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やまと言葉を哲学しよう

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しばらく昔に書いて発表した論文集。権利者オーケー。
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#浮舟

越境する「もののあはれ」(3)

越境する「もののあはれ」(3)

~「人形(ひとがた)」というメタファー、その源泉と射程~

1  「浮舟」の悲劇ー簡単な小説化を通しての前置き

 人形(ひとがた)は悲しんだ。
 その虚ろな目からは、熱い涙の粒がぽろぽろとこぼれ落ちていた。その空洞の体———それまで誰からも軽々と扱われてきたその体———には、急に重い中心ができたかのようだった。みぞおちに鉛の塊がのしかかり、彼女の体を垂直に地面に抑え付けていた。その脳髄から指の先

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宣長と「あはれ」の変容

宣長と「あはれ」の変容

〜閉じた言語論と開かれた物語〜

『源氏物語』の「あはれ」

 本居宣長が列挙して見せたように、『源氏物語』で「あはれ」の語が出てくるときは大抵、「ただ自然と思う心の情」「心につつんで忍びえぬ思い」「女童のごとき弱くみれんな心」(『紫文要領』巻上、岩波文庫)という直裁的な意味に受け取ることができる。少なくとも光源氏生前の巻までは(第40帖「幻」)。しかし、筋の中心が京都を離れた途端(第45帖「橋姫

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