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病院で見かけた光景、私はご自愛に喫茶店のナポリタン

半月ほど前から手の親指のあたりがひきつるように痛むことが多くなってきた。軽い腱鞘炎かと思ってそのままにしておいたのだが、症状が少しずつ悪化してきたので病院へ行くことにした。おそらく原因は連日のPC作業に加え、スマホゲームのイベントのために急遽増やしたプレイ時間のせいだ。PCもスマホゲームも無駄に力を入れてタイピングしたり、タップしてしまう癖があるためにここまでひどくなってしまったのだろう。

何しろ私はもしPCメインの仕事に就いたら「キーボードがうるさいんですけど」と苦情をもらってしまいそうなくらいの強打者だ。タンターン! と音を立ててしまう理由というのは人それぞれだろうけど、私の場合は手先があまり器用ではなく力加減がうまくできないためではないかと思う。そして気付いたらこんな状態になってしまった。

利き手ではない手でつり革を握る。



病院に着いて症状のことをどうやって問診票に書くべきかと悩んでいると、目の前を小学生くらいの女の子が通った。お母さんと一緒に来ていて片足をできるだけ地面につかないように気をつけながら歩いている。見るともなしに見ているとお母さんと話していた女の子は首を横に振り始めた。

「足が痛いんだし、車椅子頼もうか?」
「いや」
「歩きにくいでしょ?」
「いやなの」

女の子がそう繰り返していると、車椅子を押した看護師さんがその場にやってくる。同じことを看護師さんが訊くものの、やはり女の子は譲らない。先程よりも困惑したような表情になるが、それでも首を振る。看護師さんは体をかがめて女の子と目線を合わせた。

「こんな風に歩いているともっと痛くなっちゃうんだよ」
「…けど」
「何か理由があるの?」
「恥ずかしい…」

女の子はそれだけ言うと俯いてしまった。「あらら」と看護師さんはお母さんと顔を見合わせると、少し笑った。その後何と言ったのかはわからないけど、診察室に呼ばれた時には結局車椅子に乗っていった。ロングヘアの可愛い女の子だった。


私もかつて母と病院に通っていたことを思い出す。家から遠く離れた専門的な病院に行っていた。未熟児という訳ではないものの、生まれた時から体が弱かった。定期検診は数ヶ月に一度あり、その度に長い時間を電車の中で過ごしていた。

立っている時に目の前の席が空くと母は「座りなさい」と言うのだが、私は何となく座りたくなかった。あの女の子と全く同じ理由で「いや」と言っていた。他人の目を気にし始める微妙な年齢とでもいうのだろうか。あの女の子に対してと似たような気持ちをかつての自分に対しても抱く。

レントゲンを撮り、診察が終わるとあの女の子がお母さんと売店にいるところを見掛けた。先程とは打って変わってにこにこと笑っている。何かお菓子を買ってもらっているようだ。病院で頑張って診察を受けたことへのご褒美か何かかもしれない。私も気付いたら口元がふとゆるんでしまっていた。




帰りの予定を変えて寄り道をすることにした。電車に乗って少し遠くへと向かう。立ち寄ったのはとある喫茶店だ。私はこういうお店にあまり来ないのでよくわからないが、不思議な時間の流れ方をする場所だと思っている。店内ではゆったりとした音楽が聞こえて来て雰囲気もいい。

ずっと食べてみたかったナポリタンを頼んでみた。今まではティータイムにしか来たことがないため食べたことがなかったのだ。いつかは…! と思っていた。ところが先に運ばれてきたフォークを見て「腱鞘炎の私にナポリタンはちゃんとフォークに巻けるのか」と思い始めた。

少し不安になったが、どうやら大丈夫だったようでするんと巻くことができた。けどたまにきゅっとなる痛みもないわけではなく、ちょっと「うっ…」となりつつ食べた。何となく恥ずかしくなり、あまりゆったりすることはできなかったけどおいしかったので行って良かったと思う。


自分にご褒美をあげることを久しく忘れていたような気がする。幼い頃病院に通っていた際にはいちご牛乳などを買ってもらったものだが、長時間(二時間以上)診察を待っていた自分に対してご褒美をあげようと思った。何だかいいことをしたような気持ちになってほっこりした。


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