「蝋は、とても肉体的なものだ。蝋は、肌なんだよ」 2020/12/17

 終日在宅である。家を出る気分にならず、昔買っておいたターキレッグを温めて食べた。温めたのだけど、芯の方はまだ少し冷たく、あったか冷たい変な感触だったのだけど、温め直すほどでもないし何よりも面倒だ、そう言う気分の時もある。おまけに馬鹿げた話を聞かされたりすると、何もかもが面倒くさいと言う気持ちになることもあるが、まぁそんな日はお酒でも飲んで、無理せず、家事などもサボるに限る。

 エドワード・ケアリー『おちび』を読み、読んで、読み終わった。もはや余計なことを気にせずに読むことに没頭するぞと言う意気込みの読書だった。読んでいる間は、現実世界の煩わしさとは無縁だ。大人は色んなものに、簡単に振り回される。

 大人はたくさんの間違いを犯す。大人は不完全なものだ。たとえ子供より長く生きてはいても、子供たちのお手本となるべき者であっても、不完全なのだ。確かに体は大きいけれど、大きさは労せずに手に入れた特権にすぎない。でも、大人は他人の影響を受けやすく、簡単に振り回される。先生はこのときにはもう未亡人にすっかり操られていた。
エドワード・ケアリー『おちび』P.115

 元々一人暮らしで臓器の模型を蝋で作っていたクルティウス先生は東條した時はものすごく異様で不穏な人だったのだが、おちびと出会い、パリに出てきたことで、段々、普通の人になっていってしまうのだけど、この台詞には往年の狂気が滲み出ていていい。在宅勤務になってから、蝋燭を買ってたまに火をつけるようになったのだけど、蝋は、肌なんだよ、はなかなか出てこない。

 石膏というのは、生命のことは何も知らないんだ。 死の物質だ。光が差 し込んでも、あるのは不毛だけだ。個性のない事実を暴き出すだけだ。 石膏は毛穴まで写せるし、皺も正確に伝えられるし、そっくり真似することができる。しかし、個性はないんだ。水と混ぜると、石膏の粉はしっかりした石膏になるが、水と粉を混ぜるときに一瞬熱を発する。だが、この熱には情熱が入っているわけじゃない。熱いだけだ。そう、なにもない熱さだ。 肌を理解しているわけじゃない。ところが蝋は、とても肉体的なものだ。蝋は、肌なんだよ」

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