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今日も、読書。 |子供も大人も、見ている世界は同じなのだから

ブレイディみかこ|ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧。まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、みんなぼくの大切な友だちなんだーー。ぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。

あらすじ


ものすごく有名な作品なので、説明は不要かと思う。2019年のYahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞作。新潮社のベストセラーになっている。

著者のブレイディみかこさんは、イギリスのブライトン在住。アイルランド人の夫と、息子の「ぼく」と3人暮らし。現地で保育士として働きながら、ライターとしても活躍されている。


文庫版の解説、ときわ書房志津ステーションビル店にお勤めの日野剛広さんの文章が、とても心に残っている。私が本作を読んでいて、まさに感じたことだった。

私たちはいつの間にか自分がかつて子どもだった、若かった、ということを忘れてしまう生き物らしい。しかし幼い、若いということが必ずしも未熟という意味合いだけではないという記憶は誰しもあるはずだ。うまく伝える言葉を持たなくとも、その時点でみた世界が間違っているなどと誰に言えようか。

p331より引用

発言が幼いからといって、子供が頭の中で考えていることが、大人である私たちよりも未熟だと、誰に言えよう。

子供たちは、世間擦れしていないまっさらな頭で、日々たくさんのことを思考している。その思考は得てして、大人のそれよりも核心をついたものだ。

子供たちは、経験が足りなくて、それをうまく言語化できないだけだ。彼らは大人よりもずっと豊かな感性で、柔軟な心で、広い視野を持って、世界を見ている。

これは以前、神沢利子さんの『流れのほとり』を読んだときにも、感じたことだった。


『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、ブレイディみかこさんは、そのことを理解している。彼女の息子である「ぼく」と、みかこさん自身は、同じ目線に立って世界を見ている。

ぼくが中学校で体験した、いじめや差別などの問題について、みかこさんは考えや教えを上から押し付けたりしない。ぼくと一緒に悩み考え、ぼくの行動を尊重し、そっと背中を押してあげて、すぐ後ろで見守っている。

ぼくは、ハンガリー移民2世のダニエルや、貧しい家庭のティムら、マイノリティの友人たちと、まっすぐな心で友情を育んでいく。彼の逞しくて直向きな社会への向き合い方は、大人の私たちが見習わなければならないものだ。


ぼくは作中で、中学校の同級生が差別的な言動をすることに対して、「頭が悪いのだろうか」と、率直な疑問をみかこさんにぶつける。それに対してみかこさんが、ぼくに贈った言葉が印象に残っている。

頭が悪いってことと無知ってことは違うから。知らないことは、知るときが来れば、その人は無知ではなくなる。

p43より引用

差別は無知から生まれる。無知は頭が悪いことと同義ではない。「無知」という言葉の通り、「知らない」だけなのだ。

いつか知るときがくれば、その人は無知ではなくなる。知ることによって、想像ができるようになる。

もちろん、差別は良くない。その前提があるうえで、差別をする人に対して、「差別する人」と乱暴にラベルを貼って隔絶するのも、きっと良くない。それもまたひとつの差別なのだと思う。

その人がただ「知らない」だけなのだと思えば、その人に知ってもらうためにはどうすればいいか、というアプローチが生まれる。みかこさんの考えは、差別をはじめとする社会問題の根本に迫る、とても大切なものだと感じた。


先ほどの「子供の考え」も同じ話。子供たちは、自分が考えていることをきちんと言語化する術を、「知らない」だけだ。

では、それを知ってもらうためには、どうすればいいだろう。そんなアプローチから、教育を考えていくと良いのだと思う。



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