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自分だけの散歩道がある

私は学生時代に金欠を理由に自動車の免許を取得しておらず、最初の免許はアメリカ・テキサス州に移住してから、英語もまだろくに喋れない状態で0歳児を抱えながら取得しました。私たちが住んでいたヒューストンという街はアメリカでも人口第4位の大都市で、高速道路がたくさん走っている街としても有名です。最大車線は7〜8とか横に広がり、朝夕は大渋滞。みんな時速80マイル(約120キロ)は余裕で出しながら走り、めちゃくちゃ複雑に車線変更してくるし運転も荒いため、アメリカでも事故発生率が高い州としても有名。ここで2年運転して無事故…ってわけではなかったですが(笑) 、怪我なく帰ってこれたのは本当によかったなぁと思います。

一方私がデンマークに住んでいた2年半、コペンハーゲンの公共交通機関がとても発達していたことや自動車税が鬼高いということもあり、2年半基本車なしで徒歩と公共交通機関のみという、テキサス時代とは全く異なる生活をしていました。コペンハーゲンはまちがそんなに大きくなく、場所によっては電車やバスを使うより徒歩のほうが心地いい場合もあるくらい。街並みもきれいなので、歩き回ることがむしろすごく良い気分転換になります。

そのため息子の幼稚園の送り迎えや、仕事の打ち合わせなど、とにかく毎日のようにまちのなかをたくさん歩き回る日々。1日のうちはてどれくらい歩いたかな。でもそんな時、ふと見つけるんですよね、お気に入りの"道"を。あるいはわざわざ遠回りして探したりもします。そしてちょっと奥まったところに、歩いているだけでなんだか心地の良い【自分だけの散歩道】を作るんです。



幼稚園のすぐ裏側が墓地だった。

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<バルビューにあるヴェストレ墓地>
墓地をXの字でクロスさせる道。
通らなくてもいい道だったけど、
息子とわざわざここを通るのが好きでした。

コペンハーゲンにいる間、2回引っ越して3箇所の家に住んだのですが、息子の幼稚園は最初の家からすぐ徒歩5分のところにあるとても心地の良い素晴らしい幼稚園でした。あまりにお気に入りなので引っ越してもなおそこに通い続けたわけですが、一点だけ日本人的にはどうしても気になってしまったこと。それは

幼稚園のすぐ裏が墓地

だったこと。そもそも最初コペンハーゲンに引っ越す前、マップで近所の様子を調べている時に「え!?墓地の近くなの?!」と思ったんですが当時その場所以外選ぶ余地はなし。しぶしぶ引っ越しをしたんですが、デンマークの墓地って、日本人のイメージするそれとは全然違ったんです。


墓地を散歩する人たち

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<ヴェストレ墓地内には小川もあった>

デンマークの墓地は、お墓のある場所であるというイメージよりも、公園のようにひらけた場所。朝には犬を連れて散歩する人、ランニングする人。昼間もあちこち人が歩いていて、なんならちょっとひらけた場所では芝生に座り込んで休んでいる人もいます。もはやただの公園です。

墓地は手入れが行き届いていて、自然も多く、息子と一緒にちょっと奥まった道へ行って、冬に薄く氷づいてきた小川をぱりんと割って遊んだりもしました。ある日は、うすく積もった雪に、何かの生き物の足跡がありました。(うさぎ?)

これは個人の感想でしかないですが、日本だったらお墓で遊んだり散歩したりなんてしないと思うのですが(肝試し以外)、デンマークの人たちにとって、なんだか生も死も自然と隣りにある、等価なものとして扱われている印象をうけました。なんかものすごくそれがすーっと心に入ってきて、あー、眠るならこういう墓地がいいよなぁなんて思ったり。


自分だけの"道"

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そして見つけちゃったんですよね。ヴェストレ墓地の奥深く。こんな美しい天まで続く道。もちろん成長過程で枝の切り落としなんかはやっていると思いますが。でもこの空に向かってまっすぐ伸びる枝。

美しいという感情を抱くことができる瞬間は、
この上なく貴重で何よりも大切にすべき時間。

本当にまっすぐまっすぐずーっと伸びるこの道、墓地の奥手にあることもあって、人通りも少ない。特に朝、息子を幼稚園に送った帰りにここへ来ると、この道を独り占めです。

道って、人の為にあるもの。
人をどこかへと導くもの。

そんな誰しもにひらけた場所を、独占しているこの贅沢な時間が、たまらなく好きで、わざわざぐるーっと遠回りしたりしていました。この道を通っているとなんだか魂がすうっと浄化されて、また新しい出逢いに巡り合えそうな予感がしてました。そんな自分だけの特別な散歩道がこの世に存在するというだけで、心が豊かになれる気がします。


あと半年もしないうちに、またお引越しが待ってます。
また街探検して、自分だけの散歩道も、見つけなくちゃなー。



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