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機械による自然——KulfiQ『レイニーレイ』
雨が好きだ。
正確に言えば、
深夜、家の中にいて、窓の外から聞こえる、終始同じ強さで降り続ける、雨の音が好きだ。
そこには強い安心感があるから。
確かな音が緩和する、深夜起きていることへの微かな罪悪感。
止まる気配のない水の流れがもたらす、ある種の生。それはちょうど、血液みたいだ。
正確に打ち続ける機械の音も、たまに、そんな逆説的な「機械がゆえの生」を与えてくれる。
*
KulfiQ『
思い出を描く——ヨルシカ『レプリカント』
大人になった。
社会人になっていくらか経った。
今でも、高校生の時に出身中学でのことを喋るように、学生時代のことを語ることができる。
けれど、「大学の時に」と口にしたときほんの僅かな違和感に気付く。どうも中学と高校のように陸続きにはなっていないような感覚があるのだ。
軽率に中学の部活に遊びに行っていた高校時代ほど物理的に「戻る」ことはできないとしても、そもそもどの年代も不可逆だ。
やってい
転調する強さを——KulfiQ『クラウン』
調性に、色を見る。
共感覚というやつなのか、はたまた単にその調の曲のイメージに引っ張られているのか、レモンのレだから黄色なのか。
よく分からないけど、ドレミファソラシドの音階だけでも筆でさーっと水彩絵の具を塗るように色が伸びていくから調は素敵だ。
(だから、カラオケで軽率にキーを変えるのは嫌いだ)
そんな調を塗り替えるのは結構労力が必要で、クラシックでは大抵調号が同じとかの近い調と行き来す
題名のない人生——KulfiQ『無題』
タイトルを付けるのは難しい。そのくせ、やたら目立つ。
このnoteも、幼い頃に作った曲も、描いた絵も、いやメールですら、何か作れば決まって「タイトルを付けろ」と言われる。実際、今はタイトルに「——KulfiQ『無題』」とだけ書いた状態でこのnoteを書き進めているし、今のところタイトルは全く思いついていない。
メールならまだいいだろう。
「○○の日程のご相談」とか、「△△の確認依頼」とか、本文
流れる雲の音——KulfiQ『ルーゲルダ』
もともと、人間の歌う歌が苦手でボーカロイドを好きになった。
苦手な理由はいつかきちんと言語化したいなとは思っているのだけど、とりあえずひとつに「知らないひとの感情がやたら近く迫ってくるから」というのがある。
イヤホンから聞こえる声は随分と近くて、急にそんな泣きそうな声で恋歌を歌われたりするとびっくりしてしまう。
音の並びも言葉も、それだけでとても強くて、感情を込めて盛り上がらなくたって、声を
落ち着いた支配の救い——ヨルシカ『逃亡』
根が子供なので、人前で弾くなら音がたくさんあって激しくてテンポが速くてかっこいい曲を弾きたい。
それは、自分でその勢いを制御できてこそかっこいい。
分かっている。頭では分かっているけど——早く早くと、音が誘惑する。
焦らせてくるわけじゃない。
速い方が楽しいぞって、手招きされる。
何度だってそれにつられて、何度だって崩壊しかけた(した)。
後には反省するんだけど、それでも、ついていけるかギリ
アンコールを生きてる——ヨルシカ『エイミー』
演奏会のアンコールが好きだ。
それも、とびっきり明るくて楽しいやつ。
吹奏楽をやってた人に手っ取り早く伝えるなら、「『宝島』みたいな曲」。
(それがお約束であるとしても)アンコール、と呼ぶ客席の手拍子の高揚感ももちろん好きなんだけど、それより何より、「もう終わる」ことを誰もが知りながら、馬鹿みたいに明るい音で笑って叫んで息を吐き切るその様が、どうしようもなく好きなのだ。
何なら、「アンコール
迷いと決意とフランス国歌と——ドビュッシー『花火』
一瞬の煌めきのために昇り、堕ちて消えていく。それを見て、人は手を叩いて喜ぶ。そういうものを、私は多く知らない。
夜、少しだけふらつきながら、高く高く昇る。覚悟を持って息を止める一瞬の間。——次の瞬間、迷いなく一気に空にこぼれていく。深く刻むような低い音が響き、緊張からの解放。
その様は本当に、本当に綺麗で、そして最後まで煌めいて消える。
そう、花火は美しい。それと同時に、背後にはそのための覚悟
夏とは、青いことだ ——n-buna「アイラ」
青くない。
カレンダーを見れば8月で、いつからか足元に死にかけのセミがいないかヒヤヒヤしながら歩いていて、外の日差しは容赦ない。
だけど、「夏だなあ」と思うには何かが足りない。
そりゃ今年は——2020年の夏は例年と違う。でも別に元々夏だからって海に行ったりプールに行ったりフェスに行くようなことはしていない。でも何かが足りない。
そう、青くない。
何をもって青さを得ていたのか分からないけ
穏やかな犯罪 —— ヨルシカ 《盗作》
この間、電話をかけた先の保留音がヴィヴァルディ《四季》より「春」だった。もう7月も終わりそうな頃のことだ。おまけにフレーズの最後には勿体ぶるようにritして、また頭から春が始まる。いい加減、そろそろ夏にしてくれよ。
夕方に鳴ったメロディがグリーグ《ペールギュント第一組曲》より「朝」だったことに苛立った「俺」の父親に、そんなことを思い出して笑った。
ヨルシカの3rd full album《盗作》
音楽で生きてはいかないけどさ、
いつだってふと机を弾く指は、一度でもピアニストを志したプライドで。最高にかっこいい音をこの手で奏でるのがやっぱり好きで。音楽じゃ生きられないけど、僕には音楽しかない。
*
幼い頃、将来の夢に「ピアニスト」と書いていた。ただ、本気でなれるとは結構早い段階で思っていなかった気がする。同じ教室の子たちがめちゃくちゃ上手かったのだ。
それでも、合唱コンの練習では一目散にグランドピアノに駆け寄ったし、大