- 運営しているクリエイター
#庭
うつむいた花に見下ろされながら。
少年はちいさくなって
クリスマスローズの小径を
しばらく歩き、腰をおろした。
うつむいた花に見下ろされながら
風と土の匂いをかいだ。
あたまとこころの中が
風と土の匂いだけになった。
やがて少年は透き通って
見えなくなった。
風か土のどちらかになった。
今日も一日を繕いながら。
クマは、取っ手がとれて、くっつけたティーカップで、アールグレイティーを飲んだ。緩んだボタンをつけなおしたコートで病院に行った。近くに良い本屋を見つけた。帰りに、出かけなくなった親に春物のピンクのセーターを買った。ちいさな庭でひっそり咲いた花の写真を撮った。今日も一日を繕いながら。
このままならない庭をそよがせて進む。
きつねは思った。ままならないし、3歩進んで2歩下がるのがおれの日々なんだろうな。上手くいくのをイメージしすぎるとよくない。今日もなにかあるだろうしなにか後退もするだろう。気取らずに実直に俺のこのままならない愛らしい庭をそよがせて進もう。
庭はきみの帰りを待っている。
クマが子ぐまに言った。きみが気にかけなければいけないのは、その悲しみや虚しさ、みじめさのことではなく、きみのこころの中の庭のことさ。庭はきみの帰りを待っている。きみは庭に戻り、水をやり、枝を間引き、さまざまな草花に様子を伺う。草花たちがきみに、おかえり、ありがとう、と言う。
「ちいさな庭のあるちいさなホテル」
「#ちいさな庭のあるちいさなホテル」
世界の果てのどこかに
ちいさな庭のある
ちいさなホテルがあった。
宿泊者は野原のような草花に
気持ちを解いた。
朝食やブランチは
庭で鳥の声を聴きながら。
近くの評判の良い
ベーカリーから
あつあつのパンが
届けられた。
花は咲いているものではない。
クマが子ぐまに言った。
ほら、冬が育んだ
冬の子どもだよ。
植えたのが去年の10月で
咲いているのは
1、2週間。
でもずっと一緒にいた。
花は咲いているものではなく
咲くまでと、咲いたときと、
枯れるときまで
ずっと一緒にいるもの。
だから生きることも
良い時だけを見てはいけないよ。
ローズマリーの小径にそって
ローズマリーの庭で
育った男の子がいた。
その小径にそって
そっと出かけ、帰ってきた。
男の子には例外にもれず
ハードな運命が振りかかった。
ただどんな時も男の子は
ローズマリーの小径にそって
そっと出かけ、そっと帰ってきた。
なによりも
ひんやりと薫る静寂を
こわさぬように、そっと。
緑に透ける手のひら。
父がつくっている
ゴーヤ棚。
蔦用の柵の
ひとつ目を地面に立て
ふたつ目をひとつ目の
上段につなぎ、
一階の屋根にかける。
あとはゴーヤたちが
元気に駆け上がり茂る。
こんな神秘的な風景
作り出すなんて
父とゴーヤを
尊敬する。
こんな音楽できないかな。