見出し画像

イタリア旅。 |陸の孤島へ 〜チヴィタ・ディ・バーニョレージョ編〜

大学生の時、イタリアのボローニャという街に留学していた。

滞在期間はおよそ10ヶ月。留学生として、ボローニャ大学の講義に忍び込み、好き勝手に勉強して過ごしていた。

これほど長く海外に滞在する機会は、おそらく二度とないだろう。この機会に、思い切り旅行しなければ損だ。そう考えるのは必然だった。


私の前には、ふたつの選択肢があった。

ひとつは、EU圏に滞在している利点を活かして、ヨーロッパの国々を周遊すること。もうひとつは、イタリア中心部のボローニャに滞在している強みを活かして、イタリア国内を縦横無尽に旅行すること。

悩んだ末に、私は後者に決めた。

人生で二度とイタリアに来られなくなっても後悔しないくらいに、イタリアを堪能することにした。結果として、有名どころからマイナな場所まで、合計30以上の街を訪れた。


イタリアから帰国し、早いもので3年以上が経過した。

夢中になって旅をしたイタリアでの思い出を、これから「イタリア旅。」として、振り返っていきたい。時が経って記憶が薄れないうちに、旅を通じて感じたことを、ちゃんと書き留めておこうと思う。



チヴィタ・ディ・バーニョレージョを旅する。


陸の孤島

「チヴィタ・ディ・バーニョレージョ」は、ウンブリア州との州境にほど近いラツィオ州北部の小さな町で、近年注目度が高まっている観光地だ。

「バーニョレージョ」という町の中の「チヴィタ」という集落が、切り立った絶壁の上にぽつりと佇んでおり、まるで町が天空に浮かんでいるかのような、幻想的な景色を望むことができる。

「イタリアの最も美しい町の会(BBI)」にも登録されており、宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」のモデルになったという逸話もある。


そんな美しい景観を有するチヴィタだが、2019年時点では交通手段が十分に整備されておらず、集落に辿り着くまでかなり苦労した。旅行資金に余裕がある方は、ツアーに参加することを強くおすすめする。

ツアーに参加する、あるいは自分で車を運転するといった手段を除き、自力でチヴィタへ行くためには、「オルヴィエート」という町から出ているバスを利用する必要がある。

バスのチケットは、オルヴィエート駅の構内にあるバールで購入することができる。往復分のチケットは2.6€(2019年時点)。

チヴィタ行きのバスは、オルヴィエート駅手前の噴水広場周辺に発着する。

オルヴィエート駅。中央の噴水が見える範囲内で待っていれば問題なし。

注意すべきは、バスの本数の少なさ。地元民も通勤通学などで利用するごく普通のバスなのだが、ただでさえ本数が少ないうえに、私はイースター休暇中に訪れたため、さらに本数が減らされていた。

駅構内のバール奥に掲示されていたバスの時刻表。一応日本語表記もある。
9:20のバスを逃したら、次のバスが13:00まで来ないという衝撃の本数の少なさ。
チヴィタからオルヴィエートに帰るための最終バスが17:25発という点も注意しなければならない。

私の場合は、乗るつもりだった9:20発のバスがなぜか来ず、次の13:00発のバスが来るまで、オルヴィエートで待ちぼうけを食らった。そんなオルヴィエートの旅の様子は、また別の記事で。

こちらの青と白のバスに乗車。
席数はかなり多めだったので、よほど乗客が多くない限り、
乗車できないということはないだろう。

バスに乗り込むことさえできれば、あとは終点まで、30分ほどバスに揺られているだけでOK。

バスを下車したら、案内に従って少し歩く。すると……!




チヴィタが姿を現す。

緑豊かな崖の上に、天空の町が浮かんでいる。なんとも壮大な眺めだ。これまでに見たことのないような絶景に、思わず息を呑んだ。

バールや遊具のあるこちらの広場から、チヴィタの全景を望むことができる。

景観を十分に堪能したら、いよいよチヴィタの内部に潜入だ。


チヴィタと下界を結んでいるのは、たった1本の橋のみ。まさに「陸の孤島」

橋の手前で5€(2019年時点)の入場料を支払い、ついにチヴィタの中へと足を踏み入れる。


ここからは、徐々に近づいてくるチヴィタをお楽しみください。

渡っている最中はあまり気にならなかったが、橋はかなりの高さだった。

周囲の眺め。ひたすら山。


そしてようやく、チヴィタの玄関口である、サンタ・マリア門に到着!

ここからいよいよ、チヴィタ・ディ・バーニョレージョの全貌を明らかにしていこう。



死にゆく町

チヴィタ・ディ・バーニョレージョは、他では見られない、美しい景観を持つ場所だ。しかし、そんな輝かしい特色の反面、「死にゆく町」という不吉な異名を付けられてもいる。

今から2500年以上も前、イタリア中部の先住民族であるエトルリア人によって、山の上に築かれたチヴィタ。雨風の侵食や自然災害などによって、周囲の大地が少しずつ崩壊していき、現在のような、「陸の孤島」状態になったと言われている。

崩落による町の縮小に伴って住民は減少し、現在集落内に住んでいる人は、数十人足らずだという。チヴィタは、外から働きに来る人たちの支えによって成り立っているのだ。

さらに、かろうじて残っている現在の敷地も、常に崩壊の危険性を抱えている。そういった意味でチヴィタは、「死にゆく町」と呼ばれているのだ。ヴェネツィアの海面上昇問題と同じで、将来的に観光することが難しくなってしまう可能性もある。


さて、度重なる崩落をかいくぐってきたチヴィタの町は本当に小さく、1時間もかからずに町全体を見て回ることができる。

町の入り口にあたるサンタ・マリア門をくぐった先には、このような石造りの世界が広がっていた。観葉植物が程良いアクセントになっている。

外の世界と隔離されているためか、まるでここだけ時間が止まっているかのような、古代の町並みが残されていた。

数はわずかだが、町の中にはバールやリストランテ、宿泊施設もあった。
完全に廃墟化しているわけではない。

サン・ドナート教会。その起源は、なんと7世紀まで遡るという歴史ある教会。

サン・ドナート広場。小さな広場だが、それでもチヴィタ内では最も大きな広場だ。

低い位置から見上げると、町が崖っぷちに造られているのだということを改めて実感する。
こんな建物には絶対に住めない……。
町の奥に進むと、長くて暗いトンネルがある。
水道を広げるために作られたのだとか。


外から眺めるだけでも十分素晴らしかったチヴィタだが、内部を実際に歩くことによって、古い時代に取り残されてしまったかのような、タイムスリップに近い旅をすることができた。

皆さんも、「死にゆく町」が本当に死んでしまう前に、ぜひ一度訪れてみてほしい。


ちなみに、チヴィタからオルヴィエートへの帰りのバスは、行きのバスで降りたのと同じバス停から発車する。

最終バスの時間が異常に早く、集落からバス停までの距離も意外にあるため、午後から観光する場合は時間に注意だ。



↓おすすめ記事です!次の連休は、ブックホテルでゆっくりと。

↓旅に関するおすすめ記事をまとめています。

↓本に関するおすすめ記事をまとめています。

↓読書会のPodcast「本の海を泳ぐ」を配信しています。

↓マシュマロでご意見、ご質問を募集しています。

この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?