割を求める戦術を採用することが予想される。ローテがどのような活躍を魅せるか注目が集まっている。
5. マーリン・レール #34
Merlin Röhl
現所属:SCフライブルク
生年月日:2002年7月5日
出身:ブランデンブルク州 ポツダム
身長:192cm 利き足:右足
2023/24シーズンの成績:24試合 2得点
これまでに紹介した4選手と違い、マーリン・レールはすでにヴィルツやムシアラとともに今後のドイツ代表を担うことを期待される特別なタレントの持ち主だ。昨シーズンの第11節・RBライプツィヒ戦で挙げたブンデスリーガ1部での初ゴールを見るだけでも、レールのタレントの大きさを窺い知ることができる。
長身ながら、伸びやかなドリブルと足元のテクニックを武器とするレールは、2列目の攻撃的な選手。ムシアラやユリアン・ドラクスラーと類似するタレントを有しており、世代別の代表では主力として活躍した。あまり左右を問わずプレーができ、低い位置まで降りてボールを運ぶこともできる器用な面も特徴だ。
ポジションが似通うヴィンチェンツォ・グリフォとも連携しながら一緒にプレーできるため、出場機会を失う可能性は低い。むしろ昨シーズンのフライブルクが11勝9分14敗と不調だったことや監督がユリアン・シュスターに代わったを考えると、レールの活躍次第でフライブルクの順位が大きく変動することが予想される。
レールに求められるのは、目に見える結果だ。2ゴール3アシストという昨シーズンの結果は、若手としてはなかなかでも、ドイツ代表クラスかと言われると物足りなさを感じる。さらなる成長を示し、ナーゲルスマン監督率いるドイツ代表の選手として溌剌とプレーする姿を見たい。
後書きに代えて 2024年、スペインの年。
スペインの勝利
多くのサッカーファンが、2024年をスペインの年として記憶することになるだろう。ドイツで開催されたユーロでは、決勝でイングランド代表を破りスペイン代表が優勝。オリンピックでも開催国フランスの代表チームを破った23歳以下のスペイン代表が優勝し、19歳以下のユーロでさえスペイン代表が優勝を果たした。
特徴的だったのは、ラ・マシア出身選手の活躍だ。ラミン・ヤマルやダニ・オルモ、マルク・ククレジャ、フェルミン・ロペス、パウ・クバルシ、イケル・ブラボーなどはその代表例である。ディフェンスラインから前線まで、テクニックと戦術眼を備えた選手を揃えることに主眼を置く現在のスペインの育成は欧州内でも傑出している。
クラブシーンにおける「スペイン」
クラブシーンにおいてでさえ、2024年はスペインの年であった。ウェンブリーで行われたチャンピオンズリーグ決勝ではレアル・マドリードが優勝。欧州の主要リーグで優勝したクラブをみても、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマン、レヴァークーゼンの監督を務めたのはスペイン人だった。カンファレンスリーグ優勝を果たしたオリンピアコスでさえ、監督を務めたのはスペイン人である。
実際に獲ることはないだろうが、2024年にバロンドールを受賞されるべき選手は間違いなくロドリだろう。彼のプレーひとつひとつが素晴らしく、試合への影響力も絶大だった。ロドリはラ・マシア出身の選手ではない。FCバルセロナ以外にも、スペインには優れた育成機関を持つクラブが多く存在する。アスレティック・クルブやレアル・ソシエダ、オサスナなどのバスク地方のクラブ、バレンシアやビジャレアルなどのバレンシア地方のクラブなどは一部の例に過ぎない。
ドイツサッカーの課題
なぜスペインがこれほど優れた育成を行うことができているのか、DFBは今一度考えなおす必要があるように思う。2018年のワールドカップで予選敗退した際、ドイツでは若手が台頭していないことが大きな課題として取り上げられた。ヨアヒム・レーヴ元監督はトーマス・ミュラーやマッツ・フンメルスなどを代表に招集しないことで若手の成長を図るも失敗。
2024年のユーロでは、世界屈指の若手タレントであるヴィルツとムシアラが活躍したことで、ユリアン・ナーゲルスマン監督率いるドイツ代表の印象は非常にポジティブなものとなった。しかしオリンピックと19歳以下のユーロには出場すらできていないのが、ドイツサッカーの現状だ。タレントも育っているし、指導者のレベルは世界屈指である。それにも関わらず、2024年のサッカー界でドイツはスペインの後塵を拝した。
ナーゲルスマン監督への期待
ドイツ代表は過去2度のワールドカップにおいて、グループリーグ敗退という失態を犯している。2年後の2026年のワールドカップで同じ轍を踏むことは許されない。今後はじまる欧州予選においてナーゲルスマン監督は様々なことを試すだろうが、彼に期待されるのは何よりまず「トニ・クロースに代わるプレーメイカーを見つけること」だ。
現状、明確は候補はいない。レオン・ゴレツカは信頼を得られておらず、アンジェロ・シュティラーやマックス・エッゲシュタイン、デニス・ガイガーなどは代表での実績があまりに未知数。筆頭はロッコ・ライツだろうが、タイプが違ううえにいささかタレントの限界が見え隠れする。
そうなると残りの策はヨシュア・キミッヒを中盤に戻すか、ユリアン・ヴァイグルを代表に呼び戻すか、あるいはアレクサンデル・パブロヴィッチやアサン・ウエドラオゴを抜擢するかといったところだろうか。どういう手段を講じるにしても、ドイツはナーゲルスマン監督のアイデアに縋る必要がある。スペインに打ち勝つチームを作ることができなければ、ブラジル代表と並ぶ5度目のワールドカップ優勝など「夢のまた夢」なのだから。
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